01-13.鑑定
盗賊達を始末しながら、アジトの奥へと歩を進める。
ミアちゃんは道すがら盗賊退治のセオリーを教えてくれた。
基本的に盗品の類は討伐した者が拾得して良いそうだ。
どうしても取り戻したい場合は、回収する事を目的に依頼を出すので、今回のようにただ討伐を依頼されただけなら、何処かに納める義務も無い。
それでも普通の盗賊達なら、殆ど溜め込んだりはせずに散財してしまうので、大した量にはならない。
精々が、首領や幹部の装備品くらいだ。
稀にやたらと貴重な装備を身に着けている者もいるらしい。
どうやら今回もそのパターンだったようだ。
ミアちゃんは首領だった男の腰から、なんだか怪しげなナイフを抜き取って掲げている。
「そんなの触って大丈夫なの?
呪われたりしない?」
「大丈夫よ。
ところで、鑑定は使えないのかしら」
「うん。まだ無理よ」
「まだ?」
「間違えた。
無理。使えない。
あれってスキルかあの水晶が必要なんじゃないの?」
「そうね。
それ以外だとレンズ型のものもあるそうよ」
「その様子だとミアちゃんも使えないのね」
「ええ。
私達の中ではレンが使えたわ」
「よりによって」
「ふふ。そうね。
よくイタズラに利用していたわ」
「レンって人間は見れたの?」
「いいえ。
見れたのは道具の類だけよ。
というか、人間を鑑定できるスキルなんて聞いたことが無いわ。
鑑定の水晶が存在する以上、あってもおかしくは無さそうだけど」
「そう……」
「ホノカのスキルってなんなの?」
「……内緒」
「私が信用できない?」
「そうじゃない」
「知られるのが怖い?」
「そんなとこ」
「私のホノカを見る目が変わるとでも思うの?」
「……」
「見くびられたものね」
「違うの。そうじゃないの」
「どう違うってのよ」
「言えないけど……
でも、ミアちゃんの事を信じてないからじゃないの」
「私をホノカを利用していたバカ共と同じだと思ってるの?
私の意思に関わらず、私の考えが変わるとでも?」
「何を言っているのかわからないわ」
「惚けるのね。
まあいいわ。
どうせいつかは明かしてくれるのでしょうし。
焦らず解かしていくとしましょう」
「……」
「ほら、落ち込まないと約束したでしょ。
笑いなさい、ホノカ」
「流石に笑えないわ。
この状況じゃ」
「相手は盗賊よ。
こんな穏便な方法で始末するなんて勿体ないくらいには、人々を苦しめてきたのよ。
この規模の盗賊団が食っていくのに、どれだけの人が犠牲になったかなんて想像も出来ないでしょう?」
「うん……」
「ホノカの精神性は不自然すぎるわ。
まるで想像も出来ない程平和な国で産まれたみたい。
しかも、そこから無理やり引き離されて戦わされたのね。
戦う力も強制的に身に着けさせられたはずよ。
ホノカの思考や隙の多さは、自らの意思で高みを目指して、自ら戦いに身を置いてきた者のそれではないわ」
「……」
「そうなると、奴隷として売られたか、誘拐されたか。
それも、ホノカの持つ強力なスキルを目当てに。
だからスキルを明かしたくないんだわ。
私がどうこうと言うより、それすらもトラウマなのよ」
「やめて」
「なら話してしまいなさいな。
必ず受け止めてあげるから」
「お願い。もうこの話は」
「わかったわ。
今は勘弁してあげる。
順番が違うものね」
「何をしても話さないってば」
「それはどうかしら」
「それより、もう良いの?」
「ええこの辺りは一通り済んだわ」
「なら行きましょう。
何時までもこんな所にはいたくないわ」
「そうね」
私達は更にアジトの奥へと進んでいく。
首領って普通は一番奥に陣取ってるものじゃないのかしら。
でも、手配書の特徴と一致するし、間違いじゃ無さそうなんだけど。
「逃げる為よ。
このアジトは洞窟の中だもの。
本当に一番奥じゃ、攻め込まれた時に逃げ道を塞がれてしまうでしょう?
つまり、これ以上奥には分岐も無いはずよ。
完全な袋小路。
上手くすれば宝物庫でもあるかもね」
「隠し通路とかは?」
「ここの地質では無理ね」
「なんでそこまでわかるの?」
「音よ。
床も壁も硬すぎるわ。
自分たちで掘ったのではなく、自然のものでしょうね」
「寝づらそう」
「ふふ。この状況でそんな事を心配するの?」
「睡眠は大切よ」
「なら朝はもう少し寝かせてくれても良いじゃない」
「質の話よ。
ダラダラと長時間眠るのは違うわ」
「拘りがあるのね」
「ミアちゃんがだらしないだけじゃない」
「体質よ」
「猫の血でも流れてるの?」
「よくわかったわね」
「え?本当に?」
「ええ。私の曾祖母は猫系の獣人よ」
「殆ど関係ないじゃない。
実際、身体的な特徴は無いんだし」
「そうでもないわ。
外見はともかく、中身は結構影響あるのよ」
「中身って体の作りがって事よね?
精神性だけ継いだから寝坊助だなんて言わないよね?」
「ふふ。今のは少しだけ面白かったわ」
「別に冗談言ったわけじゃないんだけど」
「そんな事より、着いたわよ」
洞窟内に作られた盗賊のアジトの最奥には、いくつかの牢屋が並んでいた。
どうやら宝物庫では無かったらしい。
見張りと思しき男が眠りについている。
その男の側にある牢屋の中にも小柄な人物が倒れていた。
嫌だなぁ……
こういうの見たくなかったなぁ……
「ホノカ、治療をお願い」
手早く見張りを始末したミアちゃんが、牢を開け放って、倒れていた少女を抱きかかえる。
さっきまでののんびりとした動きが嘘のように、一瞬の出来事だった。
私はミアちゃんの下へ近づき、ミアちゃんに抱えられた少女に治療魔法をかける。
とは言え、元々大した傷も無かった。
多少の擦り傷が出来ていた程度だ。
盗賊達が手を出すには幼すぎたのか、何か人質としての価値があったのか、理由は定かでは無いが、どうやらこの少女は無事らしい。
というかこの子、随分と良い生地の服を着ている。
どこぞの貴族の息女だろうか。
盗賊達が丁重に扱ったという事は、手を出してはいけない相手とやらなのだろうか。
それとも、下級貴族の娘でも人質としての役割が済むまでは、こんなものなのだろうか。
ミアちゃんは何も言わずに少女を抱えて歩き出した。
もうこのアジトに用は無い。
早く落ち着ける所に移動しよう。
きっとミアちゃんもそう考えているのだろう。
私は念の為周囲を確認してから、ミアちゃんに続いて歩き出した。




