8.
日間1位、週間3位……!月間まで26位とランキングが上がってきました!
もう本当に皆様ありがとうございます!
有り得ないくらいの快挙に動機が止まりません。いや止まったら死にますね。頑張って生きます。
ブクマ&評価&感想、ありがとうございます!
誤字報告、とっても助かります!
あービックリした。
先程の、お兄様の剣幕を思い出す。
この身体になってから今まで、威圧感こそあれど、フェルナン程突っかかって来なかったお兄様の、いきなりの豹変に驚いた先程の一件は、中々に衝撃的だった。私はただ、エヴァ様との邂逅の報告連絡相談しただけなんだけどね。
というかいちいち突っかかってくるフェルナンはキャンキャン五月蝿い子犬みたいよね。お兄様はシェパード的な感じ?賢いけど噛まれたら超痛い、みたいな。……うん。怒らせんようにしよ。痛いのやだしな。
ちなみに私は猫派だ。だから犬っぽいお兄様と弟よ、君たち少し暑苦しいよ。ハウス!
だがしかし。
今お家に帰りたいのは私だったりする。
公爵家の豪華お姫様仕様天蓋付きふわふわベッドが私を待っているのよ!
…………とか、現実逃避してても始まらない。
いよいよ、この時がやってきたよ。
犯人とのご対面、またはヴィルト様曰く、悪役令嬢爆誕の瞬間。……そんな言い回しはしてなかった気もするけど、似たようなもんよね。
悪役令嬢なんて回避したいってのに、何で自分から突き進まなきゃいけないのか。まぁ、演じるだけですけどね。
そう。悪役令嬢を、演じるのです。
ヴィルト様と打ち合わせたシナリオはこんな感じ。
一、犯人の失敗を責めるふりをしつつ、情報を得る
二、呪いの魔法の核となる依り代が何かを暴く
以上。
……うん。ざっくりし過ぎな気がするのは絶対気のせいじゃない。でも、犯人がどう行動するか、私本人に対してどんな反応を見せるか全然読めないからね。しょうがない、と思い込もう。例えヴィルト様ちょっと丸投げし過ぎじゃね?と思っても、口に出したら忠誠犬二人が怖いし言いませんよそんなこと。
エヴァ様から受け取った風の牢、もといピンポン玉大の緑色の水晶のような珠をゆっくりと地面に置く。既に、ヴィルト様達は姿を見せないように土と風の結界の中に居る。
土の属性と風の属性を合わせると、景色に同化するように存在を目隠し出来るらしい。もちろんそれも魔法道具の複合技である。本当に万能だな魔法道具。秘密道具みたいで憧れる魔法道具。ちょっと欲しい。くれないかな。うん、くれないだろうな絶対。
とは言っても万能魔法道具も、気配までは消せないらしいから、少し離れたところに居るらしい。風の牢があるから危険は無いと言われたものの、犯人と一対一はさすがにちょっと遠慮したいので、居てくれるのは心強い。
……もうそろそろ、風の牢が現れるだろうか。緊張してきた。トイレいきたい。
目の前の珠を見つめる。
……この大きさの珠の中に人一人閉じ込めているなんてまるでファンタジーよね。世界が違うってこういうことなのね。魔法、私も使えるかなー。使えたら楽しそうだなー。
珠を、見つめる。まだ変化はない。
……犯人が正気を失ってたら危ないわよね。もうちょい離れようかな。安全第一よね。
…………見つめる。変化なし。
―――って、
「変わらないんですけど!置いたら勝手に結界が解除されて風の牢が現れるはずって聞いたのに!」
「―――現れてますけど」
「!?」
唐突に聞こえた知らない男の声。びっくりしすぎて後退ろうとして、足がもつれて転けた。ヤバ。恥ず。誰かに見られたら恥ずかしくて逃げたいレベルだ。……間違いなくヴィルト様達には見られてるな。逃げたい。
逃走路を探しつつ周りを見ても、誰も居ない、ように見える。
幻聴?
