優等生なはずの北欧系美少女クオーターの後輩が、ゲーム部で陰キャな俺にだけになぜかウザ絡みしてくる~ある日、部室を乗っ取りに来る陽キャたちが現れました~
ゲーム部に所属する俺─榎本隆弘は部室でソワソワしながらとある人達を待っていた。
ゲーム部の部室は教室半分程度のスペースに、小さなモニターとゲーム機が置いてある。
この部室は少々設備がボロい。今更、どうこう言うつもりもないし、俺はこれでもいいと思っている。
だけどこれから来る相手側がどう思うのか……それだけが心配なのだ。
この部室には愛着があるからな。
その時だった。
茶髪やら金髪、厚化粧をしたギャルといった男女が数人部室に入ってきた。
「ここが日高学園のゲーム部の部室か。いかにもオタクって感じでキッモ……」
「本当にな。同じ空間いるだけでオタクが移りそうだぜ」
「早く済ませてくんない? あたしらまで陰キャと言われたらまじ死ねるんだけど」
(最悪だ……)
俺のドキドキはこの来客者たちによって吹っ飛んで行ってしまった。というのも、この面々は末吉高校のゲーム部員。俺のいる高校は日高学園。
今回、廃校が決まった末吉高校と日高学園の統合が決まったのだ。
それは部活も統合することも意味していたのだが──
「あー、お前がゲーム部の部長か? 悪いけど、ここは俺たちがもらっていくから」
「は? なんでだよ……」
まさかの略奪宣言だった。
「何でって……普通に考えたらわかるだろ。俺達の高校が廃校になって部室がなくなったからに決まってるからだろ。けど、お前はだーめ」
そう言って茶髪の男が俺に舌を出しながらニヤニヤと俺のことを見下してくる。馬鹿にしてるのがまるわかりだ。
「俺らのゲーム部にお前みたいな陰キャはいらないんだよ。そんなんで俺らの評判まで下がったらどうしてくれるんだよ、なぁ亜美?」
話を振られた化粧の厚い女が
「そういうわけだから……ってあんた榎本じゃん! へ~……」
俺を見るなり悪だくんだ表情を浮かべ始めた。
「知り合いなのか?」」
「うん、同じ中学でちょっとね」
そう言って、不快になるようなひどくニヤついた笑みを浮かべている。
あの女の名前は赤井亜美。中学校の頃の知り合いだ。高校では別々だったのに、嫌な運命もあるもんだ。
あいつのことを見ているだけで、苦い記憶がよみがえってきそうだ。
「私、良いこと思いついちゃった!」
さも名案が浮かんだかのように赤井は手を叩く。
「流石に、いきなり部室のことを奪っちゃうのもかわいそうだからさ~、ゲーム部らしく勝負しよっか。来週の放課後に、あんたの得意なスマファイでいいからさ。それなら文句ないっしょ……ブフッ!」
スマファイ─大乱闘スマッシュファイターズ。
要は、部室の所有権をかけて勝負しようということなのだろう。
確かに俺の得意なゲームではあるんだが……。
「何でだよ亜美。そんなまどろっこしいことしなくてもコイツを数発殴ってさ」
「だってさぁ~」
そう言って亜美は、茶髪の男の耳に口を寄せてコソコソと話している。内容なんて聞かなくても分かる。
──赤井が俺に植え付けたトラウマ
それ以外に考えられない。
「へー、そいつはいいな。どうせなら他にもっと大勢呼んでさ……」
「それいいね! あたしもめっちゃ声かけとくわ~」
そう言って、ひどくニヤつきながら俺のことを見ている。
「まぁー俺達も鬼じゃないから一週間待ってやるわ。せいぜいそれまでに腕を磨いておくんだな」
そう言い残して去って行った。
怒りとか戸惑いとか様々な感情が浮かんでいたが、どうしたもんかと苦悩せずにはいられなかった。
※
突然だが、俺はとあるトラウマを除いて昔のことを引きずらないタイプだ。先ほどの一件だってそうだ。
もう少しやりようはあったと反省しているが、ミスを引きずるよりも今後の対策に時間を使う方が建設的だから。そのため、一人で黙々と『スマファイ』の練習をしていた。
だというのに……
「ねー、せんぱーい! 一人で『スマファイ』するんじゃなくて私と一緒に『ニャン狩』しましようよー! 」
