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11.

 

「まず、始めに言っておく。あの身体は、元々お前の身体(もの)だ」


 手短に話してくれると約束した上で、オルリスは真面目な顔をして、いきなり爆弾発言をかましてくれた。


「あの身体って……ルチア・アルバニアとしての身体のこと、よね?」

「あぁ」

 まぁ他には思い付かないからそうなんだろうけど。


 首肯したオルリスは、非常に嫌そうな顔で説明しだした。

「魔女と、()()()の魂が共鳴して、本来この世界で生まれる筈じゃなかった()()()の魂が、お前の身体を乗っ取ったんだ」

「……どういうこと?」


 私の身体を乗っ取ったって言ってるし、多分『あの女』ってのはネレスのことなんだろうけど…………魔女って誰?


「魔女ってのはこの世界を元々治めてた存在で、今は精神体で生きてるようなもんだ。その魂の在り方がよっぽど酷似してたんだろうな。違う世界を生きてた()()()の魂が共鳴して喚ばれてしまった。でも、本来生まれるはずのない魂だ。身体なんか無い。そこで消滅すりゃ良かったのに、丁度生まれるところだったお前の身体を乗っ取りやがったんだよ」

「えぇ?何そのとばっちり!?」


 じゃあ何だ。私は普通に生まれるはずが、最初から身体を乗っ取られて、生まれることすら出来なかったと?

 ……酷い!酷すぎる!ネレスが人でなしだなんて知ってたけど!しかも人の身体で好き勝手しまくって挙げ句ポイ?後始末だけ私に押し付けて?ふざけんな!

 ――――あれ?でも……


「約10年間、私の魂は?ずっとここにいたの?」


『魂の還る場所』って言うくらいだし。と思ったけど、オルリスはゆるゆると(かぶり)を振って否定した。


「いや、此処は特別だからな。魂だけで長いこと居たらさっきも言ったように、身体に帰れなくなる。今みたいに、魂が繋がった状態の、戻るべき身体が無ければ半年くらいはここに居れる猶予は有るけどな。それ以上は無理だ。だから、お前の魂は、違う器に入れて10年間過ごさせたんだ。()()()が出ていくまでの繋ぎとしてな」

「違う器……?」

 想像がつかなくて首を捻る。他の人間になってたってこと?


 ……ってことは私もネレスと同じで乗っ取り人生!?人でなし野郎だったの!?


 嫌な想像が頭を駆け巡って焦る私を尻目に、オルリスはさらっと答えた。


「精霊だよ」


 おおぅ。良かったー!ん?いや、良くないのか?


「精霊って……元の人格とか、どうなってるの?私も誰かを乗っ取っちゃってたりしない?」

 不安に思い、オルリスに尋ねる。


 しかし即座に否定された。

「しねぇよ。精霊ってのは自然の中に存在する魔力の塊みたいなもんだ。自我はあるけど、その魔力の元となった生き物の性格とか本質を映してるようなもんなんだよ。お前の場合も、お前の魔力を使ったから、精霊であってもお前自身と、本質は変わらない」


「良かった……」

 本当に、ほっとした。ネレスと同類とか、マジで勘弁してほしいし。


「ただ、精霊の時の記憶までは身体に戻すことは出来ないって知ったお前は、最初、身体に戻んのすげぇ嫌がったけどな」


 あの時は難儀した、とオルリスに呆れたように言われてしまった。

 その時の私、よっぽど精霊として生きるのが楽しかったのかな?


「まぁ、あの、ヴィルト王子だっけ?が死ぬかもって知ったら、即座に身体に戻る!って息巻いてたけどな。精霊のままじゃ、生身じゃないから守れない!早く戻る!とか言って。でも結局、()()()が出ていく瞬間まではここで足止めされて怒り狂ってたな」

 あん時はうるさかった……としみじみ言うオルリス。


 …………ちょっと待て。今、聞き捨てならない言葉を聞いたような?


「ヴィルト様が………………死ぬ?」


 どういうこと?


「言ってなかったか?……あぁ。今のお前にはまだだったか。()()()は、ヴィルト王子を殺そうとしてんだよ。」

 淡々と言うオルリスの言葉が、その表情が、とても真実味を帯びていて、嘘であって欲しいという希望を容易く打ち砕く。


 ここに飛ばされる前、ネレスは何て言っていた?


 呪いの魔法を解こうとしたところに、

『―――ダメじゃない。そんなことしたら、ゲームが始まらないわ―――』

 と言っていた。


 ……ゲームの為?

 ゲームの始まる条件が、ヴィルト様の死?


 普通、王子様(イコール)攻略対象者だと思い込んでたけど、ネレスにとっては違うのか。


「何でそんなこと……」

「俺が知るか」

「デスヨネー」


 正に一刀両断。


()()()の考えなんて知らねぇし知ろうとも思わねぇよ。胸糞(わり)ぃ」


 さらに吐き捨てるようなお言葉頂きました。

 この人、さっきから思ってたけど、顔は良いのにガラ悪ーい。


 でも、その考えには賛成。

 ネレスの考えなんて分かりたくもない。

 だけど、ヴィルト様の命を狙っているなら、話は別。ヴィルト様が殺される、なんてことは、絶対に阻止しなきゃいけない。

 国民として。貴族として。ううん、そんな理由は所詮後付けに過ぎない。


 ()が、ヴィルト様に、死んでほしくないんだ。



 心の底から沸き上がる、この思いが、()のものでも、以前の精霊だったという時のものでも、やることは変わらない。



 ヴィルト様を守る。



 ネレスの思い通りになんて、絶対にさせない―――――!



