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リュークの幸運


 結論―――ミア・アボット男爵令嬢の予想を超えた働きに、僕はとても満足している。



***


 学園に入学すると、アボット男爵令嬢は学園の一部の男子学生達に「可愛い」と騒がれていたが、どこが可愛いのか僕にはまったく分からなかった。

 中身も外見も、その他大勢に埋もれて見分けがつかなくなる程度の極めて平凡なものだ。


 リリスものちにアボット嬢をチェックしにやって来たが、「リュークの方が可愛い」と評価して去って行った。ほんっと可愛い。


 アボット嬢は入学式の出会いイベントをこなしたかったようだが、そんなものに付き合う義理はない。   

 回り道をしてリリスと二人で入学式が行なわれる講堂へと向かい、イベントをスルーした。


 最初はゲームに沿った展開でイベントを起こそうと考えていたみたいだが、リリスと僕の仲が発展しそうなイベント以外すべて無視したので、当然ゲームのようにはいかない。


 次第に苛つき始めたアボット嬢は僕に露骨に接触してくるようになった。

 僕を見かけると笑顔で走り寄ってきたり、遠くから大声で呼びかけられたりと、鬱陶しいことこの上ない。

 リリスはそんなアボット嬢のことを見て、「ちょっと天然すぎない!?」とドン引きしていたが、本物の天然はリリスだよ。

 計算だけで行動しているアボット嬢に気づかないなんて…君はどれだけ可愛いの?



 ある日のこと、カフェテリアでアボット嬢が飲み物をわざと僕にかけようとしていることには勿論気づいていた。


 だけど、飲み物をかけるというふざけた行為のどこに親密度が上がる要素があるのか考えてみても分からなかった。

 分からないのでアボット嬢が僕に飲み物をかける前に、持っていたスムージーを急な大声に驚いたフリをしてリリスに頭からぶっ掛けてみた。


 案の定、リリスは僕への怒りで心の中が荒れ狂っていたが、リリスの頬を流れ落ちるスムージーを無意識の内に舐め取ってしまうと、リリスの頭の中は面白いくらいに真っ白になって、そして強烈に僕を意識し始めた。


 これだ―――!!


 僕は『イベント』の使い方を完璧にマスターした。



 次にアボット嬢は媚薬入りクッキーを僕に食べさせる、という常軌を逸した方法を思いつく。

 王族に薬を盛ろうとするなんて正気を疑うが、使用する予定の媚薬がアルコール成分を多めに配合し高揚感を与えるという効果の弱いものだったので、処罰せずに僕とリリスの『イベント』に利用することにした。

 念の為、媚薬の影響を打ち消す解毒剤を懐に仕舞い、翌日のイベントに備える。


 そして翌日、アボット嬢が持ってきた媚薬入りクッキーを流れるようにリリスに食べさせると、僕でも想像出来なかった大変なことが起きてしまった。


 最初リリスは「私だってわりと高貴な人間なんですけど!?」と心の中で怒り狂っていたが、すぐに媚薬の効果が現われ始め、目に毒どころか、周囲にいる人間すべての人生を狂わせかねないほどの色気を漂わせ、テーブルにくたりと身を伏せた。


 幸いカフェには女子しかおらず、飢えた男どもにこんなリリスの姿を見せずに済んだことは僥倖……いや、「なにあれ…リリスお姉様になら抱かれてもいい…!いえ、抱きたい!!」とギラギラした目を向ける女が大勢いたため全然僥倖じゃなかった。  


 これ以上リリスのあられもない姿を晒すわけにはいかない、と懐に仕舞っていた解毒剤を素早く口に含み、水と一緒に口移しでリリスに飲ませた。


 あーあ、こんな場所でファーストキスを済ませるはずじゃなかったのに…。どさくさに紛れて舌まで入れた僕が言うことじゃないと思うけど。


 リリスは軽い酔っ払いのような症状でそのまま眠ってしまったが、意識が無くなる前に「お水おいしい」や、「リューク様とキス、嬉しい…」と考えていることが分かって、それがもう可愛くて可愛くて、本当にどうにかしてやろうかと思った。



 次にアボット嬢は旧校舎に僕と二人で一晩閉じ込められる、というイベントを起こすつもりのようだったので、急いで準備に取り掛かる。 


 旧校舎の教室なんて埃っぽい場所にリリスを一晩過ごさせるわけにはいかないので、隣の準備室を改装して快適に過ごせるよう整えた。


 シャワーもトイレも備え付け、リリスに欠かせない食料も大量に用意したけど、ベッドだけは用意しなかった。あるのは大きな三人掛けソファと毛布が一枚だけ。

 必然的に二人でソファで寝ることになり、一枚の毛布を分け合う密着シチュエーションが完成するという寸法だ。


 わくわくしながらその時を待てば、アボット嬢が嘘くさい演技で助けを求めてきたので三人で旧校舎へと向う。

 ……こんなに怪しい話を信じて真っ先に人助けに向かうなんて、そこがリリスのいいところでもあるけど心配な部分でもある。ほんと可愛い。


 そして僕の計画通り、リリスと二人、無事に(?)閉じ込められた。

 影には翌朝まで周辺待機を言いつけてあるし、窓やドアに外側から開かないよう細工を施したので、誰にも邪魔されることなく二人きりの時間を堪能出来る。


 閉じ込められたばかりのリリスは焦っているようだったが、隣の部屋に準備した、一日では到底食べきれないほどの食料を見て「ご飯があるなら…まぁいいか」とすぐに考えを改めた。


