12:栄光の女神
第1話の中盤に、クロウが最強の剣士を目指す理由を少しだけ追記いたしました。
今後作中で改めて話す予定です(1月10日)
「――俺たちのっ、勝利だァァァァアアアアアアアアアアア!!!」
『ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ――――!!!』
突如として勃発した、モンスター3万体との絶望的な戦い。
その戦争に勝利したのは、俺たち冒険者側だった!
「勝った勝った勝った勝ったァァアア! アビャァアアアアアアアア!!!」
「おえええええええっ!? チクショウッ、チクショウ! なんでオレ、魔物の肉なんて食ってたんだよォ!? あぁ、『旧神教』においてそれは、罰せられる……禁忌で…………アヘッ! まぁいいかぁ!!! だって美味いんだからなぁああああ!!!」
「ふへへっ、魔物肉、うまっ、うまっ!!!」
共に戦った4000人の冒険者たちだが、誰も彼もが傷だらけだった。
手足が取れそうになっている者はもちろん、内臓が零れ出している者までいる。だがそんな傷を負っているにもかかわらず、全員元気に笑いながら魔物の肉をガツガツと食べていた!
はははっ! まさに勝利の味を堪能してるって感じだな! 良い光景だ!
(ああ、俺たちは勝てたんだ! 歴史書に載るほどの偉業を成し遂げたんだッ!)
大地を埋め尽くした魔物共の死体の山を見ながら思う。
数万体もの魔物との全面戦争なんて、果たして今まであっただろうか。突如ダンジョンから爆発的に魔素が湧き出したという異変一つだけを切り抜いても、今回の事態は世界から注目を浴びることになるだろう。
俺たちは、その戦いに完全勝利した。さらに俺は、その中でも最も目覚ましい活躍を果たすことが出来たのだ。こんなに誇らしいことはない!
(それもこれも九頭竜様のおかげだなぁ…………ってちょっと待て!?)
なんで俺、自分をぶっ殺してくれた野郎に『様』付けなんてしてるんだ!? たしかに感謝はしているが、いつかはやり返してやる予定の相手だ。敬称を付けるなんておかしいだろうが!
戦場の狂気に当てられちまったのか? しっかりしろ、俺っ!
(……でも、今日のところはまぁいいか)
アイツが屍人の身体を与えてくれたことで、アーカムの街とたくさんの命を守ることが出来たんだ。今日くらいは信仰してやるのも悪くない。
そうして俺は、笑顔で食事を堪能している仲間たちの輪に加わっていったのだった。
◆ ◇ ◆
――その翌日。
「ご案内いたします、クロウ・タイタス様」
「あ、ああ……」
俺は一人、アーカムを治める領主の邸宅へと呼ばれていた。
美貌のメイドに連れられながら、大理石の床を歩いていく。
(覚悟はしてたけど、緊張するなあ…)
安宿にまで俺のことを迎えに来たメイドさんはこう言った。“我が主様が、アナタのことを専属冒険者として雇いたいと申しております”――と。
モンスターが蔓延るこのご時世、貴族や大商人が欲しがるのは、綺麗なだけの宝石よりも強い力を持つ人間だ。
ゆえに、目覚ましい活躍を遂げた者がこうして権力者に拾われるというのは珍しい話ではなかった。
(よーし落ち着け! 胸の鼓動を鎮めて……って元々止まってたわ)
心臓が動いてないことを思い出したら、なんだか気分も落ち着いてきた。うんうん、やっぱりこの身体は便利だ。九頭竜様に感謝だな。……って『様』付け禁止! あんな奴は呼び捨てで十分だ!
そうして、滅茶苦茶豪華な邸宅内を歩かされること数分。こんなに広い家だと掃除するのが大変だろうな~と呆れてきたところで、ようやくメイドさんは足を止めたのだった。
派手な装飾の扉をトントンと叩き、彼女は恭しく告げる。
「主様、クロウ様をお連れしました」
『ええ、どうぞ』
凛とした声が返ってくるや、メイドさんは静かに扉な開け放った。
陽光の照らす豪華な一室。そこで俺を待っていたのは――ゴシックドレスを身に纏った、美しい銀髪の少女だった。
青い瞳を輝かせながら、彼女はにこりと微笑んで言う。
「ああ、街を救ってくださった英雄様。ようこそおいでくださいました。
私こそがこのアーカムの領主……クラリス・トゥルーデでございます」
どうか『様』付けなどせずに、呼び捨てで呼んでくださいね――と、幼き領主は親しげな口調で告げるのだった。
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