03-26.意地悪
「あの場所は異界と呼ぶんだって。
この世界とは異なる存在が形成した空間で、主である魔物を倒す事で消滅するみたい。
今回は主を封印しただけなんだけど、上手くいったみたいでよかったね」
「それもへーから聞いたのね」
「うん。
へーちゃんったら、ミアちゃん達を見つけた途端帰っちゃったの。
戦うつもりが無いとは言っていたけれど、まさか置いていかれちゃうとは思わなかったなぁ」
「ホノカなら問題ないと踏んでいたのよ。
実際、圧倒的だったじゃない。
おかげで助かったわ」
「うん……」
「どうしたの?
誰一人怪我もなく無事に終わったのに、なぜホノカが落ち込んでいるの?」
「……それはミアちゃんの方でしょ?」
「私?
私はなんとも無いわ。
どこも怪我なんてしていないもの。
気になるなら見てみる?
ホノカなら全身どこを見ても構わないわよ。
何だったら、触診もしてくれると嬉しいわね」
「後でね、ミアちゃん」
「「「「!?」」」」
「あっいや、触診の方じゃないよ!?
この件の続きを話し合うのは後でねって意味で!」
「あ!そうだよね!
ごめんね!ホノカさん!ミアさん!
真面目な話してるのに空気読めなくて!」
「ううん。元はと言えばミアちゃんが悪いんだよ。
素直になれないのはわかるけど、そんなセクハラで誤魔化そうとしなくたっていいじゃん。
そりゃあ、皆の前でこんな話始めた私も悪いんだけどさ。
でも、私はミアちゃんの事が心配なんだよ?
勿論、私だけじゃなくてベルタちゃん達もね」
「……ごめんなさい」
「あ!いや!ごめんなさい!
違うの!ミアちゃんを責めたかったわけじゃなくて!!」
「ふふ。もう。
大丈夫よ、ホノカ。
落ち着きなさいな。
私も切り替えるわ。
皆も、悪かったわね。
私は大して役に立てなかった。
けれど、皆が無事でいてくれて嬉しいわ。
最後までよく私の言う事を聞いて、大人しくしていてくれたわね。
ありがとう、ベルタ、ジャン、ラウル、マリカ。
本当に感謝しているわ」
「ミアさん!!私達の方こそ!!
いっぱい足引っ張ってごめんなぁざぁい!!
うわぁぁぁん!!!」
ベルタちゃんが真っ先にミアちゃんに泣きついた。
ジャンとラウル、それにマリカちゃんまでもが泣き始めた。
そのまま皆で口々にミアちゃんにお礼を告げていく。
どうやらようやく実感が追いついてきたようだ。
つい先程までの状況があまりにも現実感が無さすぎて、夢幻のようにすら思えていたのだろう。
無理もない。
あの魔物はミアちゃんですら太刀打ち出来ない相手だ。
そんな奴を相手に、この子達がなにか出来るはずもない。
もしミアちゃんがいなければ、間違いなく何の抵抗も出来ずに殺されていた。
しかもミアちゃんは、数時間に渡ってあの魔物と戦い続けていたそうだ。
何も出来ず、ただ怯えて固まっているしか無かった子供達も、想像を絶する恐怖を感じていたことだろう。
本当によく全員が無事で生き延びてくれたものだ。
万が一誰か一人でも欠けていたなら、ミアちゃんは再びトラウマを抱えてしまったはずだ。
私も心の中で感謝を告げる。
子供達に、そして頑張ってくれたミアちゃんとキアラに。
暫く子供達が泣き止む事はなかった。
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お昼を食べて落ち着いた私達は、長めの休息を取ってから町に帰還した。
結局ボア狩りは出来なかったけれど、その日は満場一致で解散する事になった。
とはいえ、既に全員立ち直っているようだ。
明日は一日お休みにしたものの、明後日にリベンジする事になったのだった。
「一度宿に戻ろっか。
ミアちゃん、仮眠したいでしょ?」
「そうね。そうしましょう。
こんな顔、フィナには見せられないもの」
「膝枕と抱き枕、どっちがいい?」
「……折角だけど膝枕でお願いするわ」
「うん。わかった。
いっぱい頭撫でてあげるね」
「ええ」
「ミアちゃん」
「なに?」
「お疲れ様。よく頑張ったね」
「……もう。ホノカのバカ。
そういうのは宿についてからにしなさいよ……」
私はミアちゃんを路地裏に連れ込んで抱きしめる。
そのままミアちゃんの頭を抱えて、暫く撫で続けた。
「キス」
どうやら落ち着いたらしい。
調子に乗って接吻を御所望になられたミア様。
「顔上げて」
素直に顔を上げて目を閉じるミアちゃん。
私は躊躇せずに、ミアちゃんと唇を重ねた。
「……まさか本当にしてくれるなんて」
真っ赤な顔で自らの唇に指を添えるミアちゃん。
「オデコにされると思った?」
「ホノカならそうするはずよ。
さてはあなた、偽物ね?」
「ふふ。そんなわけないじゃん。
今日だけ。特別だよ」
「たまには弱るのも悪くないわね」
「もう大丈夫みたいだね。
いつものミアちゃんに戻ってくれて安心したよ」
「まだまだよ。
全然足りてないわ」
「そうは見えないなぁ~」
「この意地悪な感じ、間違いなく私のホノカね」
「そうだよ。
ミアちゃんだけの私なんだから。
安心して側にいてね」
「ホノカも変わったわね」
「そうかもね。
全部ミアちゃんのおかげだよ。
何も出来ないなんて思わないでね。
私のミアちゃんは誰よりも強くて優しい子なんだから」
「……やっぱり意地悪だわ」
「ミアちゃんにだけだよ。
嬉しいでしょ?」
「……バカ」




