01-15.事情
「ここは?」
「やっと起きたわね。
私はミア。こっちはホノカ。
あなた、お名前は?」
「……?
!?もしかしてあなた方が助けて下さったのですか!?」
「ええ。私達は冒険者よ。
あなたを捕らえていた盗賊共は殲滅したわ」
「お二人でですか!?」
「そうよ。
そんな事より、いい加減名乗りなさい」
「あ!すみません!
私は、フィオレ。
フィオレ・アメーリアと申します。
この度は助けて頂いてありがとうございます。
この御恩は必ずお返し致します」
「アメーリア?」
訝しげな視線を送るミアちゃん。
どうやら、この子の名字に心当たりがあるようだ。
「はい。ご想像どおりかと」
「有名なの?」
「ホノカも聞いたことくらいあるでしょ。
アメーリア商会って言ったら、この国じゃ知らない人なんていないわ。
何せ文字通り、この国の隅々まで広がっているのだもの。
その徹底ぶりたるや、禄に利益にならないような寒村にまで行商に出向くくらいよ。
創業者の理念で、例え儲けが出なくとも、商品を届ける事そのものを目的にしているの」
ミアちゃんが私に気を使って、詳しく説明してくれる。
正直全然知らなかったけれど、フィオレに怪しまれないように、ミアちゃんの言葉で思い出したフリをする。
「はい。そのアメーリアです。
それにしても、ミア様はよくご存知ですね。
そこまで把握されている方となると、そう多くは無いのですが」
「冒険者なら当然よ」
私は?
「何でまたあんな所に?
アメーリアって事は、本家の娘さんかなんかでしょ?
行商にでも同行していたの?」
「それは……」
「ホノカ、止めなさい。
どんな経緯で誘拐されたかなんて、私達には関係無いわ。
私達はこの子を親元に返して謝礼金を貰う。
この件はそれきりよ。
権力者と金持ちになんて必要以上に関わるべきではないわ」
「ハッキリ言うわね。
フィオレちゃんの前で」
そもそもミアちゃんの夢もお金持ちじゃない。
この場合は成金とか、悪どい商人とかの事だろうけどさ。
「何、馴れ馴れしくちゃん付けしてんのよ。
関わるなって言ってんでしょうが」
「是非フィオとお呼び下さい、ホノカ様」
「あんたも私のホノカに色目使ってんじゃないわよ!
ここで置き去りにするわよ!」
「すみません!
その様な関係とはつゆ知らず」
「いいえ、違うわ。
私達は姉妹で冒険者をしているだけよ。
ミアちゃんは少し独占欲が強いだけなの。
気にしないで」
「ホノカ?
どういうつもり?
そんなにこの子が好みなの?」
「違うってば。
私にそんな趣味は無いって言ってるじゃない」
「いい加減認めなさいよ!
ホノカはこっち側よ!」
「ふふ。お二人はとても仲が良いのですね」
「唯一無二の家族だからね」
「ホノカにとっては、よ。
勝手に私の家族殺さないでよ」
「え?
ああ、そっか。
故郷には家族がいるのよね。
いつか会ってみたいわ」
「何よ、やっぱり乗り気なんじゃない」
「別に嫁にくれと言いに行くわけじゃないわよ」
「まあ、いきなりではお互いに困ってしまうものね。
少しずつ親睦を深めていってもらうとしましょう。
大丈夫よ、勿論私もホノカが受け入れられるように協力するわ」
「だから違うってば。
言葉通り、ただ会ってみたいだけだって」
「ふふ。わかってるわ。
もう照れちゃって可愛いんだから」
「なんなの?
今日はそんな感じでいくの?
手を変え品を変えとは言ったって、ミアちゃんらしくないわよ?」
「うるさいわね。
下らない三文芝居は終わりよ。
いい加減出発しましょう」
ミアちゃんが始めたくせに……
「今のお話からすると、お二人は血の繋がった姉妹では無いのですね。
それでも姉妹と称する程に、ホノカ様もミア様を親しい相手と認識されているようです。
やはり、とても仲が良いのですね。
正直、羨ましい限りです。
私達など……」
「フィオレ、止めなさい。
それ以上話すのは許さないわ。
あなたの身の上話なんて私達に聞かせないで。
あなた達の家の事情になんて関わりたくないわ」
「ミアちゃん、なにもそこまで言わなくても」
「ホノカは黙ってなさい」
「ミアちゃんがこの子を真っ先に助けたんじゃない」
「それはそれよ。
お悩み相談なんて、私達の仕事ではないわ」
「はい、ミア様の仰るとおりです。
すみません。余計な話をするところでした。
あの場から助けて頂いただけでも十分でございます。
それ以上を望むのは図々しい事です」
「フィオちゃん……」
「ですが、ミア様。
そのお考えを弁えた上で先に一点お話せねばなりません。
申し訳ございません、ミア様。
私を本家に戻しても、謝礼金の類はお支払いできないでしょう。
それどころか、否応なくトラブルに巻き込まれる可能性が高いのです。
ここで置き去りにして頂いても構いません。
ですが、もしお許し頂けるのなら、何処か町までお連れ頂けないでしょうか。
図々しいのは百も承知です。
私に出来る事ならば何でも致します。
例えこの望みが叶えられずとも、既に受けた御恩は生涯忘れません。
それでもどうか、お願い致します。
私はまだ生きていたいのです」
「何で今話したの?
町に着いてからでも良いじゃない」
「ミア様には誠意を尽くすのが最適と判断致しました」
「打算だと?」
「ええ。そうです。
あなた方が子供を森に置き去りにするような方では無いと感じたからこそ話せました。
そのようなズルい考えがあった事は否定しません」
「そこまで明かすのはやりすぎね。
相手に気付かれていようとも、言葉にしない事も大切なのよ。
覚えておきなさい」
「はい。肝に銘じておきます」
「ミアちゃん、要するにフィオちゃんの事気に入ったの?
今の話にそんな忠告で返すなんて」
「悪くは無いわね。
賢い子は好きよ。
道理を弁えた子なら尚更ね」
「ならどうする?
本当に町に着いたら置き去りにする?
ところで話は変わるけど、フィオちゃんの立場って上手く使えば私達の目的に一気に近づけると思わない?」
「ハイリスク・ハイリターンだわ。
そっちは私の好みじゃないわね。
そもそも私達の旅は急ぐものでもないのだし」
「口実の話よ。
わかってるでしょ」
「そういう事も口にするべきではないわ。
暗黙の了解って大切なのよ。
建前を気にするなら尚の事よ」
「とにかく町まで行きましょうか。
どうせ、一晩は留まるつもりだったのだし、ゆっくり美味しいものでも食べながら考えるとしましょう」
「なら久しぶりにホノカが作ってよ。
あの町で美味しいものなんて期待できそうに無いわよ?」
「宿でキッチン借りれるか聞いてみるわね」
「やった~!
言ってみるものね~!」
「ということで、フィオちゃん。
一緒に町まで行きましょうか。
細かい話は今晩にでもゆっくり聞くわ」
「はい!ありがとうございます!
ホノカ様!ミア様!」




