05-37.緊急事態
「何よこれ……」
「この遺跡のコアです」
「なんでコアがあんな化け物なのよ!」
「恐らく魔物を使って産み出したのでしょう。
随分と悪趣味な大精霊がいたものですね」
スーに導かれて辿り着いた部屋は、今まで見たものより一際大きな部屋だった。どうやらここは二階部分のようだ。壁際の細い廊下から下を見下ろすと、階下の床には黒い渦巻きが存在し、その奥にいくつもの目玉が付いた触手のようなものが蠢いていた。
「これを倒せばいいのよね?」
「たぶん~」
「いえ、ミアは手を出さないで下さい。
この渦に落ちれば、二度と這い上がってはこれないでしょう」
「ならアイに任せるわ」
「はい。すぐに終わらせます」
渦の上に飛び上がったアイは、化け物に向かって手刀を振り下ろした。手刀の先には膨大な魔力で形作られた光の剣が生み出され、化け物を真っ二つに切り裂いた。
「!?」
だが化け物は未だ健在のようだ。
切り裂かれた部分からも新たに触手が生えて、渦の中から飛び出してきた。そのままアイに絡みつこうと次々に迫っていく。
「アイちゃん様~!」
「スーはミアを連れて退避を!」
「待ちなさい!
アイ!あなた大丈夫なの!?」
「当然です!」
スーが私を抱きかかえて部屋を飛び出した。
直後に部屋からも大量の触手が飛び出してきた。どうやら私達を追ってきたようだ。廊下いっぱいに目玉付きの触手が迫ってくる。
スーはそのまま飛んで逃げるのを諦めて、ホノカ達の下へと転移した。
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「アイちゃんが!?」
「大丈夫よ。アイだもの。
最悪どうにもならなければ転移で逃げ出すはずよ」
そうだけど……。
でもアイちゃんの攻撃が効かないなんて……。
「恐らくホノカ様の力が流れ込んでいる影響でしょう」
無限の魔力のせいで無限の再生力を持ってるって事!?
しかも増殖機能付き!?
そんなの勝てるわけ無いじゃん!!
「先ずはこの遺跡を出ましょう。
どこかで落ち着いて、ソーカとの繋がりを断たねばなりません」
「ソーカは大丈夫なの!?」
「ええ。問題ありません。
既にソーカの主はホノカ様です」
「議論している時間は無いわ。
ここにだって奴が来るかもしれないのよ」
「先ずは海上へ。
それで一旦様子を見ましょう」
私達はメーちゃんを中心に集まって、海上へと転移した。
「調子は?
おかしなところはない?」
「えっと、うん。
大丈夫。問題ないみたい」
相変わらず魔力は抜けていってるけど、回復速度を上回る程じゃない。
「とはいえ、それも何時まで保つかはわかりません。
やつが力を増して、より多くの力を引き出そうとするかもしれません。それまでに何としてもソーカとの繋がりを断ち切らねば」
「ホノカちゃん……」
「ソーカも力を貸して。
一緒に解決方法を探しましょう」
「うん!」
とは言えどうしたものかしら。
相変わらず私の力はよくわからない事ばかりだ。
そうだ!へーちゃん!
へーちゃんなら何か!……あれ?
「ありがとう、へーちゃん。
呼んでくれたんだね。
けど、先に一声欲しかったな。
皆、心配してると思うよ?」
「うるさい。緊急事態」
私を転移させたへーちゃんが、私とソーカの全身を調べるように、周囲を周りながら覗き込んできた。
うん?
あれ?ソーカ?
一緒に攫われちゃったの?
「へーちゃん、わかってると思うけど」
「壊さない。約束する」
良かった。ソーカを始末するとか言い出さなくて。
アイちゃんみたいに過激なわけではないようだ。
「仕方ない。
これは特例」
暫く調査を続けていたへーちゃんは、ため息をつきながら、面倒くさそうにつぶやいた。
「!?」
「じっとして」
へーちゃんはソーカの頭に手を置くと、目を瞑って集中しだした。
「これでおわり。
後はアイに任せる」
え!?何を!?
問いかける前に、再び周囲の景色が切り替わった。
眼の前にいたはずのへーちゃんは居なくなり、代わりにミアちゃん達が現れた。
「ホノカ!!」
いや、現れたのは私の方なんだけども。
「ごめん、へーちゃんが手を貸してくれたみたい。
この子に何かしてくれたんだけど、説明がなくて……」
「まさか!?」
「メーちゃん?
心当たりが?」
「いえ!そちらではなく!
ああ、いえ!やった事はわかります!」
何だかすっごく慌ててる?
「ソーカと契約を結んだのです!
これは神と魔物の契約です!
つまり、ソーカも魔王となりました!」
「え?」
「ホノカ様!ソーカと再契約を!
私にした時と同じです!
今ならば完全に上書き出来るはずです!」
「えっと、うん!やってみる!」




