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01-14.好意

 私達は盗賊のアジトからだいぶ離れた位置で、野営の準備を始めた。

明日には依頼を受けた町に戻って、町でもう一泊してから再び王都を目指す事になるだろう。


 私は救助した少女に視線を向ける。

少女は未だ眠り続けている。

こちらから起こすことも出来るけれど、もう暫くは眠らせておく事にした。

混乱して騒ぎ出しても面倒だ。

明日の朝にでも起こせば十分だろう。



「その子が気になるの?

 ホノカの好みはこういう子?」


「ミアちゃんじゃあるまいし」


「私は違うわ。

 可愛い年上が好みなの」


「サリアさんとか?」


「サリアは可愛くないじゃない」


「そうなの?

 面白い人だと思うけど」


「サリアは強い自我を持っているもの」


「ミアちゃんはそっちの方が好きなんじゃないの?」


「友人としてはね。

 恋人にするには強すぎるわ。

 サリアは一人でも生きていける人種よ」


「私なんて真逆だと思うけど」


「そうでもないじゃない。

 どうやってか囚われていた環境から抜け出したのでしょ?

 本当にダメなら、そのチャンスすらものに出来ないのよ。

 私が好まないのは、そんな局面で決断できない人。

 ホノカはそうではないわ。

 どれだけイジケて縮こまっていても、本当に大切な場面では欲しいものを選び取れる人よ」


「そうかなぁ……」


「そうよ。

 少し気の弱すぎる部分はあるけれど、ホノカなら必ず変われるわ」


「それで変わりすぎちゃったら?

 サリアさんみたいになっても、ミアちゃんは私を好きでいてくれるの?」


「当然じゃない。

 自分で育てれば愛着も湧くというものだわ。

 それこそ、可愛らしさというものじゃない。

 ふふ。それにしても、『好きでいてくれるの?』なんて、ホノカもやっぱり満更では無いのね」


「言葉の綾よ」


「ふふ。やっぱりホノカは可愛いわね」


「ミアちゃんは可愛くないわ」


「見解の相違ね」


「じゃあ、この子とミアちゃん、どっちが可愛いと思う?

 見た目は随分と愛らしい子だけど」


「当然私よ」


「自信満々ね」


「良いじゃない。自信が無いよりは。

 それとも、私は可愛くないわ、なんて言われて、ホノカは納得できるの?」


「そう言われるとなんか違う気もするけれど」


「ならこの話は終わりよ。

 今の時点で何度話題にしようとも、なんの発展も無いわ。

 ホノカの心を射止めてから改めて語り合うとしましょう」


「ミアちゃんの可愛さについて?

 ミアちゃんも語るの?」


「もうその話はしないと言ったわ」


「ならそろそろ寝ましょうか。

 ミアちゃんから先で良いよ。

 私はなんだか眠れそうにないし」


「膝を貸して」


「嫌」


「手を握っていてあげるから」


「手は握ってて。

 膝は嫌。窮屈だもの」


「我儘ね。

 どこが真逆なんだか」


 ミアちゃんは微笑みながらそんな事を呟いた。

言葉の内容とは裏腹に、なんだか愛おしげな声音だった。


 ミアちゃんは私の隣で横になると、私の手を両手で握りしめて、その手を額に押し付けるようにして眠りについた。

相変わらず寝付きが良い。

直ぐ様寝息が聞こえてきた。


 ぐっすり眠りすぎじゃなかろうか。

緊急時にはすぐに起きれるのだろうか。

まあ、流石に野宿の時まで寝起きが悪いなんて言わないだろうけど。

朝寝坊するようになってから野宿をした事は無かったので、正直確信は無い。

ミアちゃんの見張り番は後半だし問題もないだろうけど。


 私は時折ミアちゃんの寝顔を眺めながらも、極力焚き火に視線を戻す。

なんだか気を抜くと引き込まれてしまいそうだ。

寝顔だけは可愛い。

というか、見た目だけは本当に可愛い。

性格もまあ、可愛い部分もある。

好意を寄せてくれるのは素直に嬉しい。


 けれど、グイグイ来られすぎると、受け入れ難い。

何より、今の私はそんな気分にはなれない。

皆が居た頃なら、それも悪くないかな、なんて思ったりもしたけれど、今の状況で受け入れるのはありえない。


 先ずはミアちゃんが完全に立ち直ってからだ。

私にその判断を下せる程の見識は無いけれど。


 だからまあ、先ずは今のミアちゃんを知ろう。

皆を失った喪失感の代替として私を求めているわけではないのだと、そう確信出来るまで。



「おやすみ。

 大好きよ、ミアちゃん」


 ミアちゃんが握りしめる手に力を込めた気がする。

もしかしたら、まだ起きているのかもしれない。

私の呟きが聞こえてしまったのかもしれない。

まあ、別にそれでも構わない。


 ミアちゃんだって、この程度は把握しているはずだ。

私がどんな気持ちで断っているかなんて、賢いミアちゃんならとっくに見抜いているだろう。

それでも敢えて、惚けてくれているだけだ。


 実際、次々と私の秘密を言い当てているのだ。

本当に全て、何もかもがバレるのも時間の問題なのだろう。

いっそ自分から明かしてしまうべきなのかもしれない。

それが誠意というものなのかもしれない。

けれど、そんな事は出来ない。

私は怖い。なにもかも。


 またミアちゃんが握る力を強めた気がする。

私の考え事も全てお見通しなのだろうか。

不安になるなとでも言いたいのだろうか。


 それとも、ミアちゃんも夢の中で求めているのだろうか。

手を繋ぎ、握りしめて、引き寄せたいのだろうか。

それは私なのだろうか。

それとも、他の誰かなのだろうか。


 結局、私はまた、ミアちゃんの寝顔を見つめ続けていた。

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