表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/334

01-13.鑑定

 盗賊達を始末しながら、アジトの奥へと歩を進める。

ミアちゃんは道すがら盗賊退治のセオリーを教えてくれた。


 基本的に盗品の類は討伐した者が拾得して良いそうだ。

どうしても取り戻したい場合は、回収する事を目的に依頼を出すので、今回のようにただ討伐を依頼されただけなら、何処かに納める義務も無い。


 それでも普通の盗賊達なら、殆ど溜め込んだりはせずに散財してしまうので、大した量にはならない。

精々が、首領や幹部の装備品くらいだ。

稀にやたらと貴重な装備を身に着けている者もいるらしい。


 どうやら今回もそのパターンだったようだ。

ミアちゃんは首領だった男の腰から、なんだか怪しげなナイフを抜き取って掲げている。



「そんなの触って大丈夫なの?

 呪われたりしない?」


「大丈夫よ。

 ところで、鑑定は使えないのかしら」


「うん。まだ無理よ」


「まだ?」


「間違えた。

 無理。使えない。

 あれってスキルかあの水晶が必要なんじゃないの?」


「そうね。

 それ以外だとレンズ型のものもあるそうよ」


「その様子だとミアちゃんも使えないのね」


「ええ。

 私達の中ではレンが使えたわ」


「よりによって」


「ふふ。そうね。

 よくイタズラに利用していたわ」


「レンって人間は見れたの?」


「いいえ。

 見れたのは道具の類だけよ。

 というか、人間を鑑定できるスキルなんて聞いたことが無いわ。

 鑑定の水晶が存在する以上、あってもおかしくは無さそうだけど」


「そう……」


「ホノカのスキルってなんなの?」


「……内緒」


「私が信用できない?」


「そうじゃない」


「知られるのが怖い?」


「そんなとこ」


「私のホノカを見る目が変わるとでも思うの?」


「……」


「見くびられたものね」


「違うの。そうじゃないの」


「どう違うってのよ」


「言えないけど……

 でも、ミアちゃんの事を信じてないからじゃないの」


「私をホノカを利用していたバカ共と同じだと思ってるの?

 私の意思に関わらず、私の考えが変わるとでも?」


「何を言っているのかわからないわ」


「惚けるのね。

 まあいいわ。

 どうせいつかは明かしてくれるのでしょうし。

 焦らず解かしていくとしましょう」


「……」


「ほら、落ち込まないと約束したでしょ。

 笑いなさい、ホノカ」


「流石に笑えないわ。

 この状況じゃ」


「相手は盗賊よ。

 こんな穏便な方法で始末するなんて勿体ないくらいには、人々を苦しめてきたのよ。

 この規模の盗賊団が食っていくのに、どれだけの人が犠牲になったかなんて想像も出来ないでしょう?」


「うん……」


「ホノカの精神性は不自然すぎるわ。

 まるで想像も出来ない程平和な国で産まれたみたい。

 しかも、そこから無理やり引き離されて戦わされたのね。

 戦う力も強制的に身に着けさせられたはずよ。

 ホノカの思考や隙の多さは、自らの意思で高みを目指して、自ら戦いに身を置いてきた者のそれではないわ」


「……」


「そうなると、奴隷として売られたか、誘拐されたか。

 それも、ホノカの持つ強力なスキルを目当てに。

 だからスキルを明かしたくないんだわ。

 私がどうこうと言うより、それすらもトラウマなのよ」


「やめて」


「なら話してしまいなさいな。

 必ず受け止めてあげるから」


「お願い。もうこの話は」


「わかったわ。

 今は勘弁してあげる。

 順番が違うものね」


「何をしても話さないってば」


「それはどうかしら」


「それより、もう良いの?」


「ええこの辺りは一通り済んだわ」


「なら行きましょう。

 何時までもこんな所にはいたくないわ」


「そうね」


 私達は更にアジトの奥へと進んでいく。

首領って普通は一番奥に陣取ってるものじゃないのかしら。

でも、手配書の特徴と一致するし、間違いじゃ無さそうなんだけど。



「逃げる為よ。

 このアジトは洞窟の中だもの。

 本当に一番奥じゃ、攻め込まれた時に逃げ道を塞がれてしまうでしょう?

 つまり、これ以上奥には分岐も無いはずよ。

 完全な袋小路。

 上手くすれば宝物庫でもあるかもね」


「隠し通路とかは?」


「ここの地質では無理ね」


「なんでそこまでわかるの?」


「音よ。

 床も壁も硬すぎるわ。

 自分たちで掘ったのではなく、自然のものでしょうね」


「寝づらそう」


「ふふ。この状況でそんな事を心配するの?」


「睡眠は大切よ」


「なら朝はもう少し寝かせてくれても良いじゃない」


「質の話よ。

 ダラダラと長時間眠るのは違うわ」


「拘りがあるのね」


「ミアちゃんがだらしないだけじゃない」


「体質よ」


「猫の血でも流れてるの?」


「よくわかったわね」


「え?本当に?」


「ええ。私の曾祖母は猫系の獣人よ」


「殆ど関係ないじゃない。

 実際、身体的な特徴は無いんだし」


「そうでもないわ。

 外見はともかく、中身は結構影響あるのよ」


「中身って体の作りがって事よね?

 精神性だけ継いだから寝坊助だなんて言わないよね?」


「ふふ。今のは少しだけ面白かったわ」


「別に冗談言ったわけじゃないんだけど」


「そんな事より、着いたわよ」


 洞窟内に作られた盗賊のアジトの最奥には、いくつかの牢屋が並んでいた。

どうやら宝物庫では無かったらしい。


 見張りと思しき男が眠りについている。

その男の側にある牢屋の中にも小柄な人物が倒れていた。

嫌だなぁ……

こういうの見たくなかったなぁ……



「ホノカ、治療をお願い」


 手早く見張りを始末したミアちゃんが、牢を開け放って、倒れていた少女を抱きかかえる。

さっきまでののんびりとした動きが嘘のように、一瞬の出来事だった。


 私はミアちゃんの下へ近づき、ミアちゃんに抱えられた少女に治療魔法をかける。

とは言え、元々大した傷も無かった。

多少の擦り傷が出来ていた程度だ。


 盗賊達が手を出すには幼すぎたのか、何か人質としての価値があったのか、理由は定かでは無いが、どうやらこの少女は無事らしい。


 というかこの子、随分と良い生地の服を着ている。

どこぞの貴族の息女だろうか。

盗賊達が丁重に扱ったという事は、手を出してはいけない相手とやらなのだろうか。

それとも、下級貴族の娘でも人質としての役割が済むまでは、こんなものなのだろうか。


 ミアちゃんは何も言わずに少女を抱えて歩き出した。

もうこのアジトに用は無い。

早く落ち着ける所に移動しよう。

きっとミアちゃんもそう考えているのだろう。


 私は念の為周囲を確認してから、ミアちゃんに続いて歩き出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