俺の隣でキャンキャンと子犬のような声で騒ぐ、後輩の女の子に邪魔されているのはなぜなんだろうか。
名前は瀬名小冬音。俺と同じ高校に通う一年生で同じゲーム部員。学年は俺の一個下だ。
パッと見の第一印象は幻想的な雪の妖精。
きめ細やかな雪のように白い肌と華奢でほっそりとした体格が連想させる。何よりも一番の特徴は白銀世界にいるのかと錯覚させるほどの煌びやかな銀髪。
澄んだ青い瞳とも合わさってどこかファンタジックな雰囲気を感じさせる。
ちなみに、『ニャン狩』というゲームは、オトモしてくれるネズミと一緒にモンスター猫を倒して、武器や防具を作るゲームだ。
「うっぜぇ……」
「ひゃっほーい! ガチな奴いただきましたー☆」
俺が罵倒したというのに、嬉しそうに口元を緩める小冬音。
一体、何が嬉しいんだよ……こめかみに青筋が浮かんできそうだ。
「私にそんなこと言っていいんですかー先輩。そんなツンばかりの態度だと私の個別ルートに入れなくなっちゃいますよー。あ、でもー、そんなツンツンな先輩のために私が固定イベント発生させてあげるから選択肢間違えないでくださいね♪」
怒涛のマシンガントークが小冬音の口から撃たれる。
──うっぜぇ……。
今の流れで分かったと思うが、あくまで第一印象が幻想的なだけだ。本性は全く違う。
俺を男と意識してないのかベタベタとウザ絡みしてくるし、何よりも俺をイライラさせることに至上の楽しみを見出してるような奴だからだ。
そんな小冬音だが、学校の生徒達からは、深窓の令嬢やら淡雪の美少女なんて呼ばれている。
どうも、この態度は俺だけらしい。そしてそれが余計に俺をイラつかせるのだ。
「安心しろ、そもそもお前のことなんて微塵も興味ない。というか誰がツンデレだコラ!」
何か言い返したやろうかと思ったが、丁度そのタイミングで『ニャン狩』のオープニング映像が流れ始めた。
「まぁ、先輩はそんなこと言いながら、私のために『ニャン狩』してくれる時点でなかなかにツンデレポイントが高いですけどね」
どうして、こいつはこんなにも俺をツンデレにしたいんだ。ましてや、デレるのを期待しているわけじゃあるまいし。
ゲームを始め、しばらくしてから小冬音が唐突に口を開いた。
「そういえば、さっきなんですけど」
丁度、モンスター猫を討伐してタイミングが良かったというのもあるんだろう。
「何か先輩とは相いれない人たちとすれ違いましたよー」
末吉高校ゲーム部の人だろうな。
「それで、誰だったん……ってを何するんですかぁぁあああー! もぉぉおおおー!」
話の途中、小冬音にからかわれっぱなしって言うのも嫌だったので地味な仕返しをしてやったのだ。
小冬音のキャラが剥ぎ取りを始めるとすぐに蹴りを入れてやった。これであいつは剥ぎ取りができないからな……ウケケケケ。
「さっき私がからかった仕返しですね……グヌヌヌ」
まるで歯ぎしりが聞こえてきそうなほどに俺のことを睨んでいる。
いやぁー愉快、愉快。
「あ、討伐報酬で出たラッキー!」
「………チッ」
くそぅ、俺の天誅はどうやら失敗に終わったようだ。
「へっへんだー! べー☆」
小冬音は、わざとらしく下まぶたをさげながら舌を出してきやがった。
「ウギギギギギ……!」
次は俺が小冬音に歯ぎしりする番だった。
「やぁー、先輩をからかうと、きちんと乗ってきてくれるからたっのしぃー!」
「俺は楽しくねぇよ……で、さっきすれ違った人が誰かってことか?」
張り倒してやろうか。
「ええ……まぁ、なんとなく予想は着いてますが」
「ああ、末吉高校側のゲーム部の人たちだったよ。ただ、ちょっと問題が起きてだな……」
小冬音も同じゲーム部の一員だ。決して関係ない話じゃない。だからこそ、俺は先ほどあった一件を話した。
「は、なんですかそれ……」
俺が話し終えると、流石の小冬音も眉間にしわを寄せていた。
「落ち着けよ。確かに理不尽に部室を乗っ取ろうとしてきたのには腹立つが──」
「そっちじゃないです!」
「え?」
部室が乗っ取られそうだから怒ってたんじゃないの?
