表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/334

01-16.吹き溜まりの町

 私達は討伐退治の依頼を受けた町に戻ってきた。

最初にギルドに向かい、依頼の成果について報告した。


 報告には、専用の水晶玉を利用する事になる。

これは鑑定の水晶とは異なる。

見た目は似たような感じだけど、用途が違う。

ミアちゃんが言うには行動記録を確認できるそうだ。


 案外、物自体は同じなのかもしれない。

スキルをコピーする機能でもあるのだろうか。

でもそれなら、私が見たこと無いのはおかしい気がする。


 もし私のスキルをコピーできるのなら、あの国がコピーしていないわけがない。

あれ?でも、そうでもないかも?


 私の本来のスキルはかなり特殊なものだ。

それ単体では何も出来ない。

鑑定やログのように、即結果が出るものではない。

当然、炎や風を操るものでもない。

もしかしたら、水晶に写し取っても意味がないのかもしれない。

まあ、そんな技術があると決まったわけでもないけど。


 ミアちゃんの報告は難航していた。

担当した受付嬢の問題なのか、記録を見せても素直に納得しない。

まさか、首領の首を持って来いとでも言うつもりだろうか。


 挙句の果てに、裏から出てきたギルド長を名乗る人物が奥で話すと言い出した。

ギルド長は、スキンヘッドの大柄な男性だ。

袖をまくった腕は、まるで筋肉の塊のようだ。

ミアちゃんは私に待っているようにと告げて、後に続いた。


 まあ依頼内容を考えれば、詳しく話を聞きたいのは当然だろうと思う。

けれど、受付嬢のまごまごした感じが、なんだか無性に不安に感じてしまう。

結局私は、我慢しきれずにミアちゃんの後に続いた。

フィオちゃんも目を離すわけにも行かず、手を引いて連れていく事にした。


 受付嬢はそんな私達を止めようと声をかけてきたけれど、無視して先に進む事にした。

受付嬢はカウンターから出てまで止めようとはせずに、その場に留まっていた。


 新人さんなのかしら。

というより、あまり仕事熱心には見えない。

まあ、このギルドなら仕方ない気もするけど。

何せ、あんな冒険者達が幅を利かせていたくらいだし。

あれだけ過激なナンパをするくらいだ。

ここの受付嬢だって被害にあっていないハズがない。

むしろ、カウンターに立っているだけで凄いと思う。

私には到底真似できない。


 早足で追いついた私達に、ミアちゃんもギルド長も何も言わなかった。

どうやら、これ以上止める気は無いらしい。


 ギルド長自らの案内で応接室に連れてこられた私達は、並んでソファに腰掛ける。

対面に座ったギルド長は、真っ先に頭を下げてきた。



「先程は失礼した。

 改めて報告を聞かせてもらえるだろうか」


「その前に、さっきの件だけなの?」


「ああ、やはり君達だったか。

 昨日の件だな。話は聞いている。

 だがまあ、それに関しては私が謝罪する事でもあるまい。

 確かに、このギルド内で好き勝手している冒険者達を制御できていないのは私の落ち度だ。

 だが、君達も十分な反撃をしたはずだ」


「なら礼くらい言っても良いんじゃない?」


「バカを言うな。

 奴らも今日は出てきていないが、君達が去ればまた好き勝手することだろう。

 溜めた鬱憤を晴らすために、より悪い方向にな。

 こちらとしては、頭痛の種が増えただけだ」


「その無駄な筋肉は見せかけだけなの?

 自分の腕っぷしで黙らせたら良いじゃない」


「下らない嫌味はよしてくれ。

 私は戦闘職ではない。本職の冒険者になど敵うものか。

 このような平和な地域のギルドに派遣される程度だ。

 Aランクともなれば、その辺りの事情はわかるだろう?」


「そうね。軽口が過ぎたわ。

 それで?

 ここに記録水晶は無いようだけど、依頼の結果について説明していいの?

