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04-09.はんせい

「はぁ~~~~」


 思わず重い溜息が口から飛び出した。


 私の眼の前では、例のユスラとかいうSランク冒険者が固まっている。


 今日も今日とて、懲りずに襲いかかってきた。

折角の買い物デートだったのに。


 まあ昨日の対処方法で懲りるわけも無いか。

本人視点では、気付いたら私達がいなかった、くらいでしかないんだし。

もっと長い時間拘束して、本人に実感出来るようにしなかったのは失敗だった。


 さて、こいつどうしようかしら。

海の底にでも沈めてみる?

それとも空高く打ち上げる?


 ダメだ。

どうやら転移的な何かを持ってるみたいだし、仮にもSランク冒険者なんだから、術を解いた時点で状況を把握して再び向かってくる事だろう。

その程度で反省を促せる気がしない。


 なら取り敢えず今日一日くらいこのまま放置しとく?

どっか広場にでも置いておいて、恥ずかしくて出歩けないようにしてやろうかしら。


 いや。これもどうやって本人に認知させるかって問題もあるし、そもそもそんな事を気にするタマにも見えない。


 かと言って、流石に真空結界で囲うのは無しだろ。

わざわざこんな奴の為に手を汚すなんてまっぴらごめんだ。



「こんな時にアイちゃんがいてくれたらなぁ」


「言っても仕方ないじゃない。

 取り敢えず海に沈めておきましょう。

 それなら万が一自力で這い上がれ無くても、事故だったことに出来ると思うのよ」


「ダメだよ、ミア姉。

 流石にやり過ぎだよ」


 ミアちゃんとフィナちゃんでも名案は浮かばないようだ。



「取り敢えず看板でもかけて、広場の中央に放置しておきましょう。

 夕方まで置いておけば、流石に何が起こったのかも理解してくれるでしょうし」


「他の人の迷惑でしょ?」


「大丈夫だよ。

 遅延結界は外から触ってもただの壁だし」


 うっかり触って巻き込まれる事もない安全設計だ。

我ながら完璧な魔術ね。うん。



「そういう意味じゃないよ。

 物理的に邪魔になるでしょ?

 それに、こんなの置いてあったら皆怖がるよ?」


 まあそうね。

明らかに欲望でギラギラした感じの露出過多お姉さんとか、公共の場に晒すものではない。


 ほんと、何でこの人ビキニとホットパンツなの?

海水浴客ならともかく、この人冒険者でしょ?

これで何が守れるの?


 いやまあ、別に大抵の防具なんて鍛え抜かれた冒険者には必要ないけどさ。

でもそれはそれとして、てぃーぴーおー的なのはあるんじゃない?


 一応、見た目は若々しいというか、二十代後半行くか行かないか程度だし、よく鍛えられてもいるから見苦しいって事もないけどさ……。



「何熱心に見てんのよ」


「え?

 この装備って防御力的なのあるのかなって」


「良かったね、ミア姉」


「それはどういう意味かしら?」


「いや!その!

 ホノ姉はホノ姉だったねって!

 心配要らなかったねって意味だよ!」


 慌てすぎよ、フィナちゃん。

ユスラの大きな胸部とミアちゃんの慎ましい胸部を比較しちゃったってバレちゃうよ?



「もう思いつかないから路地裏にでも放り込んでおきましょうか。

 良からぬことを考える人がいたとしても、外部から干渉できる人もいないでしょうし」


 アイちゃん並の凄腕魔術師が偶然通りかかったとかでない限り、一応ユスラの安全も保証されているのだ。残念。



「何時までもこんなのに時間使ってる場合じゃないよ。

 今日は楽しいショッピングなんだから♪

 むしろ早々に遭遇してしまった事を感謝すべきかもよ?

 期せずして脅威の隔離に成功したんだし。

 これで私が術を解かない限り平和に過ごせるね♪」


「いっそ町を出るまでこのままにしておくのはどうかしら」


「無理だよ。

 この術、維持が結構大変なんだから」


「精進なさいな」


 そりゃあするけどさ。

でもこんな理由では嫌だなぁ……。



 ユスラ入り遅延結界を路地裏の隅っこに移した後、私達は気を取り直して買い物を再開した。


 うむむ。

結界の維持、意外としんどいな。

魔術的な負担って意味でなくて。


 何が嫌って、常に頭の片隅でユスラを封じる結界に意識を向けてなければならないのだ。

これは実質、常にユスラの事を考え続けてしまう事にもなる。


 それに対する精神的なストレスが半端ない。

次回から、込めた魔力の分だけ維持できるような術式を考えてみよう。

次回なんて無いに越したことはないけれど。



「私も転移早く覚えなきゃ」


 逃げるにせよ、飛ばすにせよ、あると便利に違いない。



「まだ師匠が認めてくれないんでしょ?」


「そうなの。

 とは言え、自力での習得にはとやかく言わないと思うの。

 むしろ喜んでくれると思う。

 よくよく考えると、お師匠様も大概私に甘いよね」


 最初の頃は私が勝手をするのは嫌がってたのに。

今も相談には乗ってくれないけれど、初めての術を披露すると毎回褒めてくれるのだ。

アイちゃんも褒めて伸ばす方針に宗旨替えしたのかもしれない。



「そういうとこだよ。ホノ姉。

 例えそう思っていても、口にしちゃダメだよ。

 今の言葉をキッカケに、師匠だって考え直すかもしれないんだよ?」


 それ言い出すと、向こうには私の心がわかるへーちゃんがいるんだし、考えた時点でアウトな気もする。


 まあでも、フィナちゃんの言ってる事がわからないわけじゃない。

ちゃんとフィナお姉ちゃんの言う事を聞いて成長していくとしよう。



「うん。気をつけるね、お姉ちゃん」


「外では止めなさいと言ったはずよ、ホノカ」


 今度はミアお姉ちゃんから窘められた。

そうだね。外でのお姉ちゃん呼びは禁止されてたんだった。



「はい。気を付けます」


「良い子だね♪ホノ姉♪」


 背伸びして私の頭を撫でるフィナちゃん。

これは良いのかしら?


 まあ問題ないか。

小さい子が背伸びしてお姉さんぶってるようにしか見えないだろうし。



「結局フィナも甘やかしてるじゃない」


「うぐっ……だってホノ姉ってなんだか……」


「わかるわ」


「だよね!」


「何の話?」


「内緒よ」

「内緒!」


 そっかぁ~。

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