ひとりかくれんぼ
しばらくはこの話続きます
できれば毎日投稿できるように頑張ります。
ここはH県S市Y村。辺りには田んぼ特有のどぶのような匂いが立ち込め、
オスの虫やカエルたちが一心不乱に求愛行動を繰り広げ、
女の子のお眼鏡に適った者たちがハッスル(もとい発スル)に身を投じている。
暦は5月の中旬。
空を見上げればそこには神様が自慢の真珠のネックレスを
そこらかしこにばらまいたかのような美しい星空が辺り一面に広がっている。
つまりド田舎だ。
そんな田んぼのど真ん中にぽつんとたたずむ巨大な影があった。
そこを雲の隙間から出てきた月明かりが照らす。
私立山の端高校、俺たちが通う高校だ。
10年前までは県立だったのだが
過疎化に加え度重なる暴力、不良行為が原因で
廃校になる寸前だったのを今の理事長、佐藤 勉氏が
県から買い取ったらしい。
俺が元いた世界で
そういうのが可能だったかは知らないが
この世界では可能なようだ。
買い取った後は自由な校風と広い敷地面積、
自然豊かな環境とそれを利用した授業などに加え
優秀な先生を多く雇用することで何とか立て直したと聞いている。
「ヤッホー! テンション上がるね! リリィちゃん!!」
「肝試しだね! アヤメちゃん!」
リリィとアヤメがキャッキャ ウフフとはしゃぎながらハイタッチをしている。
「こら二人とも、遊びじゃないのよこれは」
時刻は深夜2時を回っている。
俺たちロウリーのメンバー五人はそんな真夜中に
高校の体育館の裏口に来ていた。
みんな動きやすいように
全体的に青で、ところどころ白のラインの入った
シンプルなうちの高校の体操服を着ていた。
まだ五月で冷えるのでみんな長袖長ズボンだ。
「にしても、夜の学校はやっぱり不気味ですね、部長」
「そうね。 でも、今回は理事長じきじきのお願いですもの。断れないは」
――—事の発端は3日前の部室――—
「ねぇひーくん、ひまー」
あやめはチーズお豆をポリポリと租借しながら話す。
「おう、そうか。だからといって縷々の足の裏のにおいを嗅ぐのは
やめないか?」
「・・・!」
縷々は恥ずかしそうにくすぐったそうにもじもじしてる。
そんな中、あやめはフレーメン反応を起こしていた。
「猫か!!」
「えぇ! あたしの足臭い?」
縷々は少し泣きそうになっていた。
「えへへ、冗談! 全然臭くないよ!
むしろトイレの芳香剤みたいないい香りがする」
その表現はどうだろうか?
「人の足の裏をむやみに嗅ぐんじゃないの。
はしたないし、相手にも失礼よ」
長机を挟んだ俺の前の席で部長はそういうと
また手元の本へと視線を落としていった。
どんな本を読んでるんだ?
と、表紙を覗いてみると、
『実録!! イエティは突然変異した人間だった!?
元イエティだったという男に直撃取材!!』
うさんくさ!! この上なくうさん臭いぞその本!
元イエティってなんだよ、イエティってのは
仮面ライダーか何かか!?