「まぁ、先輩の良さを知ってるのは私だけで充分ですしね……」
「?」
何かを話す小冬音だが、聞き取ることができなかった。
「どうしましょうか……だって、向こうは先輩のトラウマを知っている人がいるんですよね……」
一転、小冬音の表情が曇る。
「先輩だって『トラウマ』さえなければ絶対に勝てるのに……」
もどかし気に呟く小冬音の視線の先には、棚に飾ってある複数のトロフィーがある。
「……今更、そんなこと言っても仕方ないだろ」
「ですけど、卑怯じゃないですか! 普通に戦ったら勝てないって分かってるから、先輩の弱点をつついて、恥をかかせるようなやり方で……」
小冬音はまるで自分のことのように悔しそうに、もどかしそうにしている。
普段のおちゃらけた態度じゃないから少し戸惑ってしまうが、小冬音なりに俺のことを心配してくれているんだろう。そう思うとなんだか微笑ましくてつい頭を撫でてしまう。
「心配してくれてありがとうな。時間はまだあるし、何とかしてみせるさ」
「もーう……気楽に考えて……」
そう呟く小冬音の表情は、耳まで真っ赤に染まっていた。
「でも私で何か協力できることあったらすぐに言ってくださいね。絶対に、絶対にですよ!」
前のめりになって、やたら念押ししてくる小冬音をなだめながら、その日は解散となった。
※
「それじゃあ、先輩。私はこっちなんで」
「おう、また明日な」
部活帰り、先輩と別れての帰り道。
私─瀬名小冬音はニヤけそうになる口元を押さえながら歩く。
理由なんて一つだ。
先輩のことに決まっている。
だって私の日常は先輩一色だからだ。
こんな性格の私に、正面から向き合ってくれる。だから安心して私は素の性格を見せることができる。一緒にいて心が安らぐ大好きな先輩だ。
──そして私が世界で一番愛している男性。
その時だった。
「ねぇ、君がゲーム部の瀬名さんだよね?」
「ちょっと! 急にどうしたのよ、あつし~」
「え……?」
※
俺は来たるべく『スマファイ』勝負の日に向けて、腕を磨いていた。正確には、鈍らせないようにだが。いつものように、オンライン上で対戦して勝利する。その繰り返しだ。
テレビ画面にはランキング一位の文字が映っている。そう俺はこの『スマファイ』というゲームにおいては日本で一位の腕前を持つ。最も、それはネット上だからできることだ。なぜなら──
「どうもです……先輩……」
「お、おう……?」
声の主は小冬音だった。いつものようなエナジードリンク全開に決めてきたようなテンションではなかった。珍しく静かというか大人しい。今なら深窓の令嬢やら淡雪の美少女というあだ名もぴったりだろう。
だが、俺に言わせれば小冬音らしくない。あいつがそんな態度だと、こっちが落ち着かないというものだ。
「…………ニャン狩でもするか?」
「…………え?」
まるで幽霊に遭遇したかのような目で俺のこと見ている。
「なんでそんなに驚いているんだよ」
「い、いえ……センパイから誘われるとは予想外だったので。あ、とうとう私の魅力に気づいて誘ってくれたんですか。いやー、私も罪な女ですねー……」
普段通りの、俺が一言えば十返してくるようなマシンガントークだ。だが、どうしてかウザくないのだ。
「ど、どうしたんですか……ほ、ほら早くしましょうよ……まだまだ古代猫の素材もいりますし……アハハ……」
おかしい。そして、めっちゃやりづらい……。
小冬音がウザくないと俺の調子も……ま、まぁ、それはいい。それだと、まるでそれだと俺が小冬音のこと大好きみたいなもんじゃないか、フン。
