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気が付けば手遅れ  作者: WM
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偶然の再会?

サークルの新歓コンパではただ酒目的の新入生や、はたまた割り勘代を浮かせるために引っ張られてきた先輩などたくさんの学生が居酒屋の座敷にひしめいていた。かくいう新入生の上田もその一人で、期待と不安を胸に大学に入学し、楽しいキャンパスライフを送ろうと大学の路上で誘われてそのままこの飲み会がどこのサークルのものなのかもよくわからずにこの飲み会へと踏み込んだのだった。


だれか話せそうなやつはいないかと周りを見渡してふと向かいのテーブルの隅に座った涼しげな男前と目が合った。その端正な顔立ちにどこか懐かしさを感じたような気がしたが、その瞬間となりにどっかりと座った先輩に話しかけられて飲み会が終わるまでそのイケメンのことは忘れていた。


もともと勉強が得意ではない上田は予備校に通わせてもらい、ひーこら言いつつも浪人だけはできまいとなんとか第一志望の大学に入学した。

小学校時代に両親を事故で亡くした上田を引き取ってここまで育ててくれたのは遠縁の老夫婦だった。とても愛情深く俺を育てくれた親切な人たちで、本当の両親のように慕ってはいるが、さすがに浪人などという不要な迷惑はかけられまいとひっしこいて勉強したので無事合格することができた時は心底ほっとした。


そんな念願かなっての入学だったが、

この新歓コンパはハズレだったかもしれない…


と帰り際にはうんざりした気持ちになっていた。

隣に座った先輩は豪快な人柄だったようで大きな声でその場を盛り上げつつもがぱがぱとグラスを空けていき、解散するころには隣に座っていた上田の肩に腕をまわし真っ赤な顔で一人では歩けないようなありさまだった。


お、重い…

先輩を支えながら店先を出たその肩がふいに軽くなって顔を上げると、先輩の反対の肩をあの涼しげな男が一緒に持ち上げてくれていた。


「あ、ありがとうございます。あの…」

「瀬田でいいよ、俺も1年だし。この人の家、知ってる先輩いないかな、引き渡して来ようぜ」


そう言って瀬田は先ほどまで同じテーブルで飲んでいたであろう先輩たちに声をかけると、酔っ払った先輩をさっさと同じアパートに住んでいるらしき先輩に引き渡していた。


はぁイケメンは優しいだけじゃなく酔っぱらいのあつかいもそつないな。


「助かったよ。先輩たちに声かけるにもこの人支えるので手一杯だったから」

「いや、いいんだ。あいかわらず、お人よしだな」


そういってはにかんだようにこちらを伺う顔を見て、初めに感じた既視感の正体にはっと気が付いた。


「ええ、もしかして瀬田って、瀬田大翔せた はると!?うわっ懐かしい」

「そうだよ、よかった目が合った時に反応がなかったから人違いなのかと心配してたんだ」


そう言ってほっとしたように笑った顔をよく見れば、長らく会っていなかったので記憶が薄れていたが、確かに彼はかつて両親が亡くなったばかりのころに同じ児童相談所で保護されていた保護所のルームメイトであった。


両親が亡くなった際、本来であれば子どもはすぐに親族に預けられるはずだったのだろうが、上田の場合は少し状況が違った。というのも、上田の両親は厳しかった祖父母の反対を押し切って駆け落ちも同然に結婚したらしく、上田が物心ついたころにはもう親族付き合いというものは全くなく絶縁状態にあった。そのため事故後、上田の引き取り先に連絡を取ろうにも手段がなく一時保護所に保護されることと相成ったのだった。


そんな保護所時代の記憶をぼんやりと思い返した上田だったが、瀬田の生い立ちの背景と別れの情景が脳裏をかすめ、ふたたびはっと瀬田の顔色をうかがった。


保護所で過ごした数か月、両親を失ったばかりの自分を支えるように寄り添ってくれた瀬田だったが、最後の別れは唐突だった。

引き取り先が見つかったと告げられ、少ない荷物をまとめケースワーカーに手を引かれる自分に、行くな許さないと泣いてすがった瀬田の手を、保護所の大人たちの手が引き離し、唸るように泣く瀬田の声を振り切って保護所を出た記憶が胸を締め付けた。


「瀬田、あの、俺…」

なんといっていいのかわからず口ごもってしまった。

この再会を喜ぶ気持ちと、しょうがなかったにしても別れた時の申し訳ない気持ちで綯い交ぜになって口が乾く。


「いいんだよ、もう。こうしてまた会えたんだから。」

わかっているというように瀬田は上田の目を見つめながら柔らかく微笑んだ。

「また会えたんだ、もう離れなければいいだけだよ。」

いつの間にか上田の手は瀬田の両手に包み込むように握られていた。


その甘やかな仕草にイケメンは様になるなと思いながらも、肩の力が抜けた。そうしてこの場が飲み会後の道端だということを思い出し、上田の頬はかっと赤くなった。


「や、ありがとう、本当にまた会えてうれしいよ。瀬田は何学部の何学科?いまどこ住んでんの?てかこのサークルはいる?今まで何してたの?」

大きな手に包み込まれた己の手を引き抜いて、恥ずかしさから矢継ぎ早に質問すると瀬田は笑った。

「ちょっとちょっと、落ち着いて。」


「俺、近くで一人暮らししてるんだ、よかったらこのまま泊ってってよ、そこで話そ。」

「行くいく、まって家に連絡いれるわ」

「おっけー、積もる話をたくさんしよう」


失敗かと思った新歓コンパだけど、イケメンの級友に再会できたうえに、大学近くの家を確保できそうだなんて幸先いいじゃん、ラッキー。そんな打算も含めてほくほくと笑いながら家に電話をする上田を、少し離れてさきほどの笑みを消した瀬田が春先のまだ冷たい夜風と共に静かに見つめていた。


「たくさん話をしよう、時間はたくさんあるんだから…」



(偶然の再開を装った瀬田が興信所に依頼して上田の進学に合わせて入学してきたうえにこの後もさんざん距離詰めてくることを上田はまだ知る由もないのであった。はいはいヤンデレヤンデレ)


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