部長はその本を真剣に読みながら
たまに目を見開いて驚いたり
相槌を打ったりしていた。
こういうところ部長かわいいよな、
いつもは少しお堅いかんじなのに。
「っていうか、なんで縷々の足の裏の匂いなんて
嗅いでるんだ?」
「いやね、今、人の足の裏を見ればその人のすべてがわかる! って記事を読んでて
縷々ちゃんの性格はどうだろう? って思ってさ」
アヤメは言いながら自分の携帯の画面を俺に向けた。
アヤメはすぐこういうの試したくなるよなぁ。
「どうだった?」
縷々はまだ少し恥ずかしそうに目を潤ませて言った。
「何も分かんない!」
アヤメはニッコリと答える。
・・・なんだこの不毛な会話。
「そんなに暇ならあたしが少し
怖いお話を聞かせてあげようかしら」
部長は手元の本をパタン、と閉じながら言う。
「お、いいねぇ。まだ怪談シーズンには早いけど
興味あるよ」
自分の持ってきた薬の入ったショーケースをまじまじと
見つめていたリリィはそういうと
部長の隣の席に座った。
「あたしも聞きたーい!!」
「あたしは、怖いの苦手・・・」
「そんなこと言ってないで縷々ちゃんも聞こうよ~
怖かったらあたしに抱き着いてもいいから」
アヤメは縷々を引っ張って説得する。
そして縷々は渋々と了承した。
アヤメは俺の隣、縷々はその隣に座る。
決まってるわけじゃないけど、
縷々がリリィの隣かアヤメの隣かってだけで
いつも大体はこういう感じの配置だ。
部長は部屋の電気を消してカーテンを閉めてからから元の席に戻る。
完全にしまってないカーテンの隙間から漏れるオレンジの光が
不気味さを余計醸し出していた。
「部長、またいつもの自作ホラー話の
お披露目ですか?」
部長はたまに自分で考えてきた怖い話を俺たちに聞かせて
その反応を見て楽しんでいる。
今日もそんなことだと思い、俺は聞いてみた。
「いえ、今回は私が友達から口頭で聞いた話よ、
あなたたちも関係がない話じゃないわ」
部長はそういうと、机に肘をついて指を組み、
ゲン〇ウポーズを作るといつもよりも
透き通った声で話し始めた。
「ねぇ、みんな。ひとりかくれんぼって知ってる?」
「あ、あたし知ってる! なんか、人形とかくれんぼするやつでしょ?」
アヤメが自信満々そうに答える。
「俺も知ってます。 確か、かなりやばいって有名な奴ですよね?」
「そう、やり方はこう
1 まず、手足のついたぬいぐるみの綿を全て抜いて、代わりに
米と自分の爪のかけらを入れて詰め穴を縫い合わせ、その糸で人形を
ぐるぐる巻きにする。
このとき、赤い糸を使う
2 隠れる場所に塩水を用意する
3 ぬいぐるみに名前をつける。
名前は自分の名前以外ならなんでもいいわ。
4 午前三時になったら最初の鬼は〇〇(自分の名前)だからと
ぬいぐるみに3回言ってから風呂場にそのぬいぐるみを持っていって
あらかじめ用意しておいた水の張った風呂桶の中に入れる
5 部屋に戻り、家中の明かりを消しテレビをつける
6 目をつぶり10数えたら用意した刃物を持ち、風呂場へ行く
7 ぬいぐるみの所についたら、〇〇(ぬいぐるみの名前)見つけた
と言い、手にもってぬいぐるみを刃物で刺す
8 次は〇〇(ぬいぐるみの名前)が鬼だから
と言ってぬいぐるみを置き、おいたらすぐに塩水を用意した
場所に隠れる。
9 塩水を口に含んで隠れてる場所から出て、ぬいぐるみを探す
この時口に含んだ塩水を吐かないように注意する。
10 ぬいぐるみを見つけたら、コップの中の残りの塩水を
ぬいぐるみにかけ、口の中の塩水も吐き掛け私の勝ちと
ぬいぐるみに向かって3回言う
11 最終的に燃える形となるようにぬいぐるみを処分して終了」
「なんか、寒気してきました」
縷々は、まだ説明を聞いただけだといいうのに震えていた。
「それでね、今から何十年か前にこの学校の生徒が
3人で深夜にこの学校に潜り込んで、ひとりかくれんぼを
実行したらしいの、仮にA,B,C君としましょう」
「ひとりかくれんぼなのに、3人でできるの?」
リリィは首を傾けた。
「うん。 多人数でやる場合は全員が鬼をやった後
最後にぬいぐるみが鬼になるようになるようして役を回すらしいわ」
「風呂場とかはどうしたんです? 学校中の電気は夜だからついてないとして」
「学校の理科室の水道をためてやったらしいの。詳しいことは
よくわからないけど」
部長はここからが本番だ、とでも言いたげに
声のトーンを少し落とした。
「それでね、3人で鬼を回して最後、3人で塩水を口に含んで
理科室の水をためてあるシンクの所に行くと、水の中に
つけてあったぬいぐるみがなくなってたの。
3人は恐怖と不安でパニックになっちゃったらしいわ