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【番外編】 リリスの葛藤 リュークの暗躍

たくさんの方にお読み頂き感謝感謝です(*^^*)

そんな気持ちを込めまして番外編を更新致します。

よろしくお願い致します!!


そして誤字報告ありがとうございます!!すみませんっ。


 先月私は様々な出来事があった学園を(というか最後の一年だけ濃すぎた)卒業した。

 今はリューク様の離宮で王子妃教育を受けたり簡単な公務をこなしたりしながら日々を過ごしている。


 ちなみにこの時間、リューク様は学園に通われており不在だ。

 

 …いつも思うんだけど。


 主のいない離宮に婚約者とはいえ他人を好きにのさばらせておくなんて、王宮のセキュリティって一体どうなっているのかしら…?


 もちろん私は、そこらへんに雑に散らばっている国家機密の書類なんか盗み見ることはしませんわよ?というか頼まれたって絶対に見ない。

 離宮にある宝物庫の鍵だってテーブルにポーンと置いてあるけど、視線すら寄越さない。「国宝級のお宝あげるよ!」と言われても秒で断る。


 私はこんな幼稚なトラップには絶対引っかからないんだからね!


 トラップに引っかかったら最後―――「もう家族(王族)になるしかないよね!」とリュークとそのロイヤルファミリーに言いくるめられ、一週間以内に結婚式まで終える事態に追い込まれてしまうに違いない。


 今すぐに結婚したいリューク様ととまだ結婚したくない私の攻防戦が、日に日に激化していく……!なんて面倒なの!?


 私にまったく結婚願望がなかったとはいえ、リューク様のことは好きだし、外堀が埋まって逃走不可になってしまった今、リューク様と結婚する未来に忌避感はない。


 でも―――私には特大の悩みがある。


 こんな曖昧な状態でリュークと結婚してもいいのかしら?、と。


 一度頭を過ぎってしまった疑問の答えは、いまだ見つからない。



 私とリューク様は先月行われた卒業パーティーで想いを伝え合い、晴れて婚約を結ぶに至った。


 あれ……?そもそも私ってリューク様に想いを伝えたっけ?

 心の中で盛大に「大好き!」「可愛い!」「とにかく可愛い!!」と盛り上がってはいたが、リューク様に直接伝えてはいなかったような……?


 まぁ、どうせ勝手に伝わるからいいでしょ、と首を振ったところで何に悩んでいたのかを思い出す。


 これなのよっ……!!!


 散々知りたくない気づきたくないと目を逸らしてきたけれど、やっぱりいずれ結婚するならいつまでもリューク様の秘密をスルーし続けるわけにはいかないんじゃないかしら…。


 おそらく、というかほぼ確実に、リューク様は人の心を読むことが出来る。

 きっと、なんとなく〜とか、人の気持ちが色で分かる〜とか、そんな曖昧でぼんやりした力ではない。


 相手が心の中で思ったことを一字一句余すことなく読む力だ。


 そして記憶能力がずば抜けている。


「この前〜」で始まったリューク様の話の内容が三ヶ月以上前のことで、「全然この前じゃなくない!?」とツッコミを入れたことがあったな…。


 それに卒業パーティーで行われた断罪(冤罪?)事件の時のリューク様のヤバさといったら!!


 なんか冷静になってみればすごい事言ってたわ。分刻みでその日の行動や食べたもの、表情に至るまで記憶されているなんてちょっと闇……いえ、気持ちのいい話ではないわよね。


 とにかくこの二つの力を持っていることは間違いない。詳しいことは分からないけど。


 これって、小さい頃に絵本で見たことのある「女神様の最高の贈り物」、というものなのかしら?


 それなら納得だわ!!リューク様の可愛いさは女神ですらも魅了するということね。分かるわぁ。


 なぁんてことを考えつつ現実逃避をしたり、王子妃教育の課題をサクサクこなしたりしていたらリューク様が離宮に帰ってきた。


「ただいま!リリス!!」


「おかえりなさいませ、リューク様」

 

「いってきます行ってらっしゃい」「ただいまおかえり」「おはようおやすみ」の際ハグをする、というルールが知らない間に適応されていたので、今日も抱擁でリューク様をお迎えする。



「……僕はリリスに無理をしてまで知ってほしいとは思っていないからね?」


「っ!?」


 私に抱きついたままの上目遣いでニコッ、と天使のような笑顔を浮かべるリューク様の言葉によって、いらない新事実を知る。


 相手の思考を読むことに距離は関係ない……ですって……!??