それからその繰り返しに連続だった。
いつもなら絶対にしないようなミスをして、
何かを考え込むようにボーッとする。
古代猫の捕獲に成功し、タイミングが良くなった頃、俺は小冬音に尋ねた。
「何かあったの、お前?」
「え……?」
消え入りそうな、今にも泣きだしてしまいそうな声だった。
「何かあったんだな。ほら、話してみろよ」
「……先輩には関係のないことです」
「俺の顔見て言え。それで何でもないって言うならもう聞かないから」
少々強引にだが、小冬音の顔をこちらに向けさせた。小冬音の瞳が俺を映した瞬間に揺れ動いた。
「………………だか……ら……何も……ないって……グスッ」
小冬音なりに強がっていたようだが、すぐに目尻に大粒の涙が溜まり始めた。
「なんで……私が髪を切ったり……オシャレしても気づかないのに……グスッ……悩んでいるときはすぐに気づいてくれるんですかぁ……」
「それでどうしたんだ?」
頬に涙を伝らせる小冬音の涙を拭いながら、俺は優しく尋ねた。
これでも、大切な俺の後輩で同じ部活の仲間だ。調子を崩しているコイツを見ていると何だか落ち着かない。
それに、非常に、ひじょーに癪だが、小冬音にはいつもようにイキイキと俺のことをからかうくらいが似合っている。
「実は、昨日の帰り末吉高校のゲーム部と偶然すれ違ったんです。そのとき、『あつし』って呼ばれている茶髪の男の人が私に言ってきたんです。もし、私が『あつし』って人の彼女になるなら部室の件は諦めてやるって……」
小冬音はそこでいったん言葉を区切った。正確には、再び頬が涙でぬれ始めたからだ。
「返事は後日でいいって言われたんですけど……やだなぁ……私この部室でずっと先輩とバカやってゲームしていたいもん……でも、先輩がこの部室のことすごく大事に思っているのも知ってるから……」
──彼女になるしかないのかな……
口にしたわけではないが、そう聞こえるようだった。
「小冬音……」
名前を呼ばれ、顔を上げる小冬音に俺は
「イダッ!」
ありったけのデコピンをくれてやった。
「バカだなお前は……そんなのいつもようにウザったい感じで『お断りですよ、バーカ』って言えばいいんだよ」
安心させるために小冬音の頭を撫でる。
「大丈夫だ。来週のゲーム勝負で俺があいつらに勝てば全部今まで通りだ!」
確かに、俺にはトラウマがあって本来の実力を発揮できない。
だからどうした。トラウマがあるなら克服すればいいだけだ。
体は沸騰しそうなほど暑いのに、頭の芯は氷のように凍てついておる。久々に本気で腹が立った。
大切な後輩が泣かされたんだ。死んでも勝つ。それで十分だ。
※
俺の抱えるトラウマというのは人前でゲームができないこと。手が震えて動かなくなるのだ。
きっかけは中学の頃。好きな子の前でいいかっこしたかった俺は、当時から上手だったゲームで相手を手加減なしにやっつけた。
当時の俺はそれで好きな子に褒められると思ってた。だが、そんなことはなかった。当然だ。
みんなが同じレベルの中、一人だけ異常に上手いやつがいたら空気がしらけるに決まっている。案の定、女の子は俺のことを見て『キモい』と言った。
負けた男の子たちも俺のことを追い出して二度と遊んでくれなくなった。
それから俺は気の許した相手を除いて人前でゲームができなくなった。そして、一番の問題なのが当時、俺が好きだった女の子が赤井亜美。そう、末吉高校ゲーム部にいたあの女だ。
※
末吉高校ゲーム部の面々に呼び出された場所は視聴覚室。
