6:運命の出会い
転生モノなどを連載されている、「左ライト様」よりレビューをいただきました!
お互いに気分も落ち着いたところで、店主の親父が俺に語りかけてくる。
「魔力の使い方は主に二つだ。まず一つ目は、『魔術』を使うためのエネルギーとして消費することだな。術式っていうのを頭の中に思い描くことで、炎や水に変換して身体の外に出す技術のことらしい」
ピンと指を立て、まるで教師のように説明してくるスキンヘッド店主。武器屋としてたくさんの冒険者たちと付き合ってきただけあり、これで結構物知りらしい。
「うーん……でもスキンヘッドセンセー、魔術についての授業料ってドチャクソ高いって聞きますよ? 女の子に転生してお金持ちのおじ様とデートにでも行かない限り、ちょっと教われそうにないんですけど……?」
「なぁに、お前さんだったら女装すればイケるだろ! ……って冗談だよ!? ちょっと距離を開けるなよッ!
……お前さんに勧めたいのは、ずばり二つ目の使い方だ。それは、『魔剣』に吸わせるための燃料として使うことだな」
ほほう、魔剣と来たか。
魔剣というのは確か、ダンジョン内から自然発生する『意思を持つ剣』のことだ。口もないのに鳴き声をあげたり、中には勝手に動くようなタイプのものもあるらしい。
その特性から“剣の姿をしたモンスターではないか?”と議論されてるらしいが、詳しいところはわかっていない。
店主は話を続ける。
「魔剣ってのは不思議な武器だ。ただでさえ強靭な刀身を持っている上、魔力を吸わせることで一時期的に切れ味が上がったり、風や雷を巻き起こしたりと魔術のような現象を起こすモノもある。そういうのってロマンだよなぁ~」
「確かになぁ。飛ぶ斬撃とかやってみたいぜ……! でも親父、魔剣なんて早々見つかるものじゃないだろ? 王都の武器屋だったら取り扱ってるかもしれないけどさ……」
所詮、≪アーカム≫の街は地方都市だ。そういった希少な武器は大商人や上級冒険たちが速攻で手に入れてしまうため、低級冒険者が集まるような辺境の地まで流れてくることは滅多にない。これが田舎の辛さってやつか……!
思わぬところで味わうことになった地域格差にハンカチを噛みそうになっていた時だ。店主は何故かドヤ顔をすると、俺にウィンクを飛ばしてきた。
え、なに、キモいんだけど……ってもしかしてアンタ!?
「ちょっ、まさか……!?」
「ぐははははははははは! そのまさかだぜぇ! 見るがいいクロウ、これこそが東洋の商人から仕入れた自慢の一品、≪魔剣・ムラマサ≫だッ!」
「うおおおおおおおおおおッ!?」
そうして店主はカウンター台の奥に手を突っ込むと――そこから、錆だらけのボロ刀を雑に取り出したのだった。
って……えっ?
「あの、なにこれ?」
「何ってクロウ、お前の欲しがってた魔剣だよ。どうだ嬉しいだろう? ……ってちょっと待て、さっそく手に取ってオレに突き刺そうとしてくるなッ!? 素人童貞のまま死にたくねぇ!」
「アンタの下半身事情なんて知らねえよッ! どう見てもコレ、ただの使えなくなった東洋の剣じゃねぇかよ! こんなもんアンタいくらで仕入れたッ!?」
「タダで貰ったッ!」
「ふざけんなボケッ!」
魔剣っていうのは、それこそ数千万ゴールドはする代物だ。そんなものをタダでくれるような商人がいるか。
店主のことをジト目で睨むと、彼は申し訳なさそうな笑みを浮かべた。
「いやぁ、わりぃわりぃ。ちょっと冗談が過ぎたみたいだわ。ただ東洋の商人から仕入れたってのは嘘じゃないぜ? 露店巡りをしてたらボインボインな色黒の姉ちゃんがいてよ、『これムラマサっていう東洋の魔剣ヨー。なんか買ってくれたらオマケで付けるヨー』って面白れぇ宣伝をしててさ~」
「それで、ネタだとわかってて貰うことにしたのかよ……。ったく、人が悪いぜ親父。俺の純情を弄びやがって」
「がははっ、悪かったって! 詫びと言っちゃぁなんだが、コイツはお前さんにくれてやるよ! 錆びて使い物にはならないだろうが、一応東洋の『カタナ』ってヤツだぜ? 観賞用くらいにはなるだろ」
あといつまでも置いてても邪魔だしと、店主は小さな声で付け加えた。
って何が詫びだ、完全に厄介晴らいじゃないかよっ!