 これだけが、今の私の、真実。

 過去に身体を乗っ取られようが、精霊として10年過ごしてたんだろうが、もうどうでもいい。大事なのは、()を生きる私がどうしたいか、なんだから。



 その為にも。

 守る、(ちから)が、欲しい。


「そう言えば…………」


 ふと、フロウに言われたことを思い出す。


『「そのオーラが王子様と全く同じなんだよねー。気づいてた?」』


『「普通はね、人に個性があるのと同じように、魔力の色や量ってバラバラなんだ。特に色合いは、適正のある属性の違いとか、精霊からの加護の度合いとかで。でも、お嬢さんと王子様は、オーラの色合いが全く一緒。まるでどっちかがどっちかに自分のオーラを分けたみたい」』


「私の魔力が、ヴィルト様と同じって言われたのは……精霊として生きていたっていうのと、何か関係があるの?」


 疑問をよく考えないままに口にしていた。

 それに対するオルリスの返答は思いがけないもので。


「あー。お前ら二人、混ざっちまったからな 」

「混ざ…………!?」


 どういうこと?


 オルリスはガリガリと頭を掻きながら、不貞腐れた悪ガキのような顔で説明し始めた。口を尖らせたその顔は、見た目より幼く見える。


「お前らの魂って波長が合いすぎてんだよな。ヴィルト王子は王家の中でも『雷』の素質が高くて魔力も多いし、お前は元居た世界が『電子』ってやつだったか?『雷』の魔力とよく似たものに囲まれて生きてきたろ?だからこの世界で精霊としての器に入った後、ふらふら~っとヴィルト王子んとこ行って、ずっと居座ってたんだよな。多分、居心地良すぎて離れらんなかったんだろ」


 …………何ですとっ!!一歩間違えれば私、ストーカーじゃん!


 しかもオルリスの説明は、まだ続く。


「んで、波長の合いすぎたヴィルト王子の高品質の大量の魔力を、魔力で無理矢理作ってた精霊としてのお前の器が、ほとんど吸いとっちまったんだよな……」


 で、混ざってしまった、と。少し罰の悪い顔で言うオルリス。「完全に予想外だったんだよ」、と言い訳じみたことまで言い出した。


 ちょっと待て。


「吸いとった!?魔力を?ほとんど!?」


 私は掃除機か!ヴィルト様にとっては有害でしかないじゃない!ストーカー精霊に魔力ごっそり持っていかれるとかそれ何て罰ゲーム?

 ヤバい。これヴィルト様、超怒ってるんじゃね?本当のこと話して怒り狂って処刑されても文句言えないよ。


「精霊の体ってのは魔力と相性が良すぎるからな。魔力の集合体みたいなお前に引っ張られて、ヴィルト王子の魔力は年月かけてお前の器に馴染み、混ざった。だけど、お前がここに精霊としての自分と決別して魂だけの状態で来るとき、ヴィルト王子に魔力は返してきたはずだ。もう混ざりきって分離できない魔力をな。だから、お前の持ってる魔力は、そう多くはねぇよ。結果的に全く同じ魔力を持つようになったのは、それが原因だ。」


 魔力を返してきたことを知って、取り敢えず少しほっとする。だけど……あれ?確か……


『「僕に魔法や魔法道具マジックアイテムが効かないことはもう話したよね?それとは逆に僕自身も、生まれつき、魔法も魔法道具マジックアイテムも使えないんだ。持っている魔力も、『雷』のものが少しだけ。だから、王族の中では、『落ちこぼれ』って言われてるよ」』


 とか言ってたような?

 どういうことだろう。ヴィルト様に魔力を返したのなら、オルリス曰く高品質の大量の魔力とやらは、どこ行った?


 それを聞こうとした、その瞬間(とき)


「時間切れだ」


 オルリスが私に向かって手を突きだした。

 その手が、光を帯び始める。


「時間があれば、全部答えてやりてぇんだけどな、これ以上ここに居ると、マジで帰れなくなるから、またな」


 その言葉を聞き終わるか聞き終わらないかの瀬戸際で、目の前からオルリスの姿が、消えた。




 いや、自分がオルリスの前から消えたのか、と気付いたのは、目の前の景色がフロウと契約を結んだエヴァ様の大樹の前だと気付いた時だった。見覚えのある景色に、ほっと肩の(ちから)が抜ける。


 爽やかな風、その風に揺れる木の葉の優しい音、大樹の木の葉の間から漏れる優しい太陽の光、私を抱き締める力強い腕、目の前のヴィルト様の麗しい顔………………顔!?


 帰ってきたー!と思ってたらまさかの異常事態に頭がショート寸前です。


 おまけに、ヴィルト様は私の身体をかき抱いていて、バッチリと目が合うと、蕩けるような笑顔と、腰が砕けそうな声で仰いました。




「もう……絶対に離さないから。覚悟してね、―――――僕の精霊」









ブクマ&評価&感想、そして誤字報告ありがとうございます!いつも助けられております……語彙力が無くて申し訳ありません。

気付けばブクマが3000以上……こんなにたくさんの方々に読んで頂けて本当に嬉しいです!

これが、平成最後の投稿となります。

読んで頂いて、本当にありがとうございます!


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