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05-01.保護者の悩み

「ねえねえ、アイちゃん」


「なんです?

 内緒話ですか?」


 私が小声で話しかけると、アイちゃんは不機嫌そうに答えた。


 どうやら話しかける相手を間違えたようだ。

あっちもこっちもギスギスしている。


 けど怖気付いている場合じゃない。

とにかく先ずは仲直りだ。



「アイちゃん。ごめんなさい。

 勝手に動いた事も、魔王様盗っちゃった事も謝るから。

 お願い。仲直りして下さい」


「……こちらこそ。失礼しました。

 少々やりすぎました。

 それで?

 先程は何の話をしたかったのですか?」


 良かった。

今度こそ本当に許してくれたみたい。

声音から険が取れた気がする。



「ミアちゃんとフィナちゃんのこと。

 二人も距離があるみたいだから。

 どうしたら良いか相談したかったの」


「そういう事でしたら、ボクよりヴィーが適任では?」


『もちろん二人でも話し合ったわよ。

 けれど名案が浮かばないの。

 アイも知恵を貸してくれないかしら』


 ヴィーが私の胸の間から顔を出した。

相変わらずここが気に入っているようだ。


 今は人目も無い街道を歩いているだけなので、別に隠れる必要も無いのだけど。


 本当はもっと胸元を隠せる服を着たいのだけど、ヴィーが許してくれないのだ。

とは言え、流石に町に近づいたら許可をくれるだろう。

その時は改めて頼んでみるとしよう。

何で私、こんなに立場弱いのかしら……。



「そう言われましても……。

 要はこれ、情事というものですよね?

 ボクには縁遠いものなので、お力になるのは難しいかと」


『私もよ』


 神様と精霊だものね……。



「スーちゃんやキアラに聞いても意味はないでしょうね。

 リコリスでも呼び出してみては?」


 リコリスもなぁ……。

知識はあっても実体験として知ってるわけじゃなさそうだしなぁ……。


 というか、こんな事で呼び出すわけにもいかないよ。

今はこっちの都合で風の大精霊という立場に戻ってもらってるんだから。


 本人は私の側に居たがったけど、魔王様が反対したのだ。

しかも当の魔王様も、常に一緒に旅をするつもりは無いようだ。

アイちゃんの言う通り、また巣穴に潜っているのかもしれない。


 結局アネモネも含めて三人ともが、それぞれの居場所へと戻っていった。


 旅の仲間に加わったのはスーちゃんだけだ。

そのスーちゃんはキアラを真似て翼を生やし、無邪気に二人で空を飛び回っている。

風の精霊であり、中でも速さ自慢のキアラと並走出来るなんて、流石は元大精霊様だ。



「心配しなくても大丈夫よ。

 暫くしたら落ち着くわ」


 ミアちゃんが話に入ってきた。

私の内緒話は全て筒抜けらしい。



「ミアちゃんから仲直りしてよ」


「それは無理よ。

 フィナの気持ちを考えてみなさいな。

 自分から約束した事だからしつこく言ってこないだけで、フィナだって羨ましかったのよ。

 今私が何か言っても、拗れるか気を使わせるかのどちらかにしか成り得ないわ」


 だろうね。

私達に出来るのは、せめて目の前でイチャつかないようにする事くらいなのかもしれない。



「でもだからって、まるで妥協みたいにダフネとそういう事しだすのも違うでしょ?」


 あのキス以来、隙あらば二人きりになろうとするのだ。

私もミアちゃんも、フィナちゃんとの関係性が原因で強くは止められていない。


 何だか関係がこんがらがってきた。

一旦状況を整理するべきなのかも。




 先ず私とミアちゃんは恋人関係だ。


 フィナちゃんが成人したら、私達に加わる約束だ。

私が認めたわけではないけど、少なくともミアちゃんとフィナちゃんはそのつもりだ。


 フィナちゃんも一旦はミアちゃんを信じて我慢した。

今は私とミアちゃんが付き合い始めたばかりだし、私達にはフィナちゃんをご両親から預かった責任もある。


 すぐに加わるのではなく、成人まで待つのはその為だ。




 だと言うのに、ミアちゃんが私以外、特にアイちゃんに言い寄ったり、私がダフネに唇を奪われたりと、フィナちゃんの我慢を蔑ろにするような行動を続けてしまった。


 トドメになったのはダフネの変化だ。

私の記憶を吸い上げたダフネは、何故かフィナちゃんにまでキスをした。


 どうやらあれで我慢が効かなくなったらしい。


 更に困った事に、ダフネも満更でもないようなのだ。

ミアちゃんに止められればその場は素直に聞くのだけど、フィナちゃんに求められればホイホイと付いていく。




 流石に自分が悪いという自覚もあるミアちゃんは、そんなフィナちゃんを強く止める事が出来ないでいる。

フィナちゃんもフィナちゃんで基本的に良い子なので、完全に開き直ってしまうわけでもない。


 そんなこんなで、こっそりと抜け出そうとするフィナちゃん対、出来る限り優しく窘めようとするミアちゃんの、もどかしい冷戦が続いているのだ。




 本当にどうしたものかしら。

いっそフィナちゃんの参戦を認めるべきなのかしら。


 当然私的にはそれは許し難い。

私はミアちゃんを独り占めしたいのだ。

そもそも別に、ミアちゃんハーレムを認めたわけでもない。


 とは言え、今のフィナちゃんの状況は見逃せない。

何より教育によろしくない。


 もし仮にダフネとフィナちゃんが本気で愛し合っているならともかく、現状ではどちらも幼い興味に過ぎないと言わざるをえない。


 今は私達がフィナちゃんの保護者だ。

思春期で難しい年頃であろうとも、しっかりと話し合って導いていかねばなるまい。



「そう言えば私、思春期も反抗期もまともに経験してないのよね」


 何せずっと兵器扱いだったし。


「ミアちゃんは、そこんとこどう思う?」


「漠然としすぎよ。

 何が知りたいの?

 もう少し具体的に質問なさい」


「フィナちゃんが思春期で反抗期なら、私達はどう接するのが正しいのかなって。

 頭ごなしに否定したって逆効果になるかもでしょ?」


「先ず何より大切なのは、手本を行動で示す事よ」


「なら私達もキスは封印って事にする?

 フィナちゃんが成人するまで」


「……流石に長すぎるわ」


「清く正しく交際しましょうって感じなのかなぁ」


「それは具体的ではありませんね。

 いっそ一旦別れてしまってはどうですか?」


「「それは無し」」


『正しいキスの仕方を見せてみたら?』


「正しい?

 雰囲気作りとか?」


「何真剣に検討してるのよ。

 そもそも眼の前でしてる時点でアウトよ」


「だからって隠れてしてたら、フィナちゃんとダフネもそれで良いんだって思っちゃうんじゃない?」


「問題を混ぜてはダメよ。

 フィナのこれはあくまで一時的なものよ。

 思春期云々は関係ないわ」


 まあ直接的にはそうだろうけども。

でも一切無関係って事も無さそうだよ?



「とにかくもう少し様子を見ましょう。

 いよいよとなったら、私が責任持って言い聞かせるわ」


「自分でそれは出来ないって言ったじゃん」


「今はまだ、よ」


「よくわかんないなぁ」


「なら後は任せておきなさい」

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