彼女?
「上田この後の飯どうする?4号館の食堂行かね?」
「おー、おれ甘辛定食にしようかな」
教職科目の講義を終えて他学部の友達と食堂へ移動した先でひときわ華やかな集団が横目に映る。
男女3名ずつでテーブルを囲み楽し気に週末の予定で盛り上がっているようだ。
大学に入れば自然と彼女なんかできちゃうものかと甘い夢を見ていたけど、けっきょく男ばっかとつるんで女っ気がない毎日だよなぁ。
そんなことを思いながら集団から少し離れて奥まったカウンター席にお盆を並べ席に着く。
同じようなことを考えていたのだろう友人がため息交じりに情けない声を出した。
「あぁぁ~、いいよなぁ、俺も女子とキャッキャするキャンパスライフ送りてぇ」
そう言って未練ありげに後ろを振り向く友人の肩をどつく。
「んだよ、俺がいるじゃんかよ~」
「わーい上田君いっしょにいてくれてありがとー!課題写させてー!」
「ばか、だれが見せるか自分で努力しろ!」
今学期は学科科目も教職科目もシラバスにパンパンに詰め込んで、そのうえ実習に行く予定の中学校で学習支援ボランティアをしたり、バイトのシフトも定期的に入っているので常に忙しい。4年になったらなったで実習と卒論、教採、就活とますますせわしない、やれることは今のうちにやっておかなくては。
踏ん張りどころってわかっててもキツイな
模擬授業の資料集めに来た図書館で机に頭をあずけた。
疲れた…。最近、遊んでねぇなあ。
瀬田、今日急に家にいったら迷惑かな。
瀬田とはゼミといくつかの講義が被っていたけど、その前後も予定が詰まっているため以前のように一緒に過ごすことが減っていた。
わかっててシラバス組んだし、今頑張れてる自分の努力も手ごたえを感じてはいる。けど、なんか、なぁ。
2年間べったり過ごしてたせいか、物足りない。
やっぱり彼女、作るべきかもな。友達とかぶってる講義が少ないからって、こんなやつのことばっか考えてるの、なんか、変だ。
けど、女子と遊ぶ時間もそんなないんだよなぁ。
近頃はサークルにも顔を出していないし、ゼミの女子達は気が強いし、教職の女子達は自分と同じような状況で学業に忙しい。
ふーむ。と肘をついて横を向いた先に、昼頃に食堂で見た男女の集団が図書館でも集まって大机で課題をやっているのが目に入った。
あ、昼に見たやつらだ。
やっぱり男女でつるむ陽キャは基本顔がいいな。
と思ったところで、はっと気づく。
奥に座ってるの瀬田じゃん!
先ほどから見かけていた集団に瀬田が紛れていたのに気づいていなかったなんて。口数少ないからか、はたまた食堂にいたときはいなくて、図書館から合流したのか知らないが、とにかく瀬田が座っていた。瀬田はこちらに気づいていないようで隣の女子と話しながら課題に取り組んでいるようだ。瀬田に話しかけられている女子は少し頬を赤らめながら熱心に瀬田を見つめている。
うわぁ、そりゃ瀬田はモテるもんな、俺と家に入り浸る時間よりかこうして女子とキャッキャしてるほうが健全だわ。
ただ、なんとなく見知った集団が楽しそうに課題をしてる側でひとり学習するのはしんどい。ここはいったん自宅に帰って続きをするかな。
瀬田に見つからないうちにと、手早く荷物をまとめ外に出る。生ぬるい風が吹いている。
先ほどの光景を思い出して、歩く速度が速くなる。
あいつ、彼女作るのかな、てかもう付き合ってたりしてな、なんも聞いてないけど、瀬田ならいてもおかしくねえな、俺に言う筋合いもないしな。
そんなことより、俺は俺で、課題まとめないと。結局模擬授業の資料集めただけでなんの計画も立てれてない。家だと誘惑が多くて集中できないんだよな。
思考がぐるぐるしだしたので歩調を緩めて深呼吸する。
瀬田に彼女がいていいキャンパスライフを送ってるなら、よかったじゃないか。シラバス組むときに避けた罪悪感もこれでチャラだ。なんなら俺が瀬田と離れたおかげで瀬田と女子との交流も増えたんじゃないか?すなわち俺は瀬田に感謝されてもいいくらいだ。
ふむ、っと勝手に納得いって上田は満足げに鼻息を吹いた。歩調はもう安定している。
俺はおれで瀬田から独り立ちして将来に向けて頑張る。それでいい。
ついでに模擬授業のアイディアも思いついたのでそのままスマフォのメモに書き残す。
図書館に残された瀬田が実は上田に気づきながらも、上田から接触してこないことにフラストレーションを溜めていたなどいざ知らず。上田はのどかに帰っていった。