カメラとの距離感
「うわぁあとちょっとで落ちそう」
放課後の一学生たちのゲームセンターでのひと時である。
横から惜しい惜しいと呟く小松さんをよそに、ガラスに両手と額を押し付けて木村さんは「なぜ落ちない」とガラス越しに佇む推しキャラ(と言ってた)のフィギュアが入った箱を恨めしそうに見ている。その視線にものすごい執着心を感じながら智雄と操作を交代する。
「いくらある?」
「あと300円しか無い……」
「神田殿、一生のお願いでごぜぇやす」
「後生の頼みでごぜぇやす」
「しょーがねぇなあ。任せとけってぇ」
拝むように手を合わせて頭を下げる二人に智雄は得意げそうにUFOキャッチャーへ臨む。レバーの配置を全く見ずにクレーンと箱を交互に見ながら操作するところに手慣れていると感じさせる。
「もうちょっと右じゃない?」
「いやそこでいいと思う」
「いきすぎいきすぎ」
「シロートは黙っとれ」
口出しする俺たちを軽くあしらいながら片方のアームを箱に引っ掛ける。やがて閉じながら上昇するアームにバランスを崩された箱は、ゆっくりと傾きながらダクトへ真っ逆さまに落ちていった──。
「うわぁもう一生離さない!」
手に入れた箱を潰れない程度に抱きしめて満悦する木村さんに智雄が肩を叩く。
「こら。残り3回で取った俺をもっとほめろ」
「はは。このご恩は生涯決して忘れません神田様」
「よろしい」
「よかったねぇ」
フィギュア一つでここまで喜ぶとはアニメの力は末恐ろしい。乾いた喉をペットボトルの水で潤しながら漫才を繰り広げる二人を横目に眺める。
「写真撮ろーぜ」
「野口くんフィギュアゲット記念!」
「とろーとろー」
「──あっち行ってるから」
スマホを取り出した智雄に囲むように盛り上がっているところを邪魔にならないように3人から少し距離を取る。智雄は何も言わずにスマホを横向きに掲げてカメラの角度を調整する。「え、なんで」と訳が分からなそうにこっちを見る木村さんに智雄は「いいから、」と諭した。小松さんもこちらを見るがすぐにカメラの方に向き直した。3人が並んで、時折立ち位置をずらしたりしているのを眺めて、少し退屈な気がした。