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気が付けば手遅れ  作者: WM
3/10

答え?

「わるいわるい、最近バイトが忙しくてこの講義の課題すっかり忘れててさ、とりあえず代表して発表だけはやるから許してよ」


忘れてなくてもいつもグループワークは人任せなうえに、発表だけはちゃっかり参加して、教授にアピールする気満々じゃねえかよ


とグループワークのメンバーをウンザリさせたのは遅刻欠席課題忘れ常連の阿部だった。


このクラスで聞く何度目かの阿部の謝罪に上田はげんなりとした気持ちでその提案を遮った。


「いや、内容よく理解してないやつが発表したらつっかえたり間違えたりするかもしれないだろ。せっかくだけど発表は他のメンバーに任せたい。」


そもそもできるなら阿部とは別のグループになりたかったのだが、教授の提案で名前順に区切られたグループでは上田と阿部は近すぎた。


3年になったら始まるゼミでは、上田の希望する教授は人気が高く、成績が悪くてはゼミの抽選に落ちるかもしれない。


それにここで自分勝手な阿部のためだけに他のメンバーと用意してきた課題の質をいたずらに落とされるのは見過ごすことができなかった。


「なんだよ、俺けっこう土壇場で強いからダイジョブだって~」


グループの不満を感じていないのか、大人しいうちのメンバーなら言いくるめられると思っているのか、阿部は上田の肩に腕をまわし背中をバンバンとたたきながら強気に言いはなった。


ずっしりとのしかかる腕の重みに上田もこれ以上何か言う気力がしぼんできてしまう。


グッバイ俺らのグループ努力とA判定…


「あの教授、発表者にそのまま質疑応答を答えさせるらしいよ?大丈夫?」


せめて阿部がもっともらしく発表できるようにと原稿をまとめようと顔を下げた上田の上から声が降ってきた。


え、と顔を上げると別グループで発表準備をしていた瀬田が発表資料を小脇に抱えて立っていた。


「うわまじかよ、俺無理だわ、ほかの人やって」

するとメンバーの作った原稿を読み上げるだけの気でいた阿部が打って変わって発表を投げ出した。


助かったけどなんでこいつこっちのテーブルまで来てんだろ、と顔を見ると瀬田はにやっと笑った。


「あ、上田ペンちょうだい。今日筆記用具一式忘れてきちゃって」


「わざわざこっち来ないで同じグループの人に借りればいいじゃん」

顔立ちが良いうえに普段スマートな瀬田のうっかりしたギャップにグループの女子は喜んでペンを貸しただろう。


「なんだよ、どうせ上田すぐ家来るし、だいたいほとんどの講義かぶってんだから返す手間がないだろ?」


そう言うと瀬田はペンケースから何本かペンを勝手に引き抜いて自分のグループへ引き返していった。







「うん、着目点が面白いし、シンプルにまとめられていてわかりやすいね」


発表を聞いて穏やかにほほ笑んだ教授のコメントにぽっと胸が熱くなる。メンバーと目を合わせ喜びを分かち合っていると、ふと教授の目に鋭さが光った。



「けど念のため中盤の要所をもう少し詳しく解説してもらえるかな。それじゃあ阿部くん」


「えぇっと…その…」

急な指名に阿部が顔をしかめ言葉に詰まると教授が言葉をたたみかけた。


「発表者じゃないからと気を抜いていたのかい、質疑応答の準備くらいしてくるものだろう。じゃあ発表者と阿部くん以外、だれか答えてくれるかな」


普段穏やかな教授の少しぴりっとした態度に驚きつつも、指摘された箇所を上田が回答をすると、教授はさらにいくつか他のメンバーにも質問を重ね、ふむふむと何やら書き込みながらもオッケーを出し次のグループへと発表が移った。




おいおい、ぜんぜん発表者以外にも話振るじゃないか。

と講義後、いつも通り瀬田の家でダラダラと過ごしながら話を振ってみたところ、


元からあの教授は普段の講義では物腰が穏やかなわりに、成績に厳しくて一人ひとりチェックしてるって先輩が話してたよ。それに発表者にだけ話を振ってたらグループで発表する意味ないじゃん、と瀬田は言ってのけた。


そうして思い出したように上田の肩をぽんぽんとはたきながら瀬田はつづけた。


「阿部、馴れ馴れしくて鬱陶しかったんだよね」


そのままぐりぐりと肩に寄りかかってくる頭をのけようと髪にふれると指通りの良い髪がさらさらとすり抜けた。


「お前の頭のがよっぽど鬱陶しいよ、重いし、なんだこのキューティクルヘア、髪の先まで恵まれてるのかよ」


「おかしいね、上田もよくうちに泊まるからしょっちゅう同じシャンプー使ってるはずなのにね。」


煽るように笑い大きな手が上田のくせ毛を撫で、そのまま首筋をくすぐった。


「うっ、ばかっ、やめろこの、くすぐったい。だー!離せってば!」


首を撫で鎖骨をなぞる手つきに耐え兼ね腕を突っ張るが、逆に腕を取られ瀬田の膝に頭を突っ込んでしまった。


足元でもごもごともがく上田の頭をわしわしと混ぜながら瀬田は笑った。


「おばかさん、もう離さないって何度も言ったでしょ」


そう言って笑った瀬田の目はきっと捕食者の目をしてるし、他人に触られた箇所は瀬田に倍、撫でまわされることを上田は覚悟したほうが良い

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