 口頭だけで納得できる?」


「ああ。構わん。

 ログの内容は先程私も確認した。

 そもそも、Aランク冒険者の言葉なんぞ疑うものか。

 ここで成果を誤魔化す程度の小物が、その歳でAランクになる事などありえんのだ」


「そう、なら……」


 ミアちゃんは盗賊退治について説明を始めた。

机に備え付けられていた地図も使って、盗賊のアジトの位置も共有する。

誰か確認に行ける職員とかいるのだろうか。

なんだか、話を聞いている感じ、非戦闘員しかいないみたいだけど。

冒険者登録の実技試験とかどうしてるのかしら。


 この世界の人間は、一般人と戦闘職の者とで大きく違う。

見た目には、このギルド長の方がミアちゃんよりずっと強そうに見えるのだけど、当然そんな事はない。


 きっとミアちゃんの細腕で腕相撲を挑んでも、丸太のような腕の大男を瞬殺できるだろう。


 この世界では魔物を討伐していると、身体能力が向上していく。

それ以外にも、元々持っているスキルによっても、大きな違いが出る。

身体強化系のスキルならわかりやすく腕力とかが上げられるし、魔法系のスキルなら手っ取り早く高い攻撃力を得られる。


 結果的に、その手の攻撃的なスキルを持つ者達は、冒険者や兵士となって、魔物を狩る事になるので、より一般人とは力の差が開いていくのだ。


 このギルド長は、たまたま大柄で筋肉質な体質だっただけで、魔物退治などした事が無いのだろう。

冒険者上がりのギルド職員ならともかく、大半は元から事務職なのかもしれない。


 まあ、これこそ私達が首を突っ込むような問題じゃない。

別に正義の味方を気取るつもりもないし、何より手の打ちようがない。

根本的な問題をどうにか出来るとしたら、このギルド長やギルド本部くらいだ。

私達や、他の上位冒険者がこの地に留まる事はあり得ない。

既に王都もそれなりに近く、開発の進んだこの町の周辺に、手強い魔物が出てくる事もない。


 だからこそ、ギルド本部もこの支部に期待していない。

このギルド支部に人員を増やすことも無い。

なんなら潰れても構わない。

距離的には王都が兼任しても構わない。

そんな風にすら考えているのではないだろうか。


 ギルド長は終始冷静にミアちゃんの話を聞いていた。

一通りの説明が終わり、今度はフィオちゃんの話になった。



「アメーリア商会から救出依頼は?」


「いや、出ていない」


「そう」


 実にあっさりとしたものだった。

しかも、二人とも本人の前だというのに気遣う様子もない。

まあ、私が勝手に連れて来てしまったのだけど。

やっぱり大人しく待っているべきだったのかもしれない。


 ミアちゃんはこれでこの話題はお終いだという風に、報酬の話に移った。



「済まんが、ここで満額用意する事はできん。

 書状を用意するから、王都で受け取ってくれ」


「構わないわ。

 代わりに色つけてもらうわよ」


「ああ。手間賃程度だがな」


 王都は最初から目的地なのに、しれっと上乗せ要求までするミアちゃん。

ちゃっかりしてるわね。



「それでいいわ。

 明日の朝に取りに来るわね」


「承知した」


「ホノカ、フィオレ、行きましょう」


「うん」「はい」


 私達はミアちゃんに続いて席を立つ。

結局、私達は一切話に加わる事は無かった。

ミアちゃんもこの状況がわかっていたから、私達を呼ばなかったのだろう。

このギルドの状況も、特段珍しいものでは無いのかもしれない。

なんだかモヤモヤしなくもないけど、そういうものだと納得するしか無いのだろう。

この先の旅でも、何度も見る光景なのかもしれない。


 物語の主人公のように行く先々で困っている人を助けて行くべきなのだろうか。

そうすれば、こんなモヤモヤを抱かずに済むのだろうか。


 少なくともミアちゃんにはそんなつもりはない。

ミアちゃんは眼の前で倒れている人がいれば、すぐに駆け寄れる子だ。

けれどそれでも、このギルドに手を貸そうとは思わないだろう。


 何故なら、このギルドの人達に改善しようという気持ちが無いからだ。

このギルド長も、あの受付嬢も、冒険者達ですら諦めているからだ。

だらだらと破滅の時を待っているからだ。


 ミアちゃんは心底気に入らないだろう。

ミアちゃんの嫌う条件が揃いに揃っている。

それでも声を荒げる事も無く、淡々と処理していた。

まるで相手にする価値も無いと言わんばかりに。