「上だよ、上」
声の言うとおり、上方を向くと、そこには一人の男性が浮かんでいた。小さな竜巻が球体になったような、風の塊に包まれるようにして。―――それは、正しく風の牢と呼ばれるに相応しいものだった。
男性は、その中に居た。
15歳前後のその男性は、茶髪に茶色の瞳でありふれた色彩であるものの、タレ目と目の下の泣きぼくろで、どこか大人の色気を感じさせる雰囲気を持っていた。少し眠たそうな顔が、色気に拍車を掛けている。割と整った顔であることも加わって、チャラそうな印象を受ける。
その茶髪の男が、声を掛けてきたらしい。
何故か、三角座りした姿勢で。
「…………何してるんですか」
「捕まってます」
それは見れば分かる。分かる、けど。
「体勢が何となく残念な感じです。捕まってるなら、こう……出せー!みたいな感じに壁を叩きつけるような必死感が欲しいところです。リテイクを希望します」
違和感しか感じないので、取り敢えず捕まってる感を出してもらうために、希望を延べてみる。
「そんなこと言われても。これ固いから手が痛くなっちゃう」
女子か。
「そこをなんとか」
「なりませんね」
「…………」
ちっ。
「お嬢さん何か舌打ちしませんでした?」
「してませんよ」
「リテイクしましょうか?」
「お願いします」
せめて雰囲気出してくれ。
「たすけてくれーうわー」
ぱむぱむ
物凄く棒読みで、平手で全く勢いの無い打撃?を繰り返している。それはソフトタッチと言うんですよ。せめて拳であれ。……拳だと痛いからか。
「…………何してるんですか」
「必死感を出しています」
全然出ていない。むしろ無気力感しか感じない。
「何で平手なんですか」
「拳だと痛いじゃないですか」
予想通りか。
……。
…………。
……………………よし。
「埒があきません。次に行きましょう」
「次?」
「私が誰なのか分かりますか?」
「付き合いの良いお嬢さんです」
「……質問を変えます。貴方は、何故捕まったのか分かっているんですか」
「悪いことをしたからです」
「悪いこととは?」
「倫理的に、または礼儀の面で、標準や期待以下であること」
「……辞書にあるような説明をありがとうございます。でも、そうではなく」
「第二王子に魔法を掛けた件について、話しましょう」
「あぁ。君によく似たお嬢さんが、依頼してきた件ね」
「―――――私に似た?」
てっきりルチア本人だと思っていたのに、まさか別人が犯人?これでは犯人の失敗を責めるふりをしつつ、情報を得るというヴィルト様からの指令が果たせない。
……せめて呪いの魔法の核となる依り代が何かだけでも知りたいけど。目の前のこの茶髪のチャラ男は一筋縄でいかなさそうだ。面倒い。でもやらなきゃいけない。
「私に似ているとは、どういうことですか。年齢が同じくらいということですか?それとも見た目?」
「言葉の通りだよ。
依頼人と姿形はほとんど一緒だけど、人格は真逆のお嬢さん。
喋りさえしなければ、見た目で区別がつかないくらいにね。
君は、一体誰なのかな?」
うっすら笑みを浮かべつつ問われているのに、その瞳は全く笑っていないので、背筋がぞくりとする。
……しまった。余りにも緊張感がないから油断したけど、悪役令嬢として高飛車に悪役っぽく問い詰めないといけなかったのに。やらかしたわー。でも緊張感の欠片もないこの人もどうなのよ。うーん……今からでも間に合わないかな……。
「私が本人とは考えないのですか?失敗した貴方を責めに来たとか助けに来たとか」
「いや全く。だって依頼しに来たときのあのお嬢さんとは魔力の形から違うからね」
魔力の形……。そんなの見えるのか。えー……じゃあ最初から失敗することは決定してたってことよね。私悪くないわよね。失敗ありきの計画じゃないの。少なくともヴィルト様達は知らなかったってことよね?魔力の形が見えるって、チャラ男実は凄い魔法使い?
