04-40.ともだち
「私の望みはあの子との契約を回避する事だけよ!
それ以外は何でも好きになさい!」
風の大精霊さんは私と二人きりになるなりそう宣言した。
「大精霊様。
質問してもいい、ですか?」
「許す!好きに問いなさい!
それと別に丁寧に喋る必要は無いわ!」
何でこの人、ずっと怒ってるんだろう。
師匠と仲が悪いせいなのかな?
「何で契約は嫌なの?
スーちゃんは喜んでるよ?」
「あの子が特別なのよ!
あの子は純粋過ぎるくらい純粋な子だもの!
誰にだって愛情を向けられる優しい子なのよ!」
大絶賛だ。
スーちゃんは風の大精霊様にとっても大切な仲間なのかも。
どうせ契約の事はバレてるんだし、スーちゃんも連れてくれば良かったんじゃないかなぁ。
「けど私達は違うわ!
ノウム、いえ、今は違うわね。
地の大精霊も拒絶したはずでしょ!」
もう知ってるの?
ううん。この言い方はそうじゃないのかも。
私達が先に地の大精霊に会いに行く事も、そして断られた事も予想していたのだろう。
風で集められる情報は、きっと時間差があるはずだ。
距離が離れている程、知るのには時間がかかるはず。
世界の端と端で一瞬にして伝わるものでもないのだろう。
「その理由は?」
「言わないわ!
言う必要が無いもの!」
それじゃあ話し合いにならないよ……。
「大精霊様。
私、大精霊様の事知りたいの。
私ね、キアラの事大好きよ。
大精霊様はキアラのお母さんなんでしょ?
なら、私も大精霊様と仲良くなりたいの。
だからね、大精霊様もそう思ってくれたら嬉しいな」
「……悪いけど他を当たって頂戴。
別にあなたに想う所は無いけど、アイテルもホノカも私にとっては目の上のたんこぶよ。
出来れば金輪際関わりたくないくらいなの」
そこはなんとなくわかる。
師匠は言わずもがな、ホノ姉の存在も厄介なんだろうし。
それでも、私達にはこの人が必要なのだろう。
別にホノ姉の能力がどうとかってだけでなく、師匠だって元々頼りにしていたんだから。
「ダメだよ。
大精霊様じゃなきゃ。
キアラのお母さんは大精霊様だけだもん」
「そもそもあの子だって私の事怖がってるじゃない!」
それは多分、ちゃんと伝わってないだけだと思う。
風の大精霊様は、師匠やキアラが言うほど怖い人でも無いと思うから。
「今からでも仲良く出来るでしょ?
キアラは私が説得するから」
「っ結構よ!
私には子供なんて沢山いるんだから!」
「そんな悲しい事言わないでよ……」
「ああ!もう!
そんな顔するんじゃないわよ!
今は交渉中よ!顔を上げてシャンとなさい!」
ほらやっぱり。
大精霊様優しそうだよ?
「ありがとう。大精霊様」
「あんた!やり辛いわね!
今のわざとね!子どもと思って甘く見ていたわ!」
大精霊様は正直者だね。
そんな事までペラペラ喋らなくても。
契約の事は教えてくれないのに、そっちは口が軽いんだね。
長い時間を生きているはずだけど、あんまりお話した経験が無いのかな?
「ごめんなさい。
大精霊様の気を引きたかったの。
仲良くして欲しいのは本当の事だもん」
「くっ!
仕方ないわね!
あなたとだけなら仲良くしてやっても良いわ!」
ちょろい……。
「キアラは?」
「ならその子だけよ!
他はダメよ!」
ミア姉の事もやたら警戒してるよね。
なんでだろう。苦手なタイプなのかな?
「ミアね」
「ダメよ!」
言い切る前に止められてしまった……。
そんなに?
「そっか。残念。
でも嬉しい。
ありがとう!大精霊様!」
「大したことじゃないわ!」
そう?
その割には……ううん。やめておこう。
「それで!
私と友達になって何をさせたいの!
言っておくけど契約はダメよ!
これは私にとって何より大切なものなの!」
「わかった。もうそれは言わないよ。
その代わり、私を信じて欲しいの」
「勿体ぶらずに言ってみなさい!
大抵の事は叶えてあげるわ!
あなたは私の二人目の友達だもの!」
二人目?
一人目って、師匠の前の神様?
他の大精霊達は違うのかな。
何にせよ少なすぎだよ……。
やっぱり風の大精霊様も引き籠もってたのかなぁ。
「ホノ姉に少しだけ付き合ってあげてほしい。
私が絶対に契約しないよう言い聞かせるから」
「それは!……ダメよ!」
「お願い。大精霊様。
私、ホノ姉の事が心配なの。
ホノ姉は神様の眷属にはなりたくないって言ってるのに、師匠もミア姉も全然聞く気無いの。
これって大精霊様の状況とよく似てると思うんだ。
大精霊様も人ごととは思えないでしょ?
それに二人で力を合わせられれば、一人で頑張るより確実だと思わない?」
「っ……あなたはこっちに付くのよね?」
「うん。
この件で、私は大精霊様とホノ姉の味方につくよ。
やっぱり無理やりは良くないよ。
師匠だって、私達が結託すれば流石に話くらい聞いてくれると思うよ」
「……話をするだけよ!
一旦あなただけ戻すから打ち合わせが済んだら合図なさい!
ホノカだけなら連れてきても良いわ!」
ここに来た時と同じように、私の体が風に包まれた。




