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01-01.幼馴染

「クビだ」


「またかよ。

 どうせまた戻って来いって泣きつくんだぜ?

 そろそろ学習しろよ」


「やかましい!

 今度という今度こそ絶対に許さん!

 二度とその面見せるな!」


「これでいいか?」


 こんな事もあろうかと用意しておいた仮面を被るレン。



「レン君、ふざけてないでちゃんと謝って。

 流石に今のはレン君が悪いよ」


「そうよ、レン。

 折角ザインが我慢していたのだから、最後まで真面目に付き合いなさいな」


「仕方ねえなぁ。

 悪かった、ザイン。

 調子に乗りすぎた」


「許さんと言っているだろうが!

 出ていけ!今すぐだ!」


「ザッ君もだよ!

 そんな事言っちゃダメだってば!

 レン君、本当に出ていっちゃうんだから!」


「落ち着きなさい、ザイン。

 レンだって謝ってるじゃない。

 たかが肉の一切れでバカみたいに騒いでるんじゃないわよ」


「もういい!

 お前らがそのつもりなら俺が出ていく!」


 そう吐き捨てて、本当にギルドハウスを飛び出してしまうザイン。

幼馴染四人組で結成したパーティーだったが、喧嘩別れはしょっちゅうだ。

誰か二人が喧嘩すると、残りの二人に諭されて頭を下げる事になる。

そんな事を繰り返しながらも、何だかんだと四人仲良く?続いてきた。


 今では、いっぱしにギルドハウスまで構えられるようになった。

それだけの資産を持てたのは、冒険者として一人前になった証とも言える。

個々の能力も優秀だが、何より四人全員のチームワークがあってこそだ。


 だからこそ、誰か一人でも抜けると大きく戦力ダウンする事になる。

次の遠征までにはザインを呼び戻さなければならない。


 ザインが出ていくこともそう珍しい事ではないが、レンが出ていく、というか追い出される事の方が圧倒的に多い。

お調子者のレンと、生真面目でキレやすいザインは、根本的に相性が悪い。


 とはいえ、たった一切れの肉を横取りされたくらいで出ていくのは馬鹿らしいとしか言いようがない。

いくら、ザインが不承不承ながらレンに謝罪したばかりで、鬱憤を溜めていたにしてもだ。

このパーティーが空中分解するのも時間の問題ではなかろうか。


 新しい勤め先を探しておくべきかしら。

でも、ニナちゃんもミアちゃんも可愛いしなぁ。

辞めたくないなぁ……。


 私はレン、ニナ、ミアの空いた食器を片付けて、代わりに食後のお茶を並べていく。



「ありがとう!ホノカさん!」


「いえ、お仕事ですから。

 それよりも、申し訳ございません。

 食事が物足りなかったようで、いらぬトラブルを招いてしまいました」


「気にしないで、ホノカさんのせいじゃないわ。

 今日も美味しかったわ。ありがとう、ホノカさん」


「ありがとうございます。

 喜んでいただけて何よりです」


「ホノカさん、お茶だけでもご一緒なさってはいかがですか?」


 さっきまでの口調が嘘のように丁寧な態度を取るレン。

どうやら、私に気があるらしい。

とはいえ、雇い主とそんな関係になるつもりはない。

そもそも、ニナちゃんは明らかにレンを好いている。

横取りなど論外だ。

そうでなくとも、お子様に興味など無いのだけど。



「お誘いありがとうございます。

 折角ですが、遠慮させて頂きます。

 また何かありましたらお申し付けくださいませ」


 私は食器を乗せたトレイを持ってキッチンに戻る。

とはいえ、キッチンと食堂はすぐ隣で繋がっているので、皆の会話も丸聞こえだ。



「や~い、振られてやんの~」


「レン君!ナンパはダメだよ!

 どう見てもホノカさんは脈なしだよ!

 雇い主がそういうのするとパワハラになっちゃうよ!

 セクハラだよ!

 ちゃんと現実見てよ!」


「ひでぇ……」


「いや、そんな事よりもよ。

 折角レンが戻ってきたのに、これじゃあ意味ないじゃない。

 レン!今すぐザインを連れ戻しに行きなさい!

 明日出発なのよ!

 もう馬車も抑えちゃってるのよ!

 キャンセルなんて許さないわ!」


「仕方ねえなぁ~。

 ニア、場所はいつものか?」


「うん、くれぐれも穏便にだよ。

 次あの店で暴れたら出禁になるからね」


「おっちゃん、まだ俺の事出禁にしてなかったのか?