(確かに刀っていうのは希少だが、こんなものを貰ってもなぁ……)
仕方がない、帰りにゴミ置き場にでも捨ててきてやるか――と思ったが、いざ手にしてみると、それもなんだか可哀想に思えてきた。
このボロ刀も最初はそれなりの切れ味を持っていたのだろう。だが時を重ねるごとに朽ち果て、よくわからん女商人の手に渡り、最終的には素人童貞スキンヘッド親父のところに転がり込むなんてな。
(剣の切れ味も人の情熱も、いつかは必ず無くなるものだからな。お前も時代の敗北者ってやつか……)
10年という時の中で、俺も“最強の剣士”になるっていう夢を諦めかけていたからな。そう考えると他人事の気がしない。
ああ、お前の気持ちは本当によくわかるさ。こんなところで朽ち果てる前に、もっともっともっともっと――
『溺れるくらいに、血が吸いたかったよなぁ?』
不意にそんなことを思ってしまった瞬間――≪魔剣・ムラマサ≫から眩い光が溢れ出した!
「なっ――!?」
「ぬああああああっ!? おまっ、何したんだよクロウ!?」
あわあわと騒ぎ出す店主だったが、彼のことを気にする余裕などなかった。
(ああ、感じる……!)
眼を焼くほどの極光の中で、俺は不思議な感覚を体験していた。
手にした刀から無数の見えない触手が伸び、徐々に俺の神経と絡み付いていくのだ。ムラマサが感じる空気の味が、俺の舌へと伝わってくる。ムラマサが今まで斬り殺してきた数万体の魔物たちの血と肉の味が、脳に直接刻まれていくッ!
この瞬間、俺は魂で理解した。
(≪魔剣・ムラマサ≫、その能力は『暴食吸収』。斬った相手の血肉を喰らい、自らの切れ味と使い手自身を活性化させる特性を持っている……!)
字面にすればシンプルかつとても強力なものだろう。だがしかし、ムラマサと繋がっていく中で俺は視た。
この刀による活力供給に耐え切れず、全身の筋肉が山のように肥大化し、最終的には正気を失っていく歴代の使い手たちの末路を。
――そうしてこの刀は、『鬼』を生み出す妖刀として歴史の闇に葬られることになったのだ。
(……だが、バケモノの身体を持つ俺ならばどうだ? 数百体の魔物の血肉を、余すことなく活力に換えられる俺ならば……ッ!)
もしかしたらこれは、運命の出会いだったのかもしれない。
人間には耐えられない異能を持つこの刀も、俺ならば存分に使いこなすことが出来るだろう。
逆に俺は、コイツを通して魔物の血肉を摂取していくことで、周囲に怪しまれることなく人外の食欲を満たすことが可能となる。まさに相性は最高だ。
「気に入ったぜ、≪魔剣・ムラマサ≫。今日からお前は俺のモノだ!」
天高らかに掲げた瞬間、溢れ出していた光が弾け飛び、この妖刀の真なる姿が露わになった。
それを見た瞬間、店主がゴクリと生唾を飲んだ。
「お、おいクロウ……それは、一体……!」
言葉に詰まるのも無理はない。錆びきっていたはずの廃刀が、色気立つほどに美しい銀色の刀へと変貌を遂げたのだから。
ああ、なんて素晴らしい刀なんだろうか! たとえ1億ゴールド分の金貨を目の前に積み立てられても、この刀が放つ美しさの前には敵わないだろう!
俺はくるりと踵を返すと、しゅたっと手を挙げて店主に笑いかけた。
「――じゃあな、親父ッ! こいつはありがたく貰っていくぜ!!!」
「って待てやゴラァァァアアアアッ!? ねぇクロウくんやっぱりそれ返してえええええええええええええ!」
後ろから涙交じりの怒声が飛んできたが、まぁきっと気のせいだろう!
俺は最高に晴れやかな気分で、親切な武器屋さんから飛び出していったのだった。
ありがとう、素人童貞おじさん!!!
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