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3:クロウ・タイタスの帰還




『ギッ、ギギィイッ!? オマエ、ナニッ、』


「黙って死ね」


 轟速の剣撃が炸裂し、一瞬にしてゴブリンの首をね落とした。

 ――あれから俺はひたすらに、魔物たちを斬って殺して喰い続けていた。


 数十匹のゴブリン共を手にした棍棒ごと寸断し、斬撃の効きづらいスライム共を再生すらも追い付かない速さで細切れにし、お仲間であるスケルトン共を関節の節目からバラバラに裂いていった。

 ああ、この肉体は素晴らしい。喰えば喰うほど徐々に力を増していき、イメージ通りによく動いてくれる。人間だった頃の鈍間のろまさが嘘みたいだ。


(屍人になってからよくわかった。かつての俺が、剣士としてどれだけ未熟だったか)


 筋力が足りなかった。技術が足りなかった。信念が足りなかった。そして何よりも、生きていた頃の俺の剣には、どうしようもない迷いと雑念が混じっていた。

 “俺は本当に強くなっているのか”、“どうして後輩のほうが早く出世していくんだ”、“もっと才能があったなら……”などなど、そんな下らないことを考えていたから俺は強くなれなかったのだ。


 ――ただ、喰い殺すためにぶった斬る。刃に乗せる想いなんて、それだけで十分だろうが。


 ゴブリンの内臓は歯ごたえが良くて美味しい。スライムの食感もゼリーみたいで心地いい。スケルトンの骨をボリボリと齧るのも、これでなかなかクセになる

 さぁ、次だ次だ次だ次だ次だ。どうか俺に斬らせてくれ、食べさせてくれ。そして俺のことを強くしてくれッ!


 お前たちを喰い滅ぼしたその果てに――



「最強の剣士に、俺はなる」



 微笑と共にそう呟いて、俺は数百匹目の魔物に向かって飛び掛かって行ったのだった。

 


 ◆ ◇ ◆





 ――それから数時間後。俺は少しだけ緊張しながら、拠点としている≪アーカム≫の街を歩いていた。

 そう、俺は無事に人間に戻ることに成功したのだ! ……いや、正確に言えば見た目だけなんだけどな。

 街を横切る川の水面に顔を覗かせてみると、そこには白い肌をさらに白くした俺の姿が写り込んでいた。


(うーん、怪しくはない……よなぁ。ちょっと体調が悪そうな人みたいな?)


 実際は体調が悪いどころか死んでいるんだが、まぁこれくらいなら大丈夫だろう。心配していた食人衝動のほうも、魔物を山ほど喰ったおかげで今のところは鳴りを潜めているしな。人間食っちゃ駄目、よしオッケー!


 ……ただ一つ問題があるとすれば、肌だけじゃなくて髪の毛まで白くなっちまってることなんだよなぁ。

 スライムの酸を頭から被って脱色ブリーチしましたって言えばイケるか? うん、イケるな! オシャレ路線で突っ走れッ!

 

「よし、問題ないな。……いくか」


 いざとなったら別の街に逃げ込めば大丈夫だろう。たぶん。

 鳴らなくなった心臓を少しだけドキドキとさせながら、俺は冒険者ギルドの建物へと足を進めていったのだった。



 ◆ ◇ ◆




 ――冒険者ギルド。それは国中の都市に根を下ろす一大組織だ。

 ダンジョン探索希望者の雇用登録、各種組織や個人からの依頼募集、さらには魔物の素材や魔石の換金までも行ってくれる便利屋さんとして世界中にその名をとどろかせている。

 まぁ冒険者が傷付いたり死んだりしても手当なんて出してくれないし、依頼の成功金から仲介料をかなり多めに引いていくようなブラックなところもあるのだが、それでも一から身を立てるならここに所属するのが一番だ。Aランク級冒険者にでもなれば、大商人や貴族様から専属雇用のお話が来るしな。


 そんな組織で10年間も下っ端をやってきた俺は、死んだのに帰還するという大偉業を成し遂げたのだった。誰か褒めて。


 そのようなことを思いながら、俺は『九頭竜クトゥルー』が出たことを報告するべくギルドの職員に声をかけた。


「すまない、ダンジョン内で起きた異変について話をしたいんだが……」


「あら……貴方は、クロウさんですか? 二日ほどお見掛けしませんでしたが、ずいぶんとイメージチェンジされましたね?」


 白くなった俺の髪を見ながら、少し驚いた顔をする馴染みのギルド受付嬢。

 おおう、さっそく突っ込まれたか……!


「ああうん、ちょっとスライムの酸で脱色してきてな。オシャレだろう?」


「えっ、何そのロックすぎるカラーリング方法……! というかクロウさんって、そんな冗談なんて言う人でしたっけ? もっとこう、陰鬱な雰囲気だったというか……」


 って誰が陰キャラじゃい!


 ……でもまぁ、ここ数年はそう思われても仕方なかったかなぁ。どれだけ修行を積んでも実力が伸びず、焦りと嫉妬に満ち溢れてたしな。思い返せば恥ずかしい限りだ。


「はははっ、アレだよ。一回死んで……じゃなくて、死んだ気になって生き直すことにしたんだよ。というわけで、新生クロウ・タイタスさんの英雄譚サガに期待しててくれ」


「ふふっ、わかりました。良い変化だと思いますよ。……それでクロウさん、ダンジョンで起きた異変というのは?」


「ああ、実は≪ルルイエ洞窟≫でだな……」


 ――と、ここで俺は気づいてしまった。

 俺のようなDランク冒険者が、何の証拠も付き人もなしに『伝説の魔物が出たぞーッ!』と言ったところで、ギルドは動いてくれるだろうか? ……答えは否だ。

 というか俺が目覚めた時には『九頭竜クトゥルー』は影も形もなかったし、ダンジョン内で食べ放題ツアーをやらかしていた時にもまったく出会いはしなかった。いや、出会っても困るんだがな。アイツデカかったしキモかったしちょっと臭かったから。


(あー……これじゃあ報告しても無駄だなぁ。せめて鱗の一枚でも取れてたら証拠になったんだが)


 うーん、証拠になるかはわからないが、アイツに殺された影響で俺がアンデッドになったことを明かすか? ……いや、それは流石にリスクが高すぎるな。よくて実験動物、最悪その場で殺されるかもしれない。


 どうしたものかと俺が言葉に窮していると、受付嬢がポンと手を叩いて納得のいったような顔をした。


「ああ! もしかして、≪ルルイエ洞窟≫に現れた特殊モンスター『暴食屍人(グール)』のことについて報告しに来てくださったんですか?

 それならば大丈夫です! つい先ほど何人かの冒険者様たちが震えながら報告しに来たため、ちょうどさっき大討伐部隊が送られていったところですから!」


「えっ」


 それもしかして、俺のことじゃねぇか!? ってえええええ!? 俺、見られてた上に危うく討伐されそうになってたのかよ! あっぶね!


「屍人とは思えない異常な強さと、全身を血で染め上げていた狂気的な姿から、相当強力な魔物だと推測されていますよ……! クロウさんも討伐部隊に加わりますか?」


「……いえ、結構です」


 ……目撃者たちが報告に走ってる間に、人間の姿を取り戻すことが出来て本当によかった。街に戻る前に、ダンジョン内にある泉で血を落としておいてマジでよかったッ!

 ひとまずは身バレしてなさそうなことに安堵しつつ、討伐に向かった人たちに対して「お騒がせしてごめんなさい」と心の中で陳謝するのだった。





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