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Ver.ライルナート・アルバニア《1》

『異世界転生/転移ランキング日間恋愛』で38位……嬉しすぎて五度見しました。

ブクマ、評価ありがとうございます!

見切り発車で投稿させてもらったこの話、続きがどうなるのか私にも分かりませんが…(汗)

出来る限り、面白く読んでもらえるように頑張っていきたいと思います(>_<)


 

 俺は、アルバニア公爵家の嫡男として生まれた。



 今まで、公爵家の嫡男としての勉強や、礼儀作法、マナーは幸い、あまり苦もなく習得できた。しかし、周囲から期待され、望まれていたのは、そんな当たり前のことではなく、別のことだと知っていた。




 四つ年下の妹が生まれてから、両親の関心が妹に向いてしまうのは、寂しい気持ちもあったが、幼いながらに仕方の無いことだと分かっていた。だから、妹が赤ん坊の頃はよく、学習の時間以外は、王宮で年の近い王太子殿下や他の貴族の子どもたちと共に遊んでいた。相手は従兄弟とはいえ王子だから、気を使うこともあったけど、自分自身も公爵家の生まれであったから、そこまで身分差を気にすることもなく、割りと楽に接することができた。

 思えばあれが、一番何も考えない、無邪気な子どもでいられる時期だったのかもしれない。


 そのうち、第二王子であるヴィルト殿下も加わるようになった。


 王太子殿下のことも尊敬はしている。しかし、俺は、ヴィルト様を支えていきたい。可能なら、ヴィルト様に忠誠を誓いたい、と思っている。



 王太子殿下は王妃様を母に、ヴィルト様は側妃様を母に持っている。だから王位継承権は、順当に年齢順となり、歴史によくあるような王位争いの諍いの種も生まれない―――()()()()()

 しかし、いつからか、王宮では、ある噂が囁かれていた。



 王太子殿下の母である王妃は、側妃の子、ヴィルト様の出生を厭って、魔法が使えなくなる呪いをかけたらしい、と。



 王妃はカーリット公爵家の出身であり、アルバニア公爵家とは権力が拮抗していて、あまり仲が良くない。その上、王はアルバニア家の側妃、ルーチェと恋仲であったが、ルーチェが成人するまでに、先に王妃としてカーリット公爵家から送り込まれたエリーゼと政略結婚をさせられたため、王妃を厭っている、というのだ。


 実際、どこまでが本当でどこからが噂の背びれ尾ひれなのかは分からない。だけど、噂が存在し続けているだけの、理由もあった。


 ヴィルト様が生まれてすぐ、赤ん坊特有の細い髪の毛は白銀色、だったらしい。しかし、二歳を過ぎた頃から、徐々に黒が混じっていく様に濃い色に変化し続けた。ちなみに俺が出会った頃には、もう完全に漆黒の髪色だった。


 そして、魔力。

 王族の生誕の際には、王宮魔法使いの筆頭が、祝福の魔法を掛ける。王家の石、太陽の象徴とも言われる黄水晶、シトリンクォーツに、生まれた赤ん坊の魔力を練り込み、星を刻むのだ。

 そのシトリンクォーツは、成人するとき、男なら腕輪に、女なら指輪に加工され、お守りとして、時には身分証明に使われる。その時に、生まれ持った魔力の量に応じて、星の輝きが変わるのだが、ヴィルト様の星は、歴代の中でも一、二を争う輝きだったらしい。

 そのシトリンクォーツは、練り込まれた魔力の持ち主と見えない鎖で繋がっているようなもので、本人の魔力量の増減も見ることができるし、本人がもし死んでしまったら、シトリンクォーツに刻まれた星も消失する。しかし、髪の色が黒に近づくにつれて、王宮で管理されているヴィルト様のシトリンクォーツは、その輝きが徐々に失われていき、髪色が漆黒まで変化したときには、歴代でも凡庸と言われた王族のものと変わらないものになっていたそうだ。


