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 やがて春が過ぎ、長い梅雨が開け、また夏がやってくる。私たちが出会った夏だ。

 この頃ナルと私の口から、ルリの名前が出ることはほとんどなくなっていた。


 その日は蒸し暑い夜だった。

 私たちは部屋を薄暗くして借りてきたホラー映画を見ていた。

 死んだ人間がゾンビになって甦ってくるシーン。そんな画面を見たとき、私は本当に背筋が寒くなってナルにしがみついた。

「怖いの?」

 ナルがおかしそうに笑う。でも私は本気でおびえていて笑うことができなかった。

 ルリが私を見ている。二人が愛し合ったこの部屋で、ナルのことを想っている私を見ている。

 私は震える手をナルから離した。

「何か飲もうか?」

 リモコンでテレビを消して、立ち上がったナルのTシャツを、私が軽く引っ張った。

「ねえ、引越ししない?」

 ナルが不思議そうに私を見る。

「引越ししようよ」

「どうして?」

 ナルはそう言って私の前に座った。ナルのまっすぐな視線が私の胸を突き刺すようだ。

「だってここはルリの思い出がいっぱいでしょ?いろんなこと思い出しちゃうでしょ?だからこの部屋を出て……」

「でもハナちゃんは、ルリに会いたくてここに来たんだろ?」

 ううん、違う。本当に会いたかったのはルリじゃない。

 それに今の私はとてもルリには会えない。ルリに対する後ろめたい気持ちで、もう押しつぶされそうだった。

「俺はここでいい」

 ナルが言う。私は首を横に振った。

「ナルは……ルリのことを、忘れようと思わないの?」

「何で忘れるんだよ。忘れる理由なんてない」

 ナルはそう言って顔を背ける。そんなナルを見たら、どうしようもない思いがこみ上げて、止まらなくなった。

「ナルはまだルリのことが好きなの?ルリのこと忘れたくないの?それなのに私と一緒にいるの?」

 何も答えないナル。私は手を握りしめ、ナルの体を叩いた。

「ルリはもういないの!死んだのよ!忘れなくちゃいけないの!」

「そんなことない」

 私の手をナルが握る。大きくて力強い、男の人の手。

「俺は忘れないよ。俺はルリのことを忘れない」

 私は泣きそうな顔でナルを見る。ナルの温かな手が、私の手からゆっくりと離れた。

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