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次の日から毎朝、私はナルに起こされた。
あの夏と一つだけ違っていたのは、ナルがちゃんと働いていることだ。
「行ってらっしゃい」
眠い目をこすりながら、新婚の奥さんみたいに、部屋を出て行くナルを見送る。
ナルがいなくなると、部屋は妙に静かだった。
着替えようとして押入れを開ける。相変わらずごちゃごちゃしていたけど、ルリのものだけがなくなっていた。ルリの着ていた服は、すべてナルがゴミ袋に詰めて捨ててしまったという。
この部屋でたった一人、そんなことをしていたナルの姿を思い浮かべて、私は胸が熱くなった。
しばらくして、私も駅前のファミレスで働き始めた。
思いっきり作り笑顔をして「いらっしゃいませ」と言っていると、いろいろな嫌なことを忘れて、少し楽だ。
週にたった一日の休みは、二人とも疲れて果てていて、外へ出る気がしなかった。
だからいつもこの部屋の中、なんとなくごろごろしていることが多かった。前のように二人で出かけることはもうほとんどなかった。
春の柔らかな日差しが窓から差して、私たちの体を照らす。
ぽかぽかと暖かくて、いい気持ちで、隣にはナルがいて、ずっとこうやって寝転がっていたかった。何も考えないで、すべてを忘れて、ナルとずっと二人きりでいたかった。
だけどナルは何を想っていたのだろう……ナルは決して私を抱こうとはしなかった。