 そんな、本来あり得ない髪の毛の色の変化と、魔力の著しい減少が、噂の信憑性を高めた。

 黒い髪色はこの国では珍しく、「不吉だ」と心ないことを言う者や、『魔法を奪われた、呪われた王子』と憐れむ者、シトリンクォーツの最初の輝きは何かの間違いで、ただの『落ちこぼれ』と蔑む者、様々だった。


 王様を取り巻く王妃様と側妃様の噂も、ヴィルト様の髪色が変化したことも、シトリンクォーツの輝きのことも、王宮という魔窟で、貴族というお喋り雀達がどこからか聞き付けてきたのを、俺は耳にしただけだった。


 ヴィルト様に初めて出会ったのは、俺が七歳の頃で、ヴィルト様は五歳だった。


 父と側妃であるルーチェ様は姉弟だ。姉と姉の子を取り巻く噂を父は知ってはいても、箝口令を敷くには広がりすぎていた為、どうしようもなかった。だからせめて、とばかりにヴィルト様に初めて会う日の朝、俺にこう言った。


「王宮で、第二王子のヴィルト様の噂を、今までもこれからも、たくさん耳にするだろう。でも、そんな噂には惑わされず、ヴィルト様本人を見て、お前は判断しなさい。所詮、噂は噂だ。本人を見て、本人に聞いたことが、真実であり、全てだよ」


 それまで、王太子殿下や他の貴族の子どもたちと遊ぶ中で、ちらほらとヴィルト様の噂を耳にすることがあったけれど、意味もよく分からないまま、ヴィルト様はあまり近寄らない方が良いと何となく感じていた。王太子殿下はヴィルト様について何も仰られなかったけれど、周りの雰囲気に流されていた自分に、父の言葉で気付いた。


 そしてヴィルト様に出会ったとき。あの、琥珀色の瞳を見た瞬間。俺は父の言った言葉を実感した。


 王宮の中庭、生け垣に囲まれた噴水の前で、ヴィルト様はこちらに背を向けて佇んでいた。一人の精霊を連れて。

 アルバニア家は父を筆頭に、優れた魔法使いが多い。つまり、俺も例に漏れず遺伝的に魔法の素養が高かった。(ちから)ある精霊なら視認できる程には。


 ヴィルト様の連れている精霊は、半透明ながらも人間の子どもに近い姿形をしていた。色彩も、属性を現す色彩は無く、白銀の髪に金色の瞳だった。幼い顔立ちは精霊特有の人間離れした美しさで、しかし人懐っこそうな、あどけない可愛らしさをそのキラキラした瞳に宿していた。ヴィルト様より少し小さいくらいの年齢に見える子どもの姿をしたその精霊は、ヴィルト様より先に俺を見つけ、ヴィルト様を促した。俺の方を振り返ったその琥珀色の眼差しは。



 ―――何が、『呪われた王子』だ。


 こんな、真っ直ぐな瞳を、何の曇りもない、澄んだ眼差しを、初めて見た。


噂に踊らされて、若干とはいえ、苦手意識を持っていた自分を恥じた。


 隣に連れた、白銀の精霊と対に見えるその膝黒の髪の毛は、不吉なものでも何でもなく、むしろ太陽の光を受けて輝いているように見えた。


初見で何が分かる、と言われるかもしれないけど、俺は半ば本能的に、ヴィルト様に仕えたい、とさえ思えたんだ。




 それから、周りから何と言われようと、俺はヴィルト様の傍に居続けた。


 白銀の妖精を心から妹のように大切に慈しみ、周りの心無い噂に折れることもなく、ただ真っ直ぐに生きるその姿に、心底憧憬を抱いた。


 それは数年後にヴィルト様に初見えした弟も同様で。



 ただ。


 アルバニア家の唯一、一人だけは。


 両親も俺も弟も、ヴィルト様の味方であり、公爵家の、貴族としての矜持を持って生きている。それは仕えてくれる者、守るべき者を圧するのではなく、率いていくことこそが正しいと知っている。