 それでも、もしかしたらニナちゃんなら、レンなら、ザインなら、何かしたのだろうか。

手助けできる事を考えたのだろうか。


 ここの職員達に何か出来なくとも、あの冒険者達を奮い立たせる事は出来るのかもしれない。

こんな所で腐っていないで、先に進めと背中を押すことも出来たのかもしれない。


 私達はギルドを出て宿に向かい始めた。

いつも通り手を繋いで隣を歩くミアちゃん。

フィオちゃんは私の斜め後ろを静々と付いてきている。



「ミアちゃん」


「ダメよ」


「まだ何も言ってないわ」


「何でこんな時だけ積極的なのよ」


「ミアちゃんのせいじゃない。

 皆はお人好しだったって。

 あんなに愛おしそうに言うのだもの。

 私だって何かした方が良いんじゃないかって思うわよ」


「必要ないわ。

 ホノカをあの子達の代わりにするつもりなんて無いのよ」


「ミアちゃんが笑うためには必要なんじゃない?

 そうやって、バカをやってくれる人が」


「私は笑えているわ」


「そういう事は、心から腹を抱えて笑ってから言いなさい」


「元々そんな事しないわよ」


「嘘よ。

 あの子達といた時は絶対にそれくらい笑っていたわ。

 ニナちゃんをからかって大笑いしていたじゃない」


「……そうかもね」


「ミアちゃん」


「ダメよ」


「どうにかならない?」



「どうにもならないわ。

 むしろ良いことじゃない。

 冒険者ギルドが暇って事は平和な証拠よ。

 一時的に停滞者の吹き溜まりになったところで、何の害にもなりはしないわ」


「どうせあいつらに大事を起こすような根性は無いのよ。

 精々、日々小さな嫌がらせを続けるだけ。

 それも長く続きはしないわ。

 また次の停滞者が流れ着く」


「先に来て好き放題していた者たちは、相応に長いブランクを抱える事になる。

 態度がデカくて力は無い。

 そんなやつらは、早々に排除されるだけ。

 そこから更に別の町に流れていく気概だって残ってない。

 たまり場の隅で観客の一人に混ざるだけ」


「いつかギルドが無くなれば屯する場所すらなくなる。

 町の住民ともなれず、何処かで野垂れ死ぬか、王都のスラム街にでも移り住むか。

 盗賊に身をやつす者すらいるでしょう。

 残されているのはそんな未来だけ」


「けれどそれは、彼らが選んだ事なの。

 楽に楽にと流れた結果、行き着いた末路なの」


「だから、意味がないのよ。何をしても。

 ここでホノカが一時的に状況を改善出来たとしても、何れ彼らは元の生活に戻っていくわ。

 また多少の力を得ても、同じことを繰り返すの。

 同じように犠牲者を増やしながら、只々堕ちていくの」


「ホノカ。

 この町の事は諦めなさい。

 いいえ。そうではないわね。

 この町の事は見逃しなさい。

 こんな町でも必要なのよ。

 ただの吹き溜まりが、彼らには必要なの。

 彼らにとっては、こんな所でも大切な場所なの。

 人の道理を外れる直前の緩衝材なの。

 或いは最後を迎える前の猶予期間なの。

 数少ない、残された居場所なのよ」


「ホノカの動機は嬉しいけれど、その気持ちを披露する場面はここではないわ。

 それより、美味しいものをいっぱい作って頂戴。

 きっとその方が、ホノカに向いているわ。

 私を笑顔にしてくれるのなら、ホノカの得意な事でして頂戴。

 あの子達の代わりなんて考えずにね」



「……うん……そうだね」


「フィオレ、あなた買い物は得意?」


「お任せ下さい!

 目利きにも自信があります!

 この町で手に入る中で、最高の食材を揃えてみせましょう!」


「いい返事よ。

 なら、お手並み拝見といこうかしら」


「はい!」


 元気いっぱいに返事を返すフィオちゃん。

僅か一日前まで盗賊達に囚われていたようには見えない。

この子も随分と心が強いようだ。

私やミアちゃんよりずっと幼いのに。


 私も切り替えよう。

ミアちゃんの言葉になんの反論も出来なかったのだから、この件はこれでお終いだ。

論争では無いけど、敗者は敗者らしく勝者の言葉に従おう。

今度こそ、ミアちゃんを笑わせてみせよう。

それくらいの気概で腕をふるおう。

ミアちゃんの言う通り、料理なら自信があるのだから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