雑貨屋『dingavells』
放課後、寄り道はせずに店へ足を運ぶ。叔父が経営する店はセンター街から大きく離れた住宅街の中にポツンと小さく構えている。
毎日やることは決まっていて、ホウキで床の土やほこりをはらう。店内に並ぶ商品のメンテナンスも怠らない。骨董品やアクセは隙間に埃がたまらないようにブラシを使い、シルバー用のクロスでお客が手に取った時に付着する指紋を拭き取ったりする。他にも吸血鬼にまつわる書物や便利グッズの数々、放課後から閉店までの数時間だけでは手が回りきらない。効率を考えて手入れするのが日課となっている。尚、肝心のお客はあまり来ることが無い。売っているものは骨董品屋と殆ど変わらないので物好きなお客が訪れるばかりである。良く言えば、この店の中は常に穏やかで物静かな雰囲気を保ち続けている。下校時刻になると騒がしく辺りを通り過ぎる学生が気軽に立ち寄れる場所ではないと思うと、安心する。
小学生の頃から、体質のことがあって放課後にはクラスメイトと外で遊ぶことができなかった。いつも叔父の店に通い、かつて本物の吸血鬼が使ったという棺桶や吸血鬼の牙、目玉、頭蓋骨を観たり絵本を読んだりして、彼らに思いを馳せていた。俺はこの店が好きだ。
叔父が眼に隈ができた酷い顔で新商品の完成を喜んでいた。吸血鬼の牙を、ヒップホッパーがよく歯に着けている、グリルに収めたとのことだ。
「これをはめるとな、どんな赤い食べ物も美味しく食べることができるんだ」
「何の役に立つのそれ」
「トマトとか、ニンジンとか、苦手な人が居るだろ?」
「もしかして。そのグリルをはめれば苦手を克服できるってこと」
「その通り。後にはめやすい本格的なグリルを作るつもりだが、今は犬歯にはめれるくらいの物しか用意できそうになくてな」
得意げに説明する叔父。役に立つのか立たないのか、よく分からない、とは思っても言わない。
「──偶には友達と遊んできたらどうだ」
「え?」
ホウキを掃く手を止める。
「高校生なんて過ぎれば一瞬だよ。少しは楽しんできなさい」
確かに毎度、智雄たちの誘いを断っている。今日だって、今頃三人はマックで楽しく話しているだろう。あの輪に入れたらと思うと。でも俺は店の手伝いを条件にここに置いてもらっている。なのに仕事を放棄して遊びに言ってもいいのだろうか。
「店の方は、」
「元々あまりお客さん来ないからね。ちょっとくらい一人でも大丈夫さ」
叔父の言葉に、義務感よりも甘えたさが勝ってしまって、静かにうなずいた。