04-18.りたーん
南大陸の玄関口である港町を旅立ってから、かれこれ二週間程経過した。
現在は大陸の概ね北東辺りに向かっている。
そちらには東大陸との国交があるようだ。
どうやらこの世界には、元々私達の住んでいた西大陸、今いる南大陸、そしてまだ見ぬ東大陸の三大陸が存在しているようだ。
他の大陸や島もあるのかもしれないけれど、主に知られているのはその三つだけらしい。
アイちゃんに聞いたらわかるだろうけど、旅に関する事は敢えて聞かないようにしているので、今後もこの件について質問する事はないだろう。
「結局また港町に向かうのですか?
最初の町から船で行けばよかったのでは?」
全部知ってるはずなのに、惚けた事を聞くアイちゃん。
久しぶりに姿を見せたかと思ったら、何だか少し虫の居所が悪いように見える。
一体何があったのだろうか。
「別に元々目指してたわけじゃないもん。
なんとな~く旅立って、なんとな~く決めた目的地だし。
旅立ってから決めた目的地なんだから、移動手段が回りくどいのなんて当然じゃん」
「いくら何でもぞんざい過ぎませんか?
人間の寿命など短いのですから、せめて有意義な時を過ごしてほしいものです」
やっぱりなんか機嫌が悪い。
私達のキアラの指すまま、フィナちゃんの駆け出すままの愉快な旅路にそんなに不満があるのかしら。
「今日はやけに絡むわね?
何か悩みがあるなら聞くわよ?」
ミアちゃんもアイちゃんの厳しい物言いに言い返す事もなく、心配そうに問いかけた。
「そういうところですよ!ミア!
一体どうしてしまったんですか!?
あんな小悪党共からは尻尾を巻いて逃げ、強力な魔物は避けて通り、ルフィナの契約精霊を探そうともしない!
あげく、ボクの小言に言い返しもしないなんて!
そんなんではいけません!
強くなれるものもなれません!
いくら何でも腑抜けすぎです!
旅を続けながらの修行を許しているのは、それが経験になると踏んだからです!
それこそが世界の命運を賭けた戦いへの備えとなると考えたからなのです!
決して牙を抜くためではありません!」
あ、うん。言いたいことはわかったわ。
そうだよね。
アイちゃんの立場からしたら困るよね。
「アイ。あなたは私達を信じたのでしょう?
あの誓いは嘘だったの?」
「勿論今でも信じていますとも。
だからこうして窘めているのです。
何の期待もしていなければ、とっくに見限っています」
「そうね。悪かったわ。
少し慎重になりすぎていたわね。
私とホノカだけならともかく、フィナがいるからと危険を避けていたのは事実よ。
だからアイ。もう私達の側を離れてはダメよ。
フィナはアイの弟子でしょ?
しっかり面倒みてやりなさいな」
流石ミアちゃん。
しれっとアイちゃんの責任にすり替えてしまった。
それはそうと、もしかしてアイちゃん口説いてるの?
側を離れるなって、そういう意味?
「痛いわ、ホノカ。
強く握りすぎよ」
「後でお話があります」
「まったく。仕方のない子ね」
何で嬉しそうなの?
またお漏らしさせられたいの?
「確かにボクも目を離しすぎました。
ホノカの修行もまた遅れているようですし、ここらで厳しめの修行をつけるとしましょう」
「え!?
そんな事無いって!
私いっぱい新術考えたんだよ!
アイちゃんに褒めてもらいたくて頑張ったんだよ!」
「はぁ~~~。
これは一から鍛え直さないとダメそうですね。
ボクがいつ、そんな事をしろと言ったのです?
基礎をおざなりにして、手札ばかり増やすなど、ボクの教育方針とは正反対ですよ?
少し見ない間に、そんな事も忘れてしまったのですか?」
「あ!いや!ちがくて!
基礎も勿論やってたよ!
その上でだよ!
それに、新術作ったら褒めてくれてたじゃん!」
「あれは失敗でした。
ボクも少々浮かれていたのです。
お二人と秘密を打ち明け合えた事で、柄にもなく興奮していたのでしょう。
それにどのような形であれ、ホノカも技術を高める事に興味を抱いている様子でしたから。
先ずは褒めて伸ばす、と言うより、その前段階として鍛錬への興味を抱かせられればと考えていたのです。
ですが、まさかそのような勘違いをさせてしまうとは。
やはり甘い顔をするものではありませんね。
そして、信念を曲げて歩み寄ってしまった事こそがボクの落ち度なのでしょう。
今後はより一層気を引き締めて鍛錬に励んでもらうとしましょう。
これより、師匠以外の呼称は認めません。
ホノカはそのつもりで」
え!?そんな!?
しかも私だけ!?
「早速行きますよ、ホノカ」
「ちょっと待って!アイちゃん!」
「師匠です。二度も言わせないでください」
「そんなの嫌だってば!アイちゃん!
反省するからそんな冷たい事言わないでよ!」
「それはホノカの態度次第です。
本当に反省しているようなら、補習が終わる頃には撤回してあげましょう。
ボクだって、本当は名前で呼び合いたいのです。
ホノカ達は大切な友人でもあるのですから」
何だかんだ言いつつ、最後には甘い顔を見せてくれたアイちゃんだった。
いやまあ、その後の特別補習授業は今までに経験した事の無い程、過酷で厳しいものではあったんだけども。




