9:決戦の時
約3万体ものモンスターによる大侵攻。そのニュースは瞬く間に街中に広がり、人々はたちまち大パニックとなった。
衛兵による誘導の下、多くの者たちが急いで避難を進めていくが、それを行うのは一般の民衆のみだ。
俺を含めた4000人以上の冒険者たちは、街壁の外でモンスターの群れを待ち構えていた。
そんな俺たちへとギルドの受付嬢が言い放つ。
「――冒険者の皆さま、領主様よりお言葉を賜りましたッ! “戦士たちよ、死力を尽くしてアーカムの街を防衛なさいッ! 参戦した者には無条件で50万、活躍した者には1000万ゴールドの賞与を与えましょうッ!”とのことです!」
『ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオ――――ッ!!!』
その言葉を聞いた瞬間、俺たちは興奮の叫びを張り上げた!
冒険者からしてみれば、これは名を上げるためのまたとないチャンスだ。特にアーカムは血気盛んな駆け出し冒険者の集まる街。ここで逃げ出すような賢い奴はいない。
ギラギラと瞳を輝かせる俺たちへと、受付嬢は言葉を続ける。
「この異変に気付くきっかけとなったのは、特殊モンスター『暴食屍人』の出現でした」
(ってえッ!? 俺!?)
ギョっとする俺を他所に、受付嬢は語りだした。
その最高にイケメンなグールさんを嬲り殺すべく、30名ほどの冒険者たちが≪ルルイエ洞窟≫を練り歩いていた時のことだ。突如としてダンジョン全体が振動し、壁や足元から目に見えるほど濃厚な魔素が噴出してきたらしい。
彼らは急いでダンジョンから脱出したが、困ったことに魔素までもが洞窟の外の森へと漏れ出してきたのだ。
「――高濃度の魔素が森に広がった影響で、多数の動物たちが瞬く間に魔物化を開始したそうです。ゆえに正直なところを申し上げますと……モンスター3万体というのは、ダンジョン付近の生体数からざっと予測しただけの、最低限の数字でして……」
尻すぼみになっていく受付嬢の声に、血気盛んだった冒険者たちの顔にも恐怖と不安が走り始めた。
だってこっちの戦力、衛兵部隊を含めても5000人もいないしな。ただでさえ絶望的だった戦力差がさらに開いたとなれば、ビビる奴も出てくるだろう。
「あっ、イタタタタ……あーなんかお腹が痛くなってきたな~……! これじゃあ戦うのはキツいかなー!」
「カァー! 昨日2時間しか寝てないから辛いわー! マジで2時間しか寝てないからなー! これちょっと戦うの無理だわ~!」
「本当は戦いたかったんだが、膝の古傷が開いてしまってな……」
勝ち目が皆無なことを悟るや、半数以上の冒険者たちが謎の状態異常を起こし始めやがった。うん……なんか戦う前から戦線が崩壊を開始したんだけど、これも魔物の仕業なのかな……?
(まぁ仕方ないか。特に駆け出しの冒険者たちなんて、まだまだ精神的に未熟だもんなぁ……)
そうしてアーカムが滅びそうになっていた時だ。『実は身体付きがとんでもないランキング』第一位を独占している馴染みの受付嬢が、顔を真っ赤にしながら頭を下げてきた。
ボインと胸を揺らしながら、涙ながらに彼女は叫ぶ。
「みなさまどうか戦ってくださいッ! 私もこの場に残りますからッ!」
『いいやお嬢さん、ここは俺たちに任せてくれッッッ!!!』
……美女に頼られるというシチュエーションに、一瞬にしてやる気を取り戻す冒険者たち。
アホだなぁと思いつつも、気付けば俺も固く拳を握り締めていた。
(よし……やってやるか!)
――どうやら屍人になったところで、男心というのは全く腐りはしないらしい。
絶望的な大決戦を前に、俺たちは熱く闘志を燃やしたのだった。
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