 え………、ちょ、ちょっと待って。目の前の人物の思考を読む、とかじゃなくて、物理的な距離が空いてても読めるの?


 私がこのままでいいのかな〜?とか悩んでたの、結構前なんですけど!??


 その頃リューク様、まだ学園でしたよね!??



「リリス、本当に無理しなくていいんだよ。僕のことを理解しようとしてくれただけでも嬉しい」


「絶対嘘でしょ!!ちょいちょいヒント与えてくるの止めてもらえませんっ!?」


 リューク様が私に秘密をあからさまに仄めかして無理やり分からせようとしてくる〜〜〜っ!!



「だってリリスは僕に秘密があるからすぐに結婚してくれないんでしょ?だったら秘密なんていらないよ」


 ぷるんとした唇を尖らせて拗ねたように話すリューク様……なんて可愛いの…!?


「全部話して!すべて受け止めるから!!」と言って陥落しそうになるわ…。いえ、私の心の平穏の為にもそんなこと絶対に言わないけど。



「僕はね……。たまに自分に都合の良い夢を見てしまうんだ…」


「…?」


「僕の抱える秘密は重すぎる。正直、その重さに潰されて……消えてなくなってしまいたくなる時だってあった」


「っ!!!」


「もし……もしもリリスが、僕の側でずっと支えてくれたなら。この重さにも耐え切ることが出来るんじゃないかなって……」


「リューク様っ………!!」


 私はリューク様の抱える闇を垣間見て、彼を失ってしまっていたかもしれない別の未来があったことに恐怖した。





***


 リリスは賢いが、ちょっと馬鹿だし、なにより人を信じやすい。


 今も僕が自身の力に翻弄され、精神が持たずに自殺を考えたことがあると仄めかせば、リリスは目に涙を浮かべ「私ったら自分のことばかりでリューク様のお気持ちなど何も考えていなかったわ…!」と心の中で盛大に後悔し始めた。


 まぁ、これは一応嘘ではない。


 リリスに出会うまでの僕は、生きているのか死んでいるのかよく分からないような、みんなのいる世界とはどこか別の世界にいて、神にでもなった気分で人々の思考を上から好きに覗き見ているような、そんな不思議な感覚だったから。


 幼い頃は「違う世界に生きているのならばこの世界にいる僕は一体何なんだ?必要最低限の食事と睡眠を取り、吐き気と戦いながら人々の思考を読み記憶し続けるだけの僕なんて、別にいなくなっても誰も困らないのでは?むしろ僕の存在感は害悪じゃないのか?」と度々考える、とても不安定な精神状態だった。 

  

 リリスという執着対象に出会ってからは、ずっと悩まされ続けてきたこの力にちょっとは感謝してもいいかな、と思えるような図太い精神状態にまで持ち直しただけで。


 そんな風に僕が考えていることなど知らないリリスは、意を決したように真っ直ぐに僕を見つめる。



「リューク様…。私の存在が少しでもリューク様の御心の支えになれるというのならば。お聞かせ下さい、リューク様の秘密を…、すべて!!」


 ちょろい…。本当に単純で可愛い。


 可愛いかったから「ありがとう、リリス!」と言って、遠慮なく僕の秘密をぶち撒けることにした。


 力の届く一定範囲内にいるすべての人々の心の声が頭に直接聞こえてくること、そしてそのことを一生忘れることが出来ない絶対記憶能力を持っていること、力の届く範囲は年々広がっていること、ある時リリスのことを強く思い意識を向けるとリリスの心の声しか聞こえなくなったこと、その日からどこにいたとしても四六時中リリスの心の声だけを聞いて過ごしていることなどを話した。