 しかし、その唯一の一人だけは、違った。

 俺の妹、ルチア・アルバニアだけは。


 何故かヴィルト様を価値の無い人物と決めつけ、王太子殿下にばかり取り入りたがった。

 ヴィルト様と出会っても道端で小石を見つけたような態度を取るばかりで、いくら不敬だと言っても、意味の分からない言葉を並べ立てて直さなかった。公式の場や両親の前では流石に普通の儀礼に乗っ取ったやり取りをするので罰することもできず。


 貴族の矜持も、悪い方向にばかり高く、周りの人間は皆自分にかしづいて当然、という態度だった。

 余りにも目に余るその態度に、両親に直談判したことも何度もあった。妹は両親の前では良い子を演じていたが、執事や俺の報告で、両親はとっくに妹の本性を知っていた。

 しかし、妹への親の愛なのか、ただ甘いのか、他に理由があるのか、苦虫を噛みつぶすような顔をしながらも、両親は妹に言い聞かせるだけだった。勿論、それを聞く妹ではなかったけれど。


 代わりに、俺達兄妹は、領地の一つのマナーハウスに住むようになった。王都で妹が公爵家に相応しくない態度を取らないようにするためだ。妹は嫌がっていたけど、当然黙殺された。

 俺は妹を少しでも更正させようと、執事と共に努力したが、報われることは無かった。一年の半分、王都に居なければならない両親も、館で働いてくれている使用人達も、俺に期待してくれていたのに、応えられない自分が情けなかった。



 領地は王都からそんなには遠くなかったので、ヴィルト様は乗馬を覚えた頃から、白銀の精霊と共に、よく遊びに来てくれた。


 白銀の精霊は、生まれてまだ数年らしく、人間の子どものように好奇心旺盛だった。魔力の波長がヴィルト様と合うからか、ヴィルト様にとても懐いていて、仲睦まじく二人でよく寄り添っていた。精霊の名前は、幼い頃に人に知られると身勝手に使役されたり、支配されてしまうことがあるため、と秘密にされていた。なので、仮の名前としてヴィルト様は『アルジェ』と呼んでいたし、俺もそう呼んでいた。


 アルジェは人の気持ちに敏感だった。

 ヴィルト様を良くない感情を持った者が近くに来ると、すぐに姿を消していた。

 もちろん、ルチアだ。


 しかし、俺と弟に対しては、実の妹より懐いてくれて、ヴィルト様と一緒にいろんな所に行った。

 アルジェには実体こそないものの、彼女はまるで普通の、人間の少女のように遊びたがった。町にお忍びで降りたり、領地を広く見渡せる丘に登ってピクニックしたり、湖で水遊びしたり、森で精霊達に教わりながら魔法を練習したり。おかげで今、俺が魔法を使うと、並の魔法使いより威力が出過ぎるので、少しの魔法なら魔法道具(マジックアイテム)を使うようになったのは、少し誤算だったけど。


 貴族の遊びとしては相応しくないと言われるようなこともいろいろしたけど、ヴィルト様はアルジェが喜ぶなら何でもしたがったし、俺達もそうだったから、誰からも文句は出なかった。(執事からだけは、服を汚さないでください!危ないことは止めて下さい!と涙ながらに言われたけど)


 アルジェは、属性こそないみたいだったけど、他の属性の精霊の(ちから)を借りて、魔法道具(マジックアイテム)を作るのが上手だった。色んな色の魔法道具(マジックアイテム)を作って、「綺麗でしょ!」とドヤっていた時は微笑ましかったけど、父に「魔法道具(マジックアイテム)を作れる人は珍しいから、特にアルジェは精霊だし、気をつけてあげなさい」と言われてからは、自重するように言ったら、ちょっとしょんぼりしていて。ヴィルト様が「僕たちだけの秘密だね」と言ったら「それも素敵ね!」と目を輝かせていた。


 妹のことで頭の痛い日々も多く、王太子殿下たちと遊んだ日々よりは無邪気ではいられなかった数年だったけど、一番、幸せな時期だった。



 ―――アルジェが、いきなり、姿を消すまでは。





ライル兄さんの話はまだ続きます。出来るだけ早く次話投稿したいと思いますが……頑張ります

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