 唯一の計算違いは、お風呂上がりのリリスのむせ返るような色気と、寝相の悪さだった。


 離宮で寝泊まりする間柄とはいえ、基本的に就寝準備を済ませた後に会うことはない。


 初めて見る風呂上がりのリリスの頬や唇は薔薇色に染まっているし、しっとりと濡れた髪の毛から滴る雫に目が離せない。 

 なにより身体のラインがはっきりと分かる薄手の夜着を纏ったリリスの破壊力は想像以上だった。

 ちなみに、ちょっと抜けてる可愛いリリスは、なぜこんな場所に食料や夜着があるのか不思議に思っても深くは考えない。


 そしていざリリスと一つのソファで一緒に寝ようとなった時、僕はこのイベントに手を出したことを強く後悔した。


 眠れるわけがない………。


 人の心が読めても想像出来ないこともあるんだなと、遠い目をして現実逃避したくなる。


 広めのソファに隙間を空けて横になっても、寝ぼけたリリスががっちりホールドしに戻ってくるので何度も理性と闘ったし、翌朝、指示していた時間に影が扉を開けた時は心から自分を褒めてあげた。あの状態で手を出さなかった僕って本当にえらい。



 

 そして迎えたリリスの卒業式とパーティーの日。


 アボット嬢がリリスを断罪しようとしていることは分かっている。が、それをどのように退けるか、まだ決めかねていた。


 僕はどうすればリリスの信頼と愛を勝ち得ることが出来るのだろう。


 結局のところ、僕のやり方は卑怯だ。


 好きな人の心を読み、理想の相手を演じ、許される許容範囲内で恋の駆け引きを行う。


 こんな方法で「僕の気持ちを信じてほしい」と訴えたところでリリスの心に響くことなんて一生ないんじゃないか?


 このことにやっと気付いた僕は、みっともなくあがくことにした。

 



 そして空気を読まずに始まった断罪―――


 「それはおかしい。リリスは試験を終え教室を出た七分後には僕と合流し十一時二十三分に馬車に乗り、その二十八分後に僕の離宮に到着している。それからすぐに軽食の鶏肉のハーブ焼きとパンとベーコンのスープとサラダを食べて一息つき、三時三十五分から始まったティータイムでサンドウィッチとスコーンとケーキとタルトとコーンスープとフルーツの盛り合わせを食べた。その後は同じ部屋で読書や手紙を書いたり軽い運動をして過ごし、夕食は八時三分に陛下とルイ兄上の四人でオードブルから始まるフルコースを食べた。メインの肉料理を食べているリリスの幸せそうな顔は()()()()思い出せるほど可愛かったな。夕食の後は風呂や就寝の準備で一度離れたが、十一時四十七分からは朝まで共に過ごしたのだからリリスが君を突き落とすことは出来ない」


 僕はなりふり構わずすべてをさらけ出す。


 パーティーに参加している者達の心の声は、畏怖、猜疑、呆れ、嫌悪の感情で溢れていた。


 誰にどう思われようが構わない。


 君にだけ想いが伝わればそれでいい。




「―――君の勘違いだよね?………美梨亜嬢?」


 アボット嬢にもう用はない。退場してもらおう。

 だけどいい感じに働いてくれたので一応ご褒美は用意しておいた。

 カリナ・ロンド夫人に匿名の手紙を送ると、予想した通り彼女はアボット嬢の身辺を探り出した。


 ロンド夫人は愛した夫との間に子どもが欲しかったし、一方のアボット嬢は親の愛を求めていた。


 完璧な需要と供給の一致。


 うまくいけば落ち着くところに落ち着くんじゃない?

 まあ、うまくいってもいかなくてもどちらでもいい。後のことは知らない。

 リリス以外のことになると、途端に何事も雑になってしまうのはいつものことだ。



 そして―――流れてきたリリスの思考に、歓喜で震える。


 聡明なリリスは僕の意図に気づいてくれた。


 今回のことで、僕の持つ能力すべてを使い、誰を陥れても、たとえ無実の人間に罪をなすりつけたとしても、何があっても君を守るよ、という僕なりの意思表示をしたつもりだったんだ。


 リリスに気持ちが届いた今、確実に捕える。



「リリス、僕と結婚して下さい。世界中の誰よりも()()()貴女を愛している。永遠に。この気持ちだけは絶対に変わらない」


 リリスは「仕事が早いな」とちょっと慄いていたけど、ちゃんと言質は取れた。


 これで本当にリリスは僕のものだ。


 対外的にもやっと婚約者だと発表出来るし、一番欲しかった心すら手に入れた。




 女神が僕を呪いたかったのか祝いたかったのか定かではないが、リリスと出会うきっかけを作ってくれたことを鑑みれば、天秤はやや祝福に傾くのかもしれないな。 

最後までお読み頂きありがとうございました!

初めての投稿でよく分からないまま始めてしまったので読みにくい部分が多かったかと思います。


どのような評価でも構いませんので広告の下↓にある【☆☆☆☆☆】から、 ポイントを入れてくださると嬉しいです!

よろしくお願い致します(*^^*)

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完結ありがとうございました ミアへのご褒美が最高でした! リリスとリュークの秘密の攻防は、王家の嫁となるからと、リューク以外からきかされることになる寸前で、リリスからきくことになるのかな?? リ…
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