 顔だけじゃなく頭の中まで真っ白になっているリリスに、それはもう遠慮なく。

 

 そして、「そう、ですか………。ちょっと、失礼……」と、ふらふらと自室に戻るリリスを笑顔で見送る。


 今は自分の思考が常に僕にダダ漏れだったという事実に打ちのめされているようだが問題はない。


 ベルで侍女を呼び出し、リリスの部屋に盛り盛りのお菓子を届けるよう伝える。これで明日の朝には多少回復していることだろう。 


 そして馬車の手配をしてもらいそのまま王宮へと向う。


 タイミング良く王妃である母上に面会を取り付けることが出来たので、さっそく用件を手短に告げる。


「母上、例のプランの決行をお願い致します」


「まぁ…!リリスちゃんに言っちゃったの?早くないかしら?それでリリスちゃんは……大丈夫なの?」


「はい。大量のお菓子はすでに手配済み、ディナーにはリリスの大好物である子牛の丸焼きを用意しようと思っていますので、たぶん大丈夫かと」


「そうね、それなら大丈夫ね」


 母上はリリスの食欲に絶大の信頼感を寄せている。


「分かったわ、陛下とアランとルイにも伝えるわね」


「お願い致します」



 よく似た顔の美しい二人はお上品にうふふあははと笑い合う。

 とても恐ろしいプランを決行しようとしているヤバい親子には見えなかった。





***


 もう、朝なのね……。小鳥がチュンチュン鳴いてるわ……。


 私はあれから考えることを放棄した。


 昨日は届けられた大量のお菓子を無心でバカ食いし、一人部屋でとったディナーでは子牛の丸焼きを完食。そして、寝た。


 今までだってリューク様に思考を読まれていることは分かってたじゃない。それが常に……というか四六時中だったというだけのことよ。

 

 …………いえ、ちょっと待って?やっぱりこれって結構な問題じゃなくて?私に自由な思考時間はないの?


 駄目だわ、考え出すと泥沼に嵌ってしまう。そして現在進行系でリューク様に頭の中を覗かれているっていうね、地獄のような状況よ。


 とにかく今ここであれこれ考えていても仕方ないわね、と気持ちを切り替えて侍女を呼び、王宮に向う支度を済ませる。

 今日は王妃様による王子妃教育を受ける日だ。


 朝うだうだして起きれなかったせいでリューク様を見送ることが出来なかったわ。


 そのことを少し残念に思いつつ馬車に揺られ、王宮へと向う。


 そして十五分ほどで馬車は王宮へと辿り着き、御者の手を借りて地面に降り立った瞬間異変に気づく。


 え…?なんか私、見られ過ぎじゃない??


 すれ違うお偉いさん、働く文官や侍女、一般公開されている王宮の庭園に足を運んでいた市民の人々にまで、ニコニコというか、ニヤニヤというか、なんだか生温かい眼差しで見られているような気がする。


 何かしたかしら?と首を傾げ歩いていると、前方からクラスメイトだった伯爵令嬢シャーロット様が歩いてくるのが見えた。たしか彼女は卒業後、王宮で事務官として働いているのだったわね。 



「リリス様!おはようございます!そしておめでとうございます!!!」


「はい、おはよ―――え?…おめでとうございます?」


 興奮した口調でシャーロット様がお祝いの言葉を告げて下さったけど、まったく心当たりがないわぁ。


「まぁ、リリス様。そのような高いヒールのお靴は危のうございます。今日はどちらへ?わたくしが御手を取って先導致しますわ」


「?」


「それにしてもお付きの侍女は一体何をしておりますの?主であるリリス様のお身体を慮り、履物一つ配慮することも出来ないなんて!」


「??」


「もうリリス様お一人のお身体ではないのです。御身を大事になさって下さいませね」


「!?!???!」


 シャーロット様は慈愛の微笑みを投げかけてくるけど、声を大にして言わせてちょうだい!!


 私一人の身体ですけど!?!?? 


 え、いつの間にそんな話になってるの?!??


