13
ナルと中華街の店に入った。大きな丸いテーブルに二人だけで座る。
ナルは豪華な椅子に気持ち良さそうにもたれかかって、赤や金色に彩られている壁を眺めながら言った。
「変わってないなぁ、この趣味悪い壁の色」
「ナル、ここに来たことあるの?」
「うん。あれはハナちゃんと出会う少し前かな……ルリが俺をここに連れて来て、それで言ったんだ」
「何て……?」
懐かしそうに壁を見つめたまま、ナルがつぶやく。
「俺と別れたいって」
ショックだった。ルリがそんなことを言ったなんて……浮気しても喧嘩しても、ルリはナルのことが好きだと思っていたから。
「理由を聞いても答えないんだ。だから俺は別れないって言った。絶対別れないって言ってやった」
ナルはそう言ってグラスのビールを一気に空けた。それと同時に食欲をそそる匂いを漂わせ、テーブルに料理が運ばれてきた。私はぷりぷりと輝く海老をぼんやり見ながら、ナルの言葉を聞く。
「そしたら泣いてんの、あいつ。このうまそうな料理の前で」
私は何も言わなかった。ナルの口からこんなにルリの話を聞いたのは、初めてのような気がする。
ナルは自分のグラスにビールを注いで、それをまた一息で飲み干した。
本当はお酒なんか好きでもないくせに。私がそんなことを思って見ていたら、ナルが寂しそうな声でポツリと言った。
「ルリは、予感してたのかもな。自分が死ぬこと」
私の頭にルリの一言がよみがえる。そしてその言葉の意味が、今やっとわかったような気がした。
『ナルが次に好きになる子が、ハナちゃんだったらいいな……』
私は夢中で首を振る。だけどなぜか言葉が出なくて、ナルはそのまま続けて言った。
「自分が死ぬことわかってたから、その前に俺と別れようとしてた。俺に嫌われようと思ってくだらない男と付き合ってみたり……」
「そんなの……」
信じられるはずがない。ルリを正当化しようと思って、ナルが勝手に想像しているだけだ。
ナルを好きだったルリ。でも自分が死んだらナルが悲しむと思って、わざと嫌われるようなことをした。
だけどそんなことをしてもナルの気持ちは変わらなくて、ナルがルリのことを好きなまま、ルリは一人で逝ってしまった。
私たちの前に次の料理が運ばれてきた。ほかほかと温かくて、まるでルリのようだと思った。