5
その夜ナルは、急病になった友達の代わりに、交通整理のバイトに出かけて行った。
ルリと二人だけの部屋の中に、いつしか雨の音が聞こえ始める。
「ナル、大丈夫かな。雨が降ってきちゃって」
ルリがテレビを見ながらつぶやく。
「あ、ルリってば、心配してるんだ?ナルのこと」
私は雑誌から顔を上げひやかした。ルリはビールを一口飲んで小さく微笑む。
とても静かな夜だった。
雨の音もテレビの音も、なぜか私の耳には聞こえなかった。
ただ、ルリのため息混じりの声が私の耳を通過して、胸の奥に深く響いた。
「私、ナルが好きなのよねぇ……」
ルリはそう言って私を見た。大きなルリの瞳が心なしか潤んでいる。
「でもハナちゃんも好きでしょ?ナルのこと」
「え?」
思いもよらないその言葉に、私は何も言えなかった。
「ハナちゃんだったらいいな……」
少しかすれたようなルリの声。
「ナルが次に好きになる子が、ハナちゃんだったらいいな……」
「何言ってるの?意味わかんない!」
そう言って立ち上がる。
ルリは私を見上げてニコニコと笑う。だけど私は笑わなかった。
どうしてそんなことを言うの?ナルが好きな子はルリでしょう?次なんてなくて、ずっとずっとルリだけでしょう?
私はそんな言葉を繰り返しながら、敷きっぱなしの布団の中にもぐりこみ、強引に目を閉じた。