 はっ!パニック状態に陥っている場合じゃないわ。とりあえず否定しなくちゃ―――



「―――リリス嬢、ここにいたのか」


 なぜか第一王子であるアラン様が登場した。


 とりあえずシャーロット様と共にカーテシーで出迎える。


「リリス嬢、無理をしてはいけないよ。それにしても昨日リュークから聞いて驚いたよ。……吐き気などはない?」 


 え?昨日??吐き気???

 もしかして子牛の丸焼きを一人で完食したことを言ってる?


「ご心配頂き、ありがとうございます?吐き気は、ございません?」 


 何が正解か分からなくて曖昧な返答しか出来なかったけど、アラン様はなぜか満足そうに頷かれている。

 私の隣でシャーロット様は「やっぱり…!」と興奮している。


 そしてシャーロット様の誤解を訂正する間もなく、そのままアラン様にエスコートされ、王妃であるマリア様の待つ部屋へと連れて行かれてしまった。


 え、さっきのシャーロット様の話って…そういうこと、よね?おめでた的、な……。


 王族が結婚前に子どもをこさえて大丈夫なの…?


 いえ、そもそも誤解なんだけど、でもそんな誤解が生まれること事態に問題があるわけで………。


 ぐるぐるぐるぐると思考がまとまらないまま、マリア様の待つ部屋へと通される。


 こ、ここは…謝罪一択では!?


 ただの婚約者の分際で王族であるリューク様の名誉を穢してしまったからには、リューク様のお母様であるマリア様に潔く土下座で―――


「あら、リリスちゃんいらっしゃい!」


「………」


 犯人はココニイタ―――!


「ごきげんようマリア様…………。えっと、ちなみに、今はなにを…?」 


「ああ、これ?可愛いでしょう??こういうものはいくつあっても困らないから、今のうちに用意しておこうかと思って♪」


 マリア様の広いお部屋に数々のベビーグッズがこれでもかと並べられていた。


 ちなみに今年二十二歳の王太子であるアラン様は婚約すらしていない。第二王子であるルイ様も同じく。政略とは無縁の平和な国だ。


 つまり、マリア様が行商を呼びつけ大量に仕入れたベビー服や靴下にステイ、音の鳴るおもちゃに幼児向け絵本などはすべてリューク様と私のベイビーちゃんの為のもの、ということに…。

 

 そりゃ、みんなが生温かい目で見てくるはずだわ。



「ふふ、陛下ったら最近お孫さんの産まれた公爵に赤ちゃんの抱き方とか朝の会議で聞いてたし、ルイも産まれてくる子が男の子だったら俺が剣を教えてやるんだって言いふらしているのよ。気が早いわよって言ったのに」


「それを言うなら母上もでしょう?まだ男か女かすら分からないのにこんなに用意して」 


「あら、どちらでもいいのよ。だってこの色なら男の子でも女の子でも似合うんじゃなくて?」


「まぁ、そうですね」


 おい、王太子!「そうですね」じゃないだろ!!


 おかしい………。おかしいわ。

 リューク様と婚約したことによってだいぶ落ち着いてきていたロイヤルファミリーによる外堀工事がここにきて急に活発になり出している。

 これ以上埋めなくてもリリスはもう脱出不可能ですよ!! 


 考えたくないけど、昨日のアレで今日でコレ。


 あいつが………リューク様がやりやがった!!私が部屋に籠もっている間に暗躍しましたね!?


 もう最悪だわ………。またお父様とお兄様に泣かれるじゃない。私には感傷に浸る隙もないのかしら、まったく。

 

 

 リューク様!!どうせ聞こえてるんでしょう!?帰ってきたら許さないんだから!!!


 こんなことをしなくても、リューク様の秘密を知ったからっていまさら離れるわけがないでしょう!?


 少しは私のこと信用しなさいよね!!毎分毎秒私の思考を読んでるくせに、ほんと失礼しちゃうわっ。



 私は学園にいるであろうリューク様に向かって、心の中で思いっきり愛ある悪態をついた。

番外編お読み頂きありがとうございました!!


どのような評価でも構いませんので広告の下↓にある【☆☆☆☆☆】から、 ポイントを入れてくださると嬉しいです! よろしくお願い致します(*^^*)

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