昼のひと時
四限目が終わり、鞄から登校途中に買ったコンビニ袋を取り出す。別居中の両親から仕送りがあるとはいえ、毎日弁当を作るのは面倒くさい。サラダ系だけは好みの問題で用意してきてはいるが。どこで食べようか考えながら席を立ち教室から出ようとすると智雄に呼び止められる。「一緒に食おうぜー」と誘われ開けた横開きのドアを閉めた。
智雄が着いた席の周りに、木村さんと小松さんが談笑しながら座っている。また余計なことをして。
内心で愚痴を吐きながら智雄の隣に座る。
女子二人が、「おっす」と声をかけてくれる横で、ニヤついた顔でこっちを見る智雄に、もし茶化しているのならいつか一発ぶん殴ってやると心に誓う。
「こまっちゃん、あんたそれ弁当?」
木村さんが軽い悲鳴をあげながら机の上を指さす。からあげくん、バナナ、ポテチ、プリッツ。栄養を殆ど無視している。これは怒られても仕方がないラインナップだ。
「偏食癖直さないと将来体壊すぞ」
「えー」
「藤のは?」
コンビニ袋から昼食の品々を取り出す。最近人気のナポリタンパン、ねぎとろの巻物。他には家で用意したパプリカ、ニンジン、トマト、レタス、タマネギを混ぜたサラダ──。
「お前の昼飯は相変わらず赤ぇ!」
ほっとけ。
「で、あんたはカップラーメン……なんか微妙」
「普通だろ」
「そうそう」
「小松さんに同意されるのは違うな……」
「あっれー」
「見ろあたしの完璧な弁当。弁当箱の半分を陣取った海苔ご飯に、焼き鮭やウィンナー、卵焼きとプチトマトの美しい色合い!そして端っこにさりげなく置かれたアルミカップに乗ったキュウリと春雨とハムを合わせたサラダ!」
これは文句を言えない、と三人とも反論ができずに賞賛の拍手を送った。
「──放課後マックに行かない?クーポン券もらったんだよね」
昼食がひと段落付いたところ、端末のアプリ画面を自慢げに見せる智雄に木村さんと小松さんが乗り気そうに返事をする。
「いいねー」
「悪い。店の手伝いがあるから」
首をかしげて「店?」と言う小松さんに、智雄が「ああ、」と助け舟を出してくれた。
「こいつの叔父さん、雑貨店やってんだよ」
「怪しいグッズがたくさん売ってる薄暗い店!」
「はっきり言うなよ……」
厳しいことを言う木村さん。まあその通りだし悪気はないんだろうけど。ただ、偶に思うけどこうはっきり言うところが女子ってすごい。
「日焼け止めクリームとか、逆十字のアクセとか。体質のことがあるから、それにちなんで吸血鬼に関連しそうなグッズとかたくさん置いてあるんだよ」
「家から近いの?」
「いや、店で暮らしてる」
「両親は?」
「別居中」
「えっ」
聞いてはいけないことを聞いてしまったかのような反応をする小松さん。そんな小松さんに「違う違う」と慌てて説明する。
「仲が悪いとかじゃないから」
「あ、そうなの」
「中学の時に地方に引っ越したんだけど、あの店好きだし手伝いたかったしで、高校までは住まわしてもらうことになってる」
「今度遊びに行っていい?」
「え。ああ。良いよ」
目を輝かせる小松さんに押されるように答えた。特に来られて困ることでもないけれど。
──小松さんは吸血鬼が好きなのだろうか。