「魔力の形が見えるくらい優秀な魔法使いの貴方が、どうして第二王子を狙うようなリスクしかない依頼を受けたのですか?」
「見えるって言っても、属性の色がオーラみたいにその人を取り巻くのが分かる程度だよ。魔法自体は落ちこぼれさ」
何故か顔を歪めて吐き捨てるように言う男。
「……そういえば、貴方、名前は?」
「第二王子に呪いの魔法を掛けたんだ。どうせ処刑されるような男の名前なんて知ってどうするんだ?」
今度は不思議そうに聞いてきた。
「名前、教えてくれないなら、チャラ男と呼ばせてもらっても宜しいかしら」
「……俺、チャラ男に見えんの?」
「違いますの?さっきとは口調も違いますけど、そちらが地?」
「さっきはノリで何となく丁寧に喋っただけだよ。いつもあんなんしてたら疲れるし」
「ノリとか言っちゃうところがチャラいんですよ」
「それもそうか」
顎にを当てて、首を捻るその姿は先程の様子とはうって変わって緩い。剣呑な雰囲気出したり自虐したりチャラかったり。忙しい男だ。
「……くくっ」
今度はいきなり屈んで笑いだした。何なんだ。
「何ですか、いきなり。いろいろと変な人ですね」
「お嬢さんこそ、小さな可愛らしい女の子かと思えば、前みたいに居丈高で高飛車だったり、今みたいに素直でちょっと変わった性格になってたり。変だよ」
変て!失礼な!……というか。
「別人と言っていたのに、今度は同一人物と仰るのね」
「だって、一緒だろう?」
「……」
確信してる顔で言われた。その通りだけど、認めるのは何か癪だわ。
「……記憶がありませんの。昨日までの自分を知らないので、変わったと言われても分かりませんわ」
「あぁ……それでか」
「……?何が、『それで』なんですの?」
「…………」
何かを考え込むように腕を組んだ男は、別の方向を向いて一人思考に没頭しだした。
置いてけぼりにしないでほしい。
「……お嬢さん」
いきなり呼ばれた。
「何ですか」
「俺の名前はアンタが決めてくんない?気に入ればそれにする」
なんだソレ。
「……気に入らなければ?」
「何も喋らない。あの辺に離れて隠れてる多分王子様の呪いについても教えないよ」
えー。難易度高くね?っていうか、落ちこぼれって嘘だろ。見えない魔法使ってんのに見破らないで下さいよ。
……そんないきなり名前とか浮かぶか?子どもの名前つけるのに前世の友人は半年以上悩んでたよ?
それをこんな唐突に……無茶振りか!
「………………フロウ、とか?」
「……どうして」
何故かすごく驚かれた。自分で「決めて」って言ったんじゃない!
「何となく、流れ?というか、掴み所のない人なので、そんな感じの名前、というか……上手く言えませんが」
確か英語か何かで『流れ』とか『水流』みたいな意味だった気がするけど……。コロコロ雰囲気変わるこの人にぴったりじゃない?
こっちの世界でどんな意味合いを持つか知らんけど。無茶振りする方が悪い!そんなすぐに名前なんて思い付きません。
「……意味を知らずに、決めたんだ?」
「えぇ……駄目ですか?」
気に入らなかったのかな。何か変な顔してるー!どうしよう、ミッション失敗?私もこの人も第二王子に呪いかけた罪で首チョンパ?
顔には出さずに、心の中で右往左往。
目の前には難しい顔したフロウ(仮)。
えぇい!はよう答えぃ!
沙汰が決まれば腹も据わるってもんだ!
「…………それで、いや、それが良い。うん、俺の名前フロウってことで」
いいんかいっ!
いや、宜しいんですけどもね。難しい顔するから焦ったやんか!紛らわしい。
……何か晴れ晴れした顔がムカつくわー。一発殴っちゃダメかな?
「そうですか。じゃあ取り敢えず……」
「うん、何?王子様の、呪いの解き方?」
何か嬉しそうに喋り出すフロウ。
身を乗り出すな。ちょっと落ち着け。
「何発殴って良いですか」
「何で!?」
何となく殴らなきゃ気が済まないからです。
ライル兄さんとうって変わって軽い話です。
その場の勢いで書き始めた小説なので矛盾点も多く、未熟な作品ですが、楽しんで頂けたら幸いです。突っ込みどころがあれば是非感想でお願いします。直せるところは直しますので……。




