05-39.痕跡
「この地には僕の使い魔を放っていました」
地上に降り立ち、周囲を観察しながら説明を始めてくれた魔王様。
「先程、丁度ホノカ様が魔術を放ったのと同タイミングで、おそらくこの地表ごと僕の使い魔が消え去りました」
それをへーちゃんがやったのか。
アイちゃんの姿はこの近くにはないようだ。
へーちゃんの下へ向かったのだろう。
「ソーカが神の下へと招かれたと聞いて、もしやとは思っていたのです」
ソーカが?何故?
「ですが、このような事になるとは思いも寄りませんでした。我々は何か勘違いをしていたのかもしれません」
近くからリコリスの気配がする。
何かを探し回っているようだ。
我々というのはリコリス、いや、大精霊達を含むのだろう。
「ロー、いえ、今更隠す必要もありませんね。
先代守護神クロノスは、死後別の世界へと生まれ変わりました」
突然話しが飛んだ?
クロノス?
そっちには聞き覚えがある。
ただ、ローちゃんという名とは別の理由だ。
クロノスって時間とかに関係のある神様じゃなかった?
前世の記憶にそんな知識が残ってるみたいだ。
「この地に現れた予期せぬ侵入者の正体はクロノス神です。
かの者は放りだしてしまった大精霊達の様子を見る為に、再びこの世界を訪れたと主張していました」
予期せぬ侵入者、アイちゃんが警戒していた異世界からの侵略者の事だ。
かつてこの世界の人種族全てを巻き込んだ大戦。
そしてそれを引き起こした外神。
その過去の再現と成りかねない侵入者を排除しようとしていた。
アイちゃんはその大役を私達に託そうとしていた。
けれどそれもまた、勘違いだった。
魔王様はなんで正体を知っていたの?
それってリコリスもだよね?
へーちゃんとアイちゃんは知らなかったはずだ。
まさかリコリスが意図的に情報を隠したの?
「クロノス神はホノカ様を自身の夢の世界に招きました」
夢?
だから私は覚えてないの?
寝ている間にクロノスとやらと会ってたから?
「ホノカ様との繋がりを利用して、大精霊達との再会を果たしたのです」
そっか。それでベット。
私達が纏めて寝かされた後にリコリス達が私を慕ってくれるようになったのは、クロノスとの再会が理由なのか。
つまり、大精霊達はそれを恩だと思ってくれたわけだ。
大好きな主に会わせてくれた私は、大精霊たちにとって恩人だったのか。
「クロノス神は忠告していました。
現在の神に自分の存在を知られてはならないと。
必ず取り戻そうとするはずだからと。
例えボースハイトと争ってでも。
そしてそれは、かの大戦へと繋がりかねないと」
今度もまた神対人間か。
けどそうはならなかった。
「僕達では知ることが出来ません。
現神は既にクロノス神を回収したのかもしれません。
その後に報復としてこの地を滅ぼしたのかもしれません。
ですがそうではないのかもしれません。
この地諸共、クロノス神をも滅ぼしたのかもしれません」
へーちゃんがクロノスって神様をどう思っているのか、それはクロノスの側の証言でしか知らなかった。
ボースハイトと争ってでも取り戻したい、つまり、大切に思っているはずだと、クロノスは言ったのだろう。
へーちゃんは何も言ってこない。
この状況で口を閉ざしているのはどういう事だろう。
私には言いたくないような事をしてしまったのだろうか。
私はこの光景に何を思っているのだろう。
正直自分でもよくわからない。
勿論、ボースハイトに想い入れなんてあるわけがない。
滅んだと聞いた所で、喜びこそすれ悲しむはずもない。私はそれだけの扱いを受けてきた。私にはそう思う程度の権利くらいあるはずだ。
けれどそれは、あくまで私を虐げてきた者達に対する感情だ。この国で平和に生きる人々には関係の無い話だ。それら丸ごと消し飛んで素直に喜べる程、私の憎しみは強くない。
そもそも実感が湧かないのだ。
このクレーターの上で沢山の人々が生きていたはずだなんて事は。そしてそれをへーちゃんがやったのだという事も。
私には到底信じられない。
「約定とやらはどうしたのよ?
神は手を出せないんじゃなかったの?」
「わかりません」
それもアイちゃん達に聞いてみないと。
ここを歩き回っても何も見つけられないのかもしれない。
どうしても本当の事が知りたいなら、へーちゃんの下に辿り着いて問い詰めるしかないのかもしれない。
「私が寝てみるのはどう?
クロノスって神様が健在なら、また私を呼び出すかも?」
「流石に今は向こうも眠っていないんじゃないかしら?」
それはそう。
へーちゃんの所にいるにせよ、それ以外の場所に逃げ延びたにせよだ。
そもそも逃げる事なんて出来たのだろうか?
自分でそれが出来ないから、リコリス達が救おうとしていたんでしょ?
「帰りましょう。
今はアイがへーを問い詰めているのでしょう?
私達にはそれを待つことしか出来ないわ」
ミアちゃんの言う通りかもしれない。
けど、今もまだリコリスが周囲を探し続けている。
何か一つでも痕跡を見つけられないかと。
「ミアちゃん達は先に帰ってて。
私はリコリスと帰るから」
「なら私も残るわ」
「ダメ。スーちゃん達も心配してるはずでしょ。
色々説明してあげなきゃだから。
そんな役目、メーちゃんだけに押し付けたくないの。
ミアちゃんも側にいてあげて」
「……ホノカは大丈夫なのね?」
「何が?って聞くのは変だよね。
うん。勿論大丈夫。
この光景を見ても嫌な記憶なんて思い出しようもないし」
「わかった。無理はしないでね」
「うん。ミアちゃんもね。
メーちゃんも。何も気にする必要は無いからね」
「はい。では失礼します。
お帰りが遅ければまた迎えに参りますので」
「うん。お願いね、メーちゃん」
魔王様はミアちゃん、キアラ、ダフネを連れて転移した。
「悪いけど、ヴィーとソーカはもう少し付き合ってね」
「勿論よ、ホノカ。
周囲の探索は任せて。
私も魔法で手伝うわ」
「ホノカちゃん……」
「ああ、そっか。ソーカの話し聞きそびれちゃったね」
メーちゃんが気遣いを欠かすとは珍しい。
それだけ余裕が無かったのだろう。
「大丈夫だよ、ソーカ。
ソーカが悪いなんて事はありえないから。
むしろ巻き込んでごめんね。
いきなりこんな事になっちゃったね。
探索しながら少しお話でもしよっか。
今後のこと、色々考えなきゃだからね」
「うん……」
多分へーちゃんは、ソーカの記憶からクロノスの事を見つけ出したのだろう。もしかしたら私の記憶も抜かれていたのかもしれない。
ソーカがクロノスと会えた機会はきっと一度だけだ。
私がソーカと一緒にお昼寝していた時だろう。
あの時私はソーカと契約していなかったけど、どうやってか夢の世界に紛れ込んだのだろう。ソーカが幽霊に近い存在な事とも関係があるのだろうか。魂がむき出しだから、そういう術に巻き込まれやすかったのかもしれない。スーちゃんベットの上で、私が抱きしめて寝ちゃった事も原因かもしれない。
そんな偶然が重なった結果なら、益々ソーカに責任なんてあるはずがない。むしろ全部私が招いた事だ。
悪いとしたら私なのだろう。
きっと私が迂闊だったせいなのだろう。
とにかく話を聞こう。
アイちゃんと、出来る事ならへーちゃんにも。




