13:幼き姫君の誘惑
「アシュラン」様と、異世界転生モノを書かれている「暮伊豆」様にレビューをいただきました!
「クラリス様」
「クラリスです」
「……クラリスさん」
「クラリスです」
あ、はい……謹んで呼び捨てにさせていただきます……。
――出会って早々、逆パワハラを仕掛けてきた少女・“クラリス・トゥルーデ”。彼女は有名な人物だった。
元々彼女は生粋の貴族ではなく、10年ほど前に前領主がスラムで拾ってきた孤児なのだそうだ。
最初はメイドとして育てられるはずだったらしいが、しかし、幼少期から類いまれな知性と品格を見せ、わずか9歳の時には前領主の秘書官に就任。ここでもクラリスはその知能の高さをいかんなく発揮し、前領主は彼女のことを正式に養子として向かい入れることにしたらしい。
そうしてクラリスが12歳の時、前領主やその実子たちが揃って魔物に襲われて死亡したことで、彼女はスラムの出身でありながら領主の立場に成り上がることになったのだった。
(まさに大天才って感じだよなぁ。実際、この子が領主になってから半年くらい経つが、街の景気はどんどんよくなってるし)
超有能な美少女領主ということで、民衆のほとんどがクラリスのことを慕っている。特にスラムの者たちからは女神様みたいな扱いで、彼女に憧れて努力を重ね、貧民層からの脱出を成功させた者も多いという。
――しかしその反面、血統を重んじる貴族社会からはかなり嫌われているとのことだ。
“クラリスは人間の皮を被ったモンスターだ”、“あの女は疫病神だ。前領主が魔物に襲われたのも、あの女のせいなんだ”――などと、パーティーのたびに馬鹿げた噂を立てているんだとか。
(出身を同じくする貧民層からは信仰されて、貴族たちからは侮蔑される立場……か)
そう考えると、彼女に対して対等に向き合ってくれる存在はほとんどいないのかもしれないなぁ。俺に対して気安くするよう言ってきたのも頷ける。
……よし。ここはご期待通り、仕事相手じゃなくて友達として接してやるか!
同情交じりにそんなことを思っていると、彼女は可愛らしい笑みを浮かべて俺に言ってきた。
「どうか私のことは気安く、“クリちゃん”とでも呼んでください!」
「気安すぎるわ」
……絶妙にアウトなことを言い始めるロリ領主様。どうやら高い知能とは裏腹に、性格のほうはかなり天然が入っているらしかった。
◆ ◇ ◆
「――それで、専属冒険者としての話なんだが……」
「はい」
メイドさんが持ってきてくれた紅茶を一服したところで、俺は早速仕事の話を切り出した。
専属冒険者となれば、与えられる仕事は相手に依存することになる。薬師に雇われれば霊草を摘みまくることになるだろうし、行商人や貴族に雇われれば護衛任務が主となるだろう。
……金さえもらえればなんでもいい奴らはそれで満足かもしれないが、俺の場合は少し困る。
「クラリス……実は俺は、“最強の剣士”を目指してるんだよ。その称号を得るためには、剣技を極め、多くの魔物を討ち倒し、たくさんの人に認められなければいけない。
だからボディガードとして俺のことを望んでるなら、悪いが専属冒険者の話を受けることは出来ないんだ……」
世の冒険者が今の言葉を聞いたら卒倒するかもしれない。
多くの者にとっては、貴族様の専属冒険者になることこそが人生の目標だ。歴史書に載るような英雄を本気で目指している馬鹿なんて、ほんの一握りくらいだろう。
だが俺は、その一握りの馬鹿だった。
10年間もひたすら夢を追い続け、屍人の身体になってでも剣を振るい続けた生粋の馬鹿だ。
馬鹿は死んでも治らないというのは、どうやら本当のことだったらしい。
(さぁ、正直に言っちまったぞ……)
もしかしたら傷付けてしまったかもしれない。その場合、俺は間違いなくクラリスの信奉者たちから袋叩きにされることだろう。
そんな未来にビクビクと怯えつつ、彼女の反応を待っていると……、
「ああ――クロウ様、やはりアナタは私が見込んだ通りのお人だったようです! 夢の邪魔なんていたしませんっ! むしろ私、アナタのことを応援しています!」
ってええっ!? 落ち込むどころかなんでご機嫌になってんだよ!? しかも応援されちゃったし!
普通の貴族様だったら、貧乏過ぎて野良猫を主食にしてきたような野郎に生意気なことを言われたら、即処刑にしているところなんだが……!
困惑する俺に、クラリスは(年齢の割にかなりボリュームのある)胸をポヨンと叩いて言う。
「どうかご安心ください。専属冒険者になっていただくと言っても、基本的にはクロウ様のご自由にされて結構ですから。あっ、これからはアナタの生活費は私が出してあげますね! お望みならば、何でも取り揃えてあげますから!」
「って、ええええ……!?」
都合がよすぎて逆に怖いわっ! 一体俺に、何をさせる気なんだよ……?
ますます困惑を深くする俺に、彼女は可愛らしい笑顔で告げる。
「ふふふ……クロウ様。アナタにはただ……魔物たちの“肉”を、大量に取ってきて欲しいだけなのです……!」
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