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5:九頭竜の加護



 ――俺が拠点としている街≪アーカム≫の歴史はかなり浅い。

 元々はただの寒村だったのだが、20年ほど前、近隣の巨大洞窟から魔素が噴出したことで運命は激変する。

 魔素の影響で小動物などが魔物化し、アーカムの村はたちまち大混乱。それを知った冒険者ギルド本部はすぐさまその洞窟のことを『魔素汚染地帯ダンジョン』と指定し、アーカムの村にギルド支部の設立を決定したのだった。

 こうして広く発布されることになった新ダンジョン≪ルルイエ洞窟≫は出てくる魔物が比較的弱いということがあり、駆け出しの冒険者たちや商機に目ざとい商人たちが大量に入植してきたことで、村はそれなりの大都市へと変貌を遂げることになるのだった。


 そんな経緯で生まれた街を散策しながら、俺はこれからのことについて考えていた。


(よし、ひとまずは『九頭竜クトゥルー』の探索だな。放っておいたら街が危険だし、何よりも殺されっぱなしじゃ気が済まない)


 真新しい石畳を踏みしめながら、血色の抜けた手をジッと見る。

 ……アンデッドの身体にしてくれたことについては、正直言って感謝しているところもある。温度や痛みに鈍感な上、肉を喰えば傷もすぐに治るという特性を持っているようで、冒険者としてこれほど便利な身体はない。どんな悪環境でも活躍出来そうだ。

 だが、それでも『九頭竜クトゥルー』の野郎が俺を殺してくれたことには変わりない。“最強の剣士になる”という夢がある以上、敗北したままで終わって堪るか。次に会ったら『喰い殺してやる』。


 ――となれば、やはり新しい武器が必要だな。


「ボロボロになった安物の剣じゃ、化物退治なんて出来そうにないからなぁ……」


 高級料理店で食べまくりっていうのもロマンがあったのだが、ここはひとまず我慢しておこう。

 懐に入った大量の金貨を鳴らしながら、俺は武器屋に向かうことにしたのだった。



 ◆ ◇ ◆



「親父ー、店は開いてるかー?」


「おうらっしゃーい! ……ってなんだよ、クロウの坊主じゃねぇかよ~」


「なんだよってなんだよ」


 武器屋に入って開口一番、聞こえてきたのは馴染みの店主のわざとらしい溜め息だった。

 駆け出しの頃からこの店にはお世話になっており、もはや店主の悪態っぷりには慣れたものだし、ついでに彼のスキンヘッド頭も見慣れたものだった。今日も一段と輝いてるぜ、親父。


「冗談だよ冗談! つーかクロウよ、お前その頭はどうしたんだよ? 真っ白じゃねぇか」


「ああ、スライムの酸で脱色したんだよ。オシャレだろ?」


「えっ、何そのロックすぎるカラーリング方法……。ってまぁいいや。それで、今日は何を買いに来たんでい? また安物の剣かぁ……?」


 こちらの懐事情をよーく知ってるようで、半ば哀れみの籠った目で俺のことを見てくる店主。

 ふふふ……確かにこれまでの俺は貧乏だったさ。雑草のサラダに野良猫のステーキという素敵な晩餐を楽しんだことがあるのは、この街でもたぶん俺くらいだろう。

 だがしかし、今日の俺は一味違うぜッ!


「喜べ店主ッ! ちょっとした大金が手に入ったから、今日は高い剣を買わせてもらうぜ!」


「おおおおおおおっ! マジかよクロウッ!? どこで盗んできたんだよーーー!?」


「ははははははっ! ブン殴るぞ」


 相変わらず口の悪い店主と冗談を交わしつつ、さっそく店の中を物色させてもらった。

 普段は隅っこのほうに陳列された3万ゴールド程度の剣ばかり買ってきたが、今日の俺は30万ゴールド近くの金を持ってるからな。色々な商品を見させてもらおうじゃないか。


「ふむふむ……やっぱり20万以上する剣はモノが違うなぁ。お、こっちの剣もよさそうだ」


 あれこれ手に取って、実際に軽く振らせてもらったりしてみる。

 うんうん、やっぱり剣っていうのは良いよなぁ。まさに男のロマンだ! そこらへんの情熱は、どうやら屍人になっても変わらないらしい。


 そうしてかれこれ数十分。目をキラキラとさせながら数々の品を見ていると、何やら店主がニヤつきながら近寄ってきた。


「よぉクロウ、今日は本当にどうしちまったんだよ? ここ数年のお前といえば、いっつも暗くてジメジメしてて、オレの軽口にも全然取り合ってくれなかったのによぉ。

 それが今日のお前ときたら、まるで駆け出しの頃のガキの時みてぇじゃないかよ」


「ははっ、そう見えるか? ……まぁ色々あって生まれ変わったんだよ。心配かけて悪かったな」


「ばっ、バーロー! 心配なんてしてねぇやい!」


 そう言うと店主は、鼻をクシュクシュと擦りながら店の奥へと引っ込んでいってしまった。もしかして照れているのだろうか?


(……ギルドの受付嬢にも言われちまったなぁ。最近の俺は暗かったって)


 屍人バレしないものかビクビクしながら街に戻ってきたら、むしろ今のほうが生き生きとしていると言われる始末だ。かつての俺は、精神的に本当に限界だったのだろう。


「うーん、『九頭竜クトゥルー』にはやっぱり感謝だな。恨みはあるが、それでもアイツのおかげで体も心も一皮むけたわけだし」


 確かどっかの辺境地には、『九頭竜クトゥルー』のことを神龍として崇めている宗教団体があるらしい。

 俺もほんのちょこーっとくらい、あのキモキモドラゴンのことを信仰・・してやってもいいかなーと、そんなアホなことを考えた――その時だった、


「んっ……んん!?」


 突如として、身体の奥底から不思議な熱が込み上げてきたのだ。それは血管を伝うようにして全身へと巡っていき、ついには皮膚の表面から闇色の光となって零れ出してきたのだった……!

 こ、これってもしかして、『魔力』ってヤツじゃないか!?

 

「ふぅ……悪いなぁクロウ。ちょっとトイレに行ってたぜー……って、なんでお前光ってるんだよォォオオ!? それ、魔力の光じゃねぇか! お前魔術師の才能に目覚めたのか!?」


「しっ、知らないって! なんかいきなり湧き出してきたんだよ! なぁ親父、これどうやって身体の中に収めるんだ!? いつも頭ピカピカしてんだから何か知ってんだろ!?」


「おっ、オレが知るわけねーだろッ!? 魔力持ちなんて滅多にいない存在なんだからよぉ!」


 それからは二人で大騒ぎだった。大の大人が狭い店の中で叫びまくり、魔力の光が消えるまで大混乱。そして消えたら消えたで、新たなる才能に目覚めたことに二人して泣きながら喜びあったのだった。


「よかったなぁクロウ! お前さん、これまで必死で修業してきたもんなぁ! その力は絶対に、お前さんの夢を叶えるための力になるはずだッ!」


「ありがとう、親父! 本当に……本当にありがとう……!」


 冒険者として、挫けることは何度もあった。傷付くこともあった。笑われることもあった。

 それでも今日という日まで、諦めることなく必死で生き抜いてきてよかったと――俺は死んでから思うのだった。



 


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