視聴覚室にはプロジェクターに接続されたゲーム機が用意してあった。そして、大きめのスクリーンには『スマファイ』のオープニング映像が流れてある。
加えて、赤井たちが宣言していたように、まぁまぁな人数のギャラリーが来ていた。
「先輩、何か思ったよりも大事になってますね……大丈夫ですか?」
「ああ。特訓ならお前も見てたろ? 心配すんな」
「だからこそ心配になるんですよ……あんなに無茶して……」
不服そうな表情で呟く小冬音を見てると思わず苦笑してしまった。
「? 何を笑って──」
「よう榎本! 逃げずに来たみたいだな」
二人で話していると、やけにニヤついた茶髪の松田と赤井の二人が話しかけてきた。
「あんたがどんな風に今から恥をかくのか楽しいだわ……ブフッ!」
「おい、亜美。笑うのはまだ早いって。まぁ……ブッ! 我慢するのはしんどいけどな。あと、そのこの女も俺がもらっていくからな」
今更、俺はこの二人に何を言われても気にならなかったが、小冬音は違ったようだ。
「あの──」
前に出て、火花を飛ばしそうな小冬音を押さえて俺が前に出た。やられっぱなし、言われっぱなし、っていうのも癪だしな。
「先輩……?」
「そっちこそ、負けた後でくだらない言い訳すんなよ」
「あ?」「何、陰キャのくせに調子に乗ってんの?」
俺の喧嘩腰な態度が気に食わなかっただろう。二人はあからさまに不機嫌になっていた。その反面、火花を飛ばし合っている俺たちにギャラリーは沸き上がる。
「おぉ……!」「言うねー、榎本!」「なぁ、どっちが勝つか賭けようぜ~」
それから俺と松田はコントローラーを握りキャラを選択する。俺が選択したのは短パンと帽子が特徴的なモス。一方で松田が選択したのは剣士のソードマン。
ステージは最終地点。ストック制でお互いに二つ。ここは横に長い平坦な足場があるだけのシンプルなステージだ。
要は、お互いの実力差がはっきりと出る。そう一切の言い訳ができないほどに。
「あんなに調子こいてること言ったんだ覚悟しとけよ」
これから俺の選択したキャラをなぶり倒すつもりなのか、やけに目がギラギラしている。
バトル開始と同時、松田の操るソードマンが愚直にもまっすぐに突っ込んきた。
「──覚悟ね……」
俺はその攻撃を回避し、ソードマンを掴んで足場のない空中にまで放り投げ
「そっちこそ、もう逃げられないんだから覚悟しとけよ」
スマッシュ技で撃墜した。
『──────』
あまりの早さにギャラリーは茫然としていた。
バトルが始まってから5秒も経っていない。
圧倒的実力差による瞬殺だ。
「なっ……お前、人前だとゲームができないんじゃ……!」
ゲーム中だということを忘れているのか、松田が驚愕に満ちた表情で俺のことを見ていた。
「そんなとっくに克服したに決まってるだろ」
「クソ……!」
まぁ、嘘だけど。克服できたのは昨日。かなりギリギリだった。
克服方法は単純だ。小冬音とその友人たちに協力してもらって、人前でひたすらにゲームをし続けた。時折、めまいやら気分が悪くなって吐くことも何度かあったが、身体が慣れてくれた。
そしてようやく昨日、人前でゲームができるようになったというわけだ。最も、小冬音には滅茶苦茶に心配され、無茶するなと怒られたが。
「まぐれだからって調子乗んなよ! 絶対に負かしてやる……」
言葉とは裏腹に、焦った様子の松田が、ソードマンをまっすぐにモスに突っ込ませてきた。そのまま溜め技に繋いでいこうとするのだが隙が大きすぎる。
当たるわけがない。
俺はガードをして防いだ。攻撃を弾かれ隙ができたソードマンを、モスが掴んで空中に飛ばした。このまま即死コンボに繋げていく。
