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4:再起の誓い



 ――うーん、報告できないものは仕方がない。明確な証拠が掴めるまで、『九頭竜クトゥルー』については個人的に調べていくことにしよう。

 というわけで、ひとまず俺は魔石の換金を行うことにした。


「忙しいところすまない。これを全部引き取ってもらいたいんだが」


「あ、魔石の換金ですねー……ってええええ!? なんですかこの量は!?」


 パンッパンに膨らみきったズタ袋を机の上に乗せると、受付嬢が驚いた声を張り上げた。

 雑魚ばかりとはいえ数百匹以上の魔物から採取してきたからなぁ。おかげで袋の口が閉まらず、魔石の山が外に露出しているほどだ。


「えっ、ええと……この量になると、鑑定に時間がですね……」


「ああ、全部一括価格で構わないぞ。どうせゴブリンやスライムとかの魔石ばっかだからな」


「あ、そうですか? ……どちらにせよ、総数を数えるのに時間がかかりそうですけどね……」


 困り果てた受付嬢は他のギルド職員を呼び止めると、二人がかりで急いで魔石の数を数え始めた。

 うーん、まさかこんな形でギルドに迷惑をかけることになるなんて思いもしなかったな。これまでは、魔物なんて一日で10匹狩るのが限界だったからなあ。てか一晩ぶっ続けでの狩りなんて、上級冒険者でも体力的にキツイだろう。


(それもこれも、アンデッドの身体になったおかげだな……)


 何というか、今の俺は脳みそではなく『魂』で身体を動かしているって感じだ。あれこれ考えていた頃よりも素早く身体が反応し、理想のままに手足が動いてくれる。

 “こんな剣技を使ってみたい”と必死で修業し続け、それでも結局出来なかった動きが、今なら可能になっているのだ。こんなに嬉しいことがあるだろうか。


(東洋の剣士が言ってたな、“ブシドーとは死ぬことと見つけたり”って。初めて聞いた時は意味が分からなかったが、まさか本当に死ねば強くなるなんて思いもしなかったぜ!)


 ということは、東洋には俺みたいなアンデッド剣士がたくさんいるんだろうか? やべぇな東洋、ゾンビランドじゃねぇかこえーよ……!


 そんなことを考えながら戦々恐々としていると、受付嬢が声をかけてきた。


「ふぅ、お待たせしましたクロウさん! 500ゴールド程度の魔石が全部で596個ありましたため、298000ゴールドで取引させていただきます!」


 おおっ、俺の一か月の稼ぎ以上の額じゃないか! それだけあれば色々と新調できるなぁ!

 酷使しすぎたせいで剣なんてもう完全に刃が潰れているし、これを機に少し良い品を買いたいものだ。

 いや、まずはその前に高級料理でも食べに行くか? 先月なんて貧乏過ぎて、野良猫を食べてしのいだくらいだからなぁ……。あれはもう嫌だ。


 さてどうしたものかと、突然手にした大金をどう使おうか考えていた時だった。不意に受付嬢がいぶかしげな表情を作ると、小さな声で訊ねてきた。


「あの……ところでクロウさん? こう言うのは何ですが、その……クロウさんってそんなにお強い人だったかなーって……! ああいや、別に馬鹿にしていたわけじゃないですよ!? でもその、いきなりこんな量の魔石を持ってくるなんて……」


「えっ、あー……」


 ああ、確かにこれは怪しまれても仕方ないよなぁ……。

 しまった、こんなことなら別の受付に行ったほうがよかったかな。この受付嬢とは10年来の付き合いになるので、ついつい声をかけてしまった。


(うーん……!)


 それから約5秒。俺は必死で考え続け、そしてついに馴染みの受付嬢を納得させる答えを見つけたのだった。


「――第三次成長期が来たんだよ。というわけでじゃあな!!!」


「ってちょっとぉ!? クロウさーーーーーん!?」


 俺が見つけた最良の答え。それは金を受け取ると、速攻でトンズラをかますことだった!

 さらばだ受付嬢ッ! 今度なにか奢ってやるからなーッ!


 そうしてギルドを飛び出していった――その時、



「もう、クロウさんってばっ! ……でも本当によかったです。最初の頃の、真っ直ぐに夢を追いかけていた時の貴方に戻ってくれて……」



 ……どうやら人外になったことで、聴力まで敏感になってしまったらしい。

 いつも元気な受付嬢。そんな彼女の涙ぐんだ声が、俺の耳朶を震わせた。


(――いつか絶対に、“最強の剣士”になってみせよう)


 ギルドの誰もが俺にあざけりの目を向けていく中、唯一変わらない態度で接し続けてくれた彼女のためにも。

 冷たくなってしまった胸に、俺は熱く誓うのだった。




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