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ルリは仕事が終わっても、朝まで帰ってこない日があった。
「ルリ、帰ってこないね」
昼間借りてきた映画を見ている、ナルの背中につぶやく。
「男の家に泊まるのかも」
「え」
私が驚いた顔でナルを見ると、ナルはおかしそうに笑った。
「いいんだよ。いつものことだから」
「怒らないの?」
「なんで怒るの?結婚してるわけでもないのに」
「結婚してなくたって、フツー怒るでしょ?好きだったら怒るはずだよ」
「じゃあ俺はルリのことが、好きじゃないのかもなぁ……」
ナルの柔らかい声が胸に響く。深く深く響く。そして私は初めて気づく。そうであって欲しいと願っている自分に……
ナルはそんな私を見て笑うと、DVDを取り出し立ち上がった。
「コレ返しに、一緒に行く?」
私は黙ってうなずいた。
その日も月夜の晩だった。
私とナルは黙ったまま、レンタルショップに向かって歩く。
男と並ぶ自分の姿なんて、想像すらしたことがなかった。私は男の人なんて、好きにならないと思っていたから。
母みたいには、なりたくなかった……死んでしまった父を忘れて、次々と違う男と付き合うような、母のようにはなりたくなかった……
夜道が、電柱が、二人の姿が、月の柔らかな光に包まれている。
私はこうやってナルと並んで歩けることを、とても幸せに思った。