 前回、随分と派手にぶち壊しちまったのに。

 まあ、確かにしこたま絞られはしたが、出禁とまでは言われてなかったな」


「いい加減、顔出せって言ってたわよ。

 ついでにまた謝っておきなさい」


「朝までには帰ってきてね」


「おう。行ってくるぜ」


 今度はレンがギルドハウスを出ていった。

誰一人、ザインを連れ戻せないとは思っていないようだ。

まあ、レンはともかく、ザインなら本当にニナとミアにまで迷惑のかかる行為はしないだろう。

遠征前夜に飛び出した以上は、渋々ながらも明日の朝には戻るはずだ。

レンが迎えに行くのも織り込み済みで、わざわざ何時もの酒場に向かったのだろうし。

魔法使いのニナちゃんが場所を探知したので間違いない。


 私はニナちゃんとミアちゃんに、食後のデザートを持っていく。

レンとザインの分も二人に食べてもらいましょう。

どうせこの状況なら本当に朝まで帰っては来ないでしょうし。



「わぁ!

 これホノカさんが作ったんですか!?」


「はい、どうぞお召し上がりください」


「ホノカさん、私と結婚しましょう」


「嬉しいです、ミアさん。

 よろしくお願いします」


「え?」


「ホノカさんもそんな冗談言うのね。

 びっくりしたわ」


 ミアちゃんなら本気で嫁入りしても良いんだけど。

可愛いし。お金持ちだし。女の子だし。



「ふふ。

 申し訳ございません、つい出来心で」


「あ!なんだ冗談ですか!」


「しくじったわね。

 このままなし崩しにするべきだったわ」


「ミアちゃんにはザッ君がいるでしょ」


「嫌よ、あんなの」


「またまた~

 素直じゃないんだから~」


「私、三人の中から誰か選ぶならニナが良いわ。

 早速、寝室に行きましょうか」


「待って!?

 冗談だよね!?」


「レンに取られる前に少し味見するだけよ」


「味見!?

 何されるの!?」


「そんなに気になるのね。

 なら仕方ないわ。

 今夜は寝かさないから」


 ニナちゃんの頬を撫でるミアちゃん。

良いわね。私も混ざりたい。



「ダメだよ!私の初めてはレ……

 そうだ!それよりケーキ食べよ!

 せっかくホノカさんが作ってくれたんだよ!」


「ぷっふふ。そうね。

 大丈夫よ、冗談だから、ふふ。

 安心して、ふふ」


「笑い過ぎだよ!!」


「ニナ顔真っ赤。ふふ」


「ミアちゃんのせいでしょ!!」


「ニナさん、お茶のお代わりは如何ですか?」


「お願いします……」


 真っ赤になって俯くニナちゃん。

今のやり取りを私にも聞かれていると、ようやく気付いたのかもしれない。



「私も頂くわ」


「はい、ミアさん」


 私は順に二人のカップにお代わりを注いでいく。



「ホノカさん、このケーキもとっても美味しいわ。

 前は何処で働いていたの?

 それなりに長い付き合いなのだし、そろそろ少しくらいは教えてくれても良いんじゃない?」


「申し訳ございません。

 どうかご容赦を」


「ダメだよ、ミアちゃん。

 無理やり聞き出そうとして、もしホノカさんが辞めちゃったらどうするの?」


「そうね、ごめんなさい。

 もう聞かないわ」


「感謝いたします」


「その代わりではないけれど、少しくらいはお茶に付き合って下さらないかしら。

 レンは振られてしまったようだけど、私とならどう?」


「そこまで仰られてはお断りするのも無粋ですね。

 是非ご一緒させてください。

 ですが、どうかレンさんにはご内密に」


「ふふ、良いわ。

 お安い御用よ」


「わぁ~!

 嬉しいですホノカさん!

 いっぱいお話ししたいと思ってたんです!」


「ありがとうございます。

 ですが、お二人は明日も早いのですから、少しだけと致しましょう」


「そうね。

 明日の朝は男二人が役に立たないでしょうし、今日は早めに休みましょう」


「なら短い時間でいっぱいお話するだけだよ!」


「ふふ、ニナさんは前向きですね。

 なんだか、とっても可愛らしいです」


「かわ!?」


「ホノカさん、やっぱり話がわかるわね。

 本気で狙ってしまおうかしら」


「ダメだってば!

 無理やり迫ったりしたらホノカさん辞めちゃうよ!」


「ニナも興味があるの?

 なら、ハッキリそう言いなさいよ」


「違うってば!!」


「ふふ。お二人は相変わらず仲がよろしいのですね」


「そうよ~。

 男共にも見習ってほしいものだわ」


「そう言いながら、ミアちゃんだって、しょっちゅう二人と喧嘩するくせに」


「ニナとレンもじゃない。

 やっぱり、レンが一番悪いんじゃない?