「え、嘘でしょ……」
「先輩、やっつけちゃえー!」
松田が負けるのを察したのか赤井の茫然とした声。
一方で、俺が勝つと信じて疑わない小冬音の楽しそうな声。
放り投げられたソードマンに向けて空中攻撃を当てて、さらに上空へ飛ばす。俺はモスを急降下させて、さらに攻撃を繋いでいく。
そして、足場のないところまで飛んだソードマンを仕返しの気持ちも込めて場外にまで吹っ飛ばした。
「大切な後輩が泣かされたんだ。そんなお前たちに俺が負けるわけないだろ」
勝敗は決した。
『おぉぉぉおおおおお!』『賭けは俺の勝ち~!』『榎本も案外男だな』
沸き上がるギャラリーの様々な歓声。
「……くそくそくそ!」
松田は顔を苦渋に染めながら、忌々し気に俺のことを睨んでいた。
「せーんぱい♪ やりましたね、これが愛の力ってやつだったりして、あはっ☆」
イタズラめいた口調で、ウザいことを言いながら小冬音が俺の近くまで来た。まぁ、ウザいことこの上ないが元に戻っただけよしとしよう。
「おい、部室と小冬音のことはあきらめろよ」
「お、おい! お、俺はお金持ちなんだ……コイツじゃ味わえないような贅沢を──」
恥をかいたままじゃ引き下がれないのか、よほど未練があるのか小冬音のことを誘い出した。
「はぁ? お金なんかよりも、先輩との時間の方が価値ありますからお断りですよ!」
一矢報いようとする松田の言葉にとどめを刺したのが小冬音だった。
そして、周囲の空気に耐えられなくなったのか、松田は走って逃げていった。
「お、覚えてなさいよ!」
小物じみた捨て台詞を吐いて、赤井も松田の後を追うように去って行った。
※
「あ、先輩。いくら私が可愛いからって前みたいに、剥ぎ取り中に蹴るのはダメですからね」
「………………」
「まぁ、どうしてもって言うなら、私の可愛い自撮り写真くらいなら送ってあげてもいいですよー☆」
ゲーム勝負の後日。
俺達はいつものように部室で『ニャン狩』をしていた。
部室も小冬音も守れたのだが、以前にも増して小冬音がウザい。パワーアップしているのだ。
最近は昼食を持って俺のクラスにまでくる始末だ。
クラスメイト達は何を勘違いしているのか、うらやましそうな視線を向けているが断じてそんなのではない。断じてな!
「何でお前そんなに絶好調なの?」
「むしろ、私ほど分かりやすい人はいないと思うんですけどねー」
何を訳の分からないことを言っているんだろうか。俺からすれば、何も分からないぞ。
「あ、先輩、汚れついてますよ」
「ん? ああ、すまん……」
小冬音は俺に向かって手を伸ばしてきた。汚れをとってくれるんだろう。
しかし、小冬音の手は俺の肩に添えられる。
……あれ?
そう考えた時にはもう決まっていた。
小冬音の唇が俺の頬に押し付けられたのだ。
「お、お……お前!」
やけに熱く感じる頬を押さえながら、なんとか声を絞り出した。突然のことで、頭が真っ白だしパンクしてしまいそうだ。
「これで私が絶好調な理由分かりましたか?」
「お、おう……!」
もしかして小冬音って俺のことが──
「せーんぱい♪ 大好きですよ、べー☆」
恥ずかしさを誤魔化すためかは分からないが、小冬音は下まぶたをさげながらいつものようにウザったく舌を出してくるのだった。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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