11
その日はナルと離れて眠った。
いつもの部屋にナルは布団を敷いて、私は隣の部屋に布団を敷いて、タオルケットの中に隠れるようにもぐりこむ。
何も言わずに……お互い背中を向けて……すぐ近くにいるのになんだかヘンだった。
目を閉じると、父の顔がぼんやり浮かぶ。あんなに大好きだったのに、父の記憶は私の中から少しずつ消えてゆく。
だけど母は……母はいつまで父のことを、想い続けるつもりなのだろう……
朝方になっても眠れなくて、何度も何度も寝返りを打った。
寝返りを打つたび隣にナルがいないのが寂しくて、私はもうナルがいないと生きていけないのだと初めて知った。
でもナルは違うのだ。ナルは私がいなくても生きていける。この部屋の中で、いつまでもルリのことを想って。そうやってナルは生きていけるのだ。
目が覚めたら昼過ぎだった。
太陽は午後の日差しをこれでもかというほど照りつけ、私の着ていたTシャツは汗でぐっしょり濡れていた。
ゆっくりと起き上がって隣の部屋を見る。いつもだらしなく敷きっ放しの布団が部屋の隅に片付けられ、狭いベランダの窓が開いていた。
「ナル?」
私は揺れるカーテンの向こうにナルの背中を見つけた。
いつもベランダなんか出ないのに。
あのベランダにはルリがホームセンターで買ってきた、土だけ入ったプランターが足の踏み場もないほど散らかっている。
「ここにいっぱい花を咲かせて、お花畑にしようよ」
私の名前を付けてくれた父が、もうこの世にいないことを話した次の日、ルリは私にそう言った。
「きっとハナちゃんのお父さんも喜ぶよ」
ルリが私の前で幸せそうに笑う。だけど最期までここがお花畑になることはなかった。
立ち上がって窓辺に向かう。ナルがベランダの手すりにもたれて、ぼんやり遠くを見つめている。
ナルは寂しそうだった。決して泣いていないけど、泣いているみたいに見えた。
いつも一緒にいたのに、ナルのすぐ近くにいたのに、この人のこんな横顔を見たのは初めてだ。
やがてナルは振り返って私に笑いかけた。いつもと同じナルの笑顔。私の大好きなナルの……
「ナル!」
ナルに駆け寄ってその体にしがみつく。ナルは笑いながら、汗で濡れた私の背中を抱き寄せた。
「もう怒ってないの?」
私は何も言わなかった。
「どこか行こうか?」
ナルの言葉に私は
「海に行きたい」
と答えた。