01-17.努力の成果
「さあ、召し上がれ!」
私は久しぶりに上機嫌だった。
やはり料理は良い。
好きなことを好きなだけすると気分も良い。
その成果を喜んでくれる子がいるのなら尚更だ。
----------------------
買い物を済ませて宿に辿り着いた私達は、宿屋の女将さんに交渉して、無事にキッチンを借りることが出来た。
元々私達以外の宿泊客もいない有り様なので、交渉どころか二つ返事で了承してくれた。
まあ、ミアちゃんがチップを握らせてくれたおかげだけど。
ついでに燃料や調味料も好きに使って構わないと言われた。
いったいどれだけ渡したのかしら。
ミアちゃんってお金持ちになりたいと言う割には、結構ポンポン使ってしまう気がする。
今晩の食材だって、普段の夕食にかかる費用とは桁が違う
フィオちゃんがだいぶ安く済ませてくれたにも関わらずだ。
そもそもこんなに買い込んで三人で食べ切れるのかしら。
そんな事を考えていたのに、いざ料理を始めた私は、ノリに乗って三人では食べきれないのでは、というくらい、豪勢な夕食を作り上げた。
少し取り分けて女将さん達にお裾分けするのも良いかもしれない。
いっそ収納スキルでも覚えられないかしら。
ボースハイトの連中も、そういうのだけは教えてくれなかった。
まあ、普通は教えられても新しいスキルを手に入れる事なんて出来ないのだけど。
私の本来のスキルにはそんな効果がある。
やろうと思えば、自力でも他のスキルを習得できる筈だ。
とはいえ、今すぐにとはいかない。
相応の自己研鑽が必要だ。
何故かあの国は、私のスキルに詳しかった。
その育て方までも。
似たようなスキルがあるのか、過去に私と同じスキルを持っている者がいたのか。
何にせよ、数多の犠牲者の上に成り立つノウハウである事は間違いない。
私はその犠牲者達のお陰で、今ここにいるのかもしれない。
名前だけでは何の役に立つスキルかもわからない。
強力なスキル持ちとして育てられる事はなく、ハズレスキルとして切り捨てられていたかもしれない。
この世界に来た時点で始末されていたのかもしれない。
先輩方に感謝を捧げておこう。
お陰で生き延びる事が出来ました。
その後の生活を思えば、最初の時点で終わっておくのも幸せだったかもしれないけれど、それでも私は生きていたい。
そうして足掻いた結果、ミアちゃん達とも出会えた。
この料理でもお供え出来ないかしら。
そんなついでじゃなくて、どこかに慰霊碑でも建てようかしら。
いつか、私が安住の地を見つけたときにでも。
「ホノカ?
まだかかりそう?」
「ううん、ちょうど出来上がった所よ。
ミアちゃん達も運んでくれる?」
「随分と作ったのね。
まさか、食材全部使ったの?」
「ええ。ダメだった?」
「まあ良いわ。
けれどホノカ、あなた話を聞いてなかったのね。
フィオレが収納スキルを持っているのよ」
「え?
私、聞いてないわ。
ミアちゃんはいつの間にそんな話を聞いたの?」
後で使う所見せてもらおう。
きっと参考になるはずだ。
あわよくば習得できるかも。
「買い物してる時に言っていたじゃない。
ふふ。どんな料理を作るかで頭がいっぱいだったのね」
「ごめん……
でも、どうせなら作った状態で入れておいたほうが便利じゃない?」
「調理後ではすぐに傷んでしまうわ」
「あれ?時間停止とかついてないの?」
「収納スキルに?
そんなわけ無いでしょ。
でも、面白いこと思いつくのね。
確かにそれなら格段に利便性が上がるわ。
まあ、夢物語の類でしょうけど」
「なら、先に取り分けてお裾分けでもする?」
「いいえ。
このまま私達で平らげてしまいましょう。
大丈夫よ。
ホノカの手料理を残すなんて、勿体ない事はしないわ」
「まあ、三人ともが頑張れば食べ切れるとは思うけど。
でも無理はしないでね?」
「無理なんかじゃないわ。
それより早く運びましょう。
何時までも話していたら冷めてしまうわ。
付いてきて。フィオが私達の部屋に席の準備をしてくれているから」
「あれ?
フィオちゃんと仲良くなってる?
いつの間に呼び方変わったの?」
「早くしなさい」
ミアちゃんは私の質問には答えず、両手に大皿を持って歩き出した。
ミアちゃんって意外と照れ屋なのだろうか。
いやまあ、そんな事無いか。ミアちゃんだし。
「妙なこと考えてない?」
「ううん」
「本当に?」
「うん。変なことじゃないわ。
ミアちゃんって可愛いのねって思っただけだから」
「ようやくホノカもわかってきたのね。
どうかしら、今晩早速二人きりで。
フィオには悪いけれど、もう一部屋とって移ってもらうとしましょう」
「そういう所はあんまり可愛くない」
「やっぱり、ホノカはまだまだね」
「ミアちゃんががっつき過ぎなのよ」
「ゆっくりなら受け入れてくれるのね」
「そうは言ってない」
「言ってるようなものじゃない」
「なんでそんな話になるのよ。
可愛いって言っただけじゃない」
「だから、それがホノカなりの告白でしょ?」
「バカ言わないでよ。
やっぱりミアちゃんは冗談のセンスが無いわ」
「おかしいわね。
フィオは笑ってくれたのだけど」
「先が思いやられるわ」
「もしかして私まで呆れられてます?」
私達の到着を察したフィオちゃんが、扉を開けて出迎えてくれる。
「そんな事よりフィオ、まだ残ってるから付いてきて。
ホノカは先に座って待っていてね。
後は私達でやるわ」
「わかった。
もう残りは三人も必要ないものね。
そっちは任せるわ」
「はい!お任せ下さい!」
元気いっぱいに歩き出すフィオちゃん。
ミアちゃんが後に続く形で歩き出した。
フィオちゃんはキッチンの場所を知っているのかしら。
なんだか少し張り切り過ぎているみたい。
私達が生命線だから見限られたくないのか、それとも元々そういう性格なのか。
フィオちゃんの事もまだよくわからない。
盗賊退治後、この町への帰路でもそれなりに話はしたが、元々明るい子っぽい雰囲気は感じる。
暫くして、再びミアちゃんとフィオちゃんが戻ってきた。
なんだか話が盛り上がっている感じだ。
私よりミアちゃんと話が合うんじゃなかろうか。
フィオちゃんに取られちゃったらどうしよう。
こんな事考えたら、またミアちゃんに怒られるかしら。
私は気を取り直して立ち上がる。
うん、やっぱり我ながら良い出来だ。
眼の前には、私が作った料理が並んでいる。
とっても良い匂い。
私は料理上手だ。
自信を持ってそう言える。
ミアちゃんが自分を可愛いと言うのに似てるのかも。
自分の努力の成果がここにある。
だからこそ、自信を持てる。
この子達も、私の料理を喜んでくれると確信している。
一人で食べるだけではこうはならない。
だから、私は宣言する。
自信を持って。
楽しい気持ちで。
「さあ、召し上がれ!」