 あの朴念仁は何時になったら気付くのかしら」


「その話はダメだよ!!」


「大丈夫よ、ホノカさんだってとっくに気付いているわ。

 レンに迫られると、ニナの方を気にしているもの」


「え!?」


「流石ですね、ミアさん。

 まさか気付かれてしまうとは」


「むしろホノカさんこそ。

 意識の向け方が普通の人じゃないわ。

 ニナは鋭い方でもないけど、これでも高ランク冒険者よ。

 そのニナに気付かせないなんて、本当に何者なの?

 メイドの前は暗殺者でもやってたとか言わないわよね」


「御冗談を。

 私はしがない雇われメイドです。

 きっと、ニナさんはレンさんの言動に気が気では無かったのでしょう」


「そういう事にしておいてあげるわ」


「ホノカさん、少しだけ、話せる範囲でホノカさんの事を教えてくれませんか?

 過去の事は聞きません。

 好きなお菓子とか、そんな事で良いんです。

 私達はもっとホノカさんと仲良くなりたいんです」


「そうですね……

 お菓子は何でも好きですが、強いて上げるならチョコレートでしょうか」


「ちょこれーと?」


「ふふ、すみません。

 この辺りでは馴染の無いものでしたね。

 甘くて苦いとっても美味しいお菓子です。

 私の故郷ではそのまま食べたり、ケーキに混ぜたり、溶かしてミルクと合わせて飲んだりと、様々な方法で楽しまれていました」


「いいなぁ~

 食べてみたいな~」


「どうにかして取り寄せられないの?」


「そうですね。

 難しいと思います。

 私の故郷はこの国とは遠く離れた地ですから。

 この辺りでも似たようなものが無いかと思い、探してはいるのですが」


「そういう事なら私に任せなさい。

 遠征後にはなるけれど、必ず見つけ出してあげるわ。

 そのちょこれーととやらを詳しく教えなさい」


「宜しいのですか?

 私には皆様にお支払いできる対価などございませんよ?」


「対価なら体で払って頂戴」


「ミアちゃん!?」


「かしこまりました。

 感謝いたします」


「ホノカさんまで!?

 何言ってるの!?」


「必ずや、ご満足頂けるものをお作りします」


「楽しみにしてるわ。ちょこれーとのケーキ」


「え?」


「ニナは何を想像したの?」


「またお顔が真っ赤ですよ、ニナさん」


「二人とも!!」


 楽しい談笑の時間はあっという間に過ぎ去り、ニナちゃんとミアちゃんは自室に引き上げていった。


 翌日レンとザインも無事に合流し、四人揃って旅立った。

私はその間この家の管理を任されている。

これも何時もの事だ。


 それから一ヶ月後、予定を大幅に過ぎてもあの子達は戻らなかった。

とはいえ、これもまた何時もの事だ。

なのに、妙な胸騒ぎが湧いてくる。

おかしい。

予定がズレるなんて珍しくも無いのに。

私は何を不安に思っているのだろう。


 きっとまたレンの気まぐれに付き合わされているだけだ。

もしくはザインが妙な拘りを発揮しているのかもしれない。

ニナちゃんが趣味の遺跡探索に夢中になっているのかも。

はたまた、ミアちゃんが遠征ついでにチョコレートを探してくれているのかも。


 きっともうすぐ帰ってきて、そんな冒険話を愚痴も交えながら、それでも楽しげに語って聞かせてくれるはずだ。

私はあの子達のお世話をしながら、耳を傾けるのだ。

そんな何時もが、もうすぐ帰って来るはずだ。


 それから更に数日後、突然ギルドハウスの扉が開いた。

私は逸る気持ちを抑えながら、出迎えに向かう。

おかえりなさいませ、と告げる為に。

ただいま、と返してもらう為に。


 玄関にいたのはミアちゃんだけだった。

他の子達は馬車を返しに行ってるのかしら。

レンまで一緒に行くなんて珍しい。

何時もはザインとニナちゃんが率先して引き受けて、他の二人は真っ先に家に帰ってくるのに。



「おかえりなさいませ。

 ミアさん」


「……ただいま」


 ミアちゃんは小さな声で呟いてから、私に抱きついた。



「いかが致しましたか?

 長旅でお疲れですか?」


「……」


 ミアちゃん?泣いてるの?

私はミアちゃんを抱きしめ返す。


 随分と長い事そうしていたミアちゃんは、私の体を離すとゆっくりと歩き始めた。

私はミアちゃんの手を取って、リビングのソファに導く。


 ソファに腰を下ろしたミアちゃんは、少しずつ話しを始めた。

それは、幼馴染達の最期についてだった。

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