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気が付けば手遅れ  作者: WM
7/10

独り立ち?


大学のPCルームで画面を見つめながら上田は一人悩んでいた。

念願かなって希望のゼミに入れたのは良い。しかしその他の単位をどう取るべきかだ。

ゼミと教職科目が入るのは決定事項だ、問題は学科の選択科目である。


ちょっと瀬田と距離をとりたいんだよなぁ…。


これまでほとんどの履修を瀬田と被せ、講義後の課題もしょっちゅう瀬田の家に転がり込んで一緒にやってきた。アルバイトのシフトが厳しい時などは代返を協力してもらったこともある。


瀬田が嫌なわけではない、大切な親友だ。再会できたこともうれしいし、あの別れからここまでの関係を築けたことは奇跡の様だ。


互いに憎まれ口をたたき合うことはあってもなんだかんだと瀬田は上田に甘かった。けれどそれが上田にはひっかかるのだ。


これまでも努力してきた、でも正直、瀬田の協力合っての今なのではないか。そんな不安がふとよぎる。

自分ひとりの力でどこまでやれるか試したい。親離れならぬ瀬田離れ、いつも自分より一歩も二歩も先を行くような、あの男を親友だと思うからこそ、隣に並んで恥じない自信をつけたいのだ。


さて、どうやって講義を組もうかと画面を睨む。シラバスを選択するカーソルはところなさげにさまよっている。


わざわざ瀬田がどの講義を受けるか確認してまで避けるのはちょっと違うだろ、これまでのように擦り合わせて講義を選ばす、自分が受けたいものを選択すればいい、その結果として偶然講義がかぶってしまったのなら良しとしよう。そう決めて思いのままいくつかの講義を選択し申請ボタンをクリックした。





後日いつものように次のセメスターの履修をどうするかと瀬田に問われた。しかし上田はまだ悩んでるんだと話をはぐらかし、じゃあ教職の講義があるからとそそくさとその場を離れた。


少し戸惑った様子の瀬田に胸が痛むが、わざわざ説明するのもなんだか情けない。勝手に決めた自分のための決意に瀬田を巻き込んで申し訳ない、そんな若干の後ろめたさもある、しかしこれも独り立ちのためだと上田は後ろを振り向かなかった。







一方、自分との会話を早々に引き上げて去っていく上田の背を、瀬田はショックを受けながら見送っていた。瀬田の脳内は同時にぐるぐるせめぎ合いだす。



一体全体、さっきのはなんなんだ。



これまで慎重に距離を詰めてきて、今や上田の隣にいる親友ポジションは自分のものだろうという自覚を瀬田は持っていた。周りからも上田と瀬田はセットのような扱いを受けるようになってきていたのに、ここにきて急にあの態度はなんだ。


ここ数日のやり取りの中でも特段もめたこともないし、良好だったはずだ。戸惑いは沸々と苛立ちに変化していく。


なぜ逃げる、なぜ目を逸らす、なぜ口ごもる、なぜだ


さっきの態度を問い詰めてやりたい、なぜ急につれなくするのかと攻め立てたい、不安と腹立たしさがグラグラと胸の内で煮えたぎる。


許せない、俺からいまさら逃げるなんて、何を考えている


しかし上田に怯えられ避けられるようなことに目に当てられない。思わず険しくなった眼差しを手で覆い眉間を抑える。


今まで積み上げた信頼はどうなる、冷静になるんだ


今まで何も察さずのんびりと自分の手の内に収まっていた上田のことだ、特別な理由もなく、先ほどはなにか都合が悪かっただけかもしれない、そう自分に言い聞かせた。


落ち着け、大丈夫、どうせゼミは一緒だし大学にいればまだ会える、落ち着け


ここに突っ立ていてもしょうがないからまた次に会えたらもう一度それとなく探ろう。不安を振り払うように瀬田もその場を去った。




しかし結局のところ、履修申請期間いっぱい上田は瀬田をのらりくらしと避け続け、瀬田は上田からなにも聞き出すことができなかった。






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