05-30.あまあま
「リコリス~?
迎えに来たよ~?」
アイちゃんに送られた先は前にも訪れたあの谷底だった。
本当に今もここにリコリスがいるのだろうか。
全然呼びかけに答える気配がない。
どうしよう。アイちゃんが当てずっぽうで飛ばしたんだとしたら。私、自力では帰れないんだけど……。こんな谷底じゃ水も食料も得られないだろうし、人の住む場所までも距離があるはずだ。そもそもどうやって谷底から抜けたらいいのかもわからない。谷の上部は常に強烈な風が吹き荒れているのだ。あれって飛んで突っ切れるものなのだろうか。それとも真っ直ぐ歩いていけば、どこかから地上に上がれる場所でもあるのだろうか。
「リ~コ~リ~ス~!
出~て~き~て~!」
……。
ダメだ。完全に反応がない。
あかん……これはどっちだ?
機嫌を損ねたせいか?それともやっぱりいないのか?
困った。これは困った。
まさかアイちゃん、私に罰を与えるつもりで?
いや、そんなわけないか。
これからデートに行くところだったんだし。
うん?むしろデートに行きたくないから?
というか、水着を買いに行きたくないから?
もしや時間稼ぎのつもりか?
はぁ……。どうしたものか……。
「ホノカ様」
「リコリス!良かった!居たのね!
ごめんね!私が悪かったから!仲直りして下さい!」
「……」
あれ?リコリス?
そもそも今の声はどこから?
相変わらず姿が全然見えない。
「こっちよ」
「え!?」
どっち!?
まさか!上!?あの暴風の中!?
入ってこいって事!?
しゃあない!腹くくるか!
「待ちなさい!どこ行くつもりよ!?」
「あれ!?リコリス!?
いつからそこに!?」
いつの間にか私の正面に立っていたリコリス。
「最初からいたわ!
ホノカ様ったら全然気が付かないんだもの!」
「最初から?そんなわけ……え?もしかして風に?」
「そうよ!
でも気付けるでしょ!ホノカ様なら!」
「無茶言わないで……」
キアラにだって気付けない自信があるよ……。
ミアちゃんとルフィナは何故か見えるみたいだけど……。
「パスを使いなさい!
そうすればわざわざ来なくても私を呼び出せたはずよ!」
「そうなの?
どうやるの?教えてくれる?」
「仕方ないわね!」
優しい。まだ怒ってるっぽいのに。
「その前に仲直り。してくれる?」
私はリコリスに向かって両手を広げた。
「別に喧嘩なんかしてないわ!」
そう言いながらも、飛びついてきたリコリス。
そのまま私達は思いっきり抱き合って、頬をすり合わせた。
「これから皆で買い物デートに行くの。
リコリスもどう?一緒に来てくれる?」
「行くわ!」
良かった。今はもう声音も機嫌良さそう。
ちょろい……。
「けどその前にパスの話よ!
意識を集中なさい!」
あ、はい。今やるんですね。
これ早く終わらないと、買い物行く時間無くなっちゃうね。
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「ダメダメじゃない!
ホノカ様は勘が鈍すぎるわ!」
うぐっ……そこまで言わなくても……。
「もっと頑張りなさい!
これを使いこなせば何時でも私達を呼び出せるわ!
ホノカ様が危機に瀕してもすぐに助けに向かえるのよ!」
それに喧嘩してもすぐに仲直りできるね!
「取り敢えず一旦帰ろうよ。
後は宿題って事で。私頑張るから」
「ダメよ!
ホノカ様には任せておけないわ!
出来るようになるまで教えてあげるわ!」
「うんうん。ありがとう、リコリス。
リコリスは頼りになるなぁ~」
「当然よ!」
素直……。
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「随分遅かったじゃない。
乳繰り合いでもしてたのかしら?」
「普通に仲直りしてきただけだよ。
待たせたのは悪いと思ってるけど、まだ十分時間はあるでしょ」
意地悪ミアちゃんめ。
どうせミアちゃんなら匂いとかで全部わかってるくせに。
「言うほど残ってはいませんよ?
選ぶ時間を考えたら閉店までに間に合うかどうかです」
「そうだよ!
早く出発するよ!
ホノ姉のお説教は後だよ!」
「お説教されるような事してないってば!」
もう。皆して。失礼しちゃうわね。
「あれ?
アイちゃんは?」
「逃げたみたいね。
ホノカがしっぽりやってる間に」
「ミアちゃん、しつこい」
「面目次第もございません。
このメレク、一生の不覚です」
本当に悔しそう。魔王様。
そんなにアイちゃんの水着姿見たかったんだ。
アイちゃん!アイちゃん!
応答せよ!アイちゃん!
へーちゃんでも可!
「……」
突然腕の中にアイちゃんが現れた。
アイちゃんは恨みがまし気なジト目で私を見上げてきた。
どうやらへーちゃんが配送してくれたようだ。便利。
「じゃ、行こっか」
「待ちなさい!ホノカ様!
今の何よ!そいつには出来て私には出来ないの!?」
そりゃぁ原理が全然違うもの。
間にへーちゃんが入ってくれただけだし。
「やっぱり気が変わったわ!
ホノカ様は特訓再開よ!
買い物には行かせないわ!」
「やだよ!買い物行くもん!
ヴィーの水着選ぶもん!」
「あ~なるほど。
そういう感じで。
じゃあ、ホノ姉。留守番よろしく。
ヴィーのは私が選んでおいてあげるから。
ほら、ヴィーと師匠貸して」
「待ってよ!あっさり裏切らないでよ!
私も連れてってよぉ!」
「諦めなさい。
これ以上は待っていられないわ」
「リコリス説得してよ!」
「ですから時間が無いんですってば。
諦めて下さい。ホノカ様」
「そんなぁ!」
「もう!仕方ないわね!
特訓は後よ!帰ってきたら絶対やるからね!
さっさと行くわよ!ホノカ様!」
やっぱチョロ、優しい。




