11:狂気の伝染
「いくぞォオオオオオオオオ!!!」
『オォォォオオオオオオオオ!!!』
一気呵成とはまさにこのことだった。一斉に突撃を果たした冒険者たちにより、魔物の軍勢が徐々に押されていく。雄叫びが上がるたびに鮮血が舞い、アーカムの地に肉を断つ音が鳴り響いた。
(そうだ、止まるな。殺し続けろ)
同じく刃を振るいながら、狂ったように暴れ回る冒険者たちを見る。
今こちら側が優勢なのは、ずばり士気の高さによるものだ。
俺の奥義よって多数の手勢を失った魔物たちと、片や欲望を刺激された冒険者たち。その差はまさに雲泥の差だった。
『ギッ、ギギャァアアアアア! コロスッ、ブッコロスッ!』
だが魔物たちもただでは終わらない。元々、数の差だけでいえば30000と4000だ。士気一つだけで簡単にひっくり返るような数字ではない。
魔物たちが勢いを取り戻せば、冒険者側が全滅させられるのは自明の理だった。
――だがしかし、今この場には俺がいる。“最強の剣士”を目指す以上、味方した軍勢をみすみす滅ぼされて堪るか。
俺は縦横無尽に戦場を駆けると、劣勢になっている冒険者たちを援護し続けた。血潮に染まった妖刀を振るい、今にも若手の冒険者を殺さんとしていた魔物を斬り伏せる。間一髪のところだったが、どうやら怪我はないようだ。
「あっ、ありがとう、助かったぜッ! ……駆け出し冒険者の街と聞いてアーカムに来たんだが、まさかアンタみたいな人がいるなんてな……!」
「礼は良いさ。それよりも魔物どもはまだまだ来るぞ。戦えるか?」
「あっ、ああ! 任せてくれッ!」
恐怖に染まりかけていた瞳に再び熱を取り戻すと、若手の冒険者は魔物の群れに立ち向かっていった。
そうだ、戦え。暴れ続けろ。恐れることは何もない。今この場には俺がいるのだから――!
「冒険者たちよ! 殺せッ、奪えッ、撃滅しろッ! 万の邪悪を粉砕し、お前たちこそが『英雄』になるのだァァアアアア!!!」
『ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!』
俺の言葉に心を焦がされ、ついに彼らの欲望と闘志は臨界点へと到達する――!
筋力のリミッターを遥かに振り切った勢いで魔物たちを斬滅していき、剣が折れれば噛み付いてでも殺戮の限りを尽くしていった。中には内臓が零れ出しているのに戦い続ける者や、魔物の喉笛を噛み千切り、そのまま血肉を食い漁っている者までいた。
「そうだそうだそうだそうだ! いいぞお前たちッ! 我らが敵に裁きを与えろォ!」
『死を、凌辱を、絶望ヲ――ッ!!!』
俺の言葉に激しく応え、4000人もの人間たちが一寸の乱れもなく吼え叫んだ。
興奮により毛細血管が弾け飛び、誰も彼もが両目が赤く染め上げていた。その狂気的な姿に、魔物たちがガクガクと震え上がる。
ああ――俺はこの時、不思議な感覚を味わっていた。
数千人の冒険者たちと心が一つになり、そして……俺を通して彼らの中へと、『何か』がドクドクと流れ込んでいくような感覚を……ッ!
俺は妖刀を高らかに振り上げ、ニィと深く微笑んだ。
「さぁお前たち、魔物共は臆しているぞッ! 殺せッ、殺せッ、殺せッ、殺せーーーーーーーッ! 殺し尽くして、喰い尽くせぇぇええええええ!!!」
『オオォォォオオオオオオオオオオオッッッ!!!』
理性が溶けていく快楽と共に、俺たちは魔物の群れを蹂躙していった。
ああ、本当に最高の気分だ。絶技を振るい、戦士たちを率い、万の魔物を相手に無双していくなんて、少し前の俺だったら考えも出来なかった。それもこれも、アンデッドとして蘇ることが出来たおかげだ。
こんなに素晴らしい力を与えてくれたことを――俺は、九頭竜“様”へと感謝したのだった……!
ご評価にご感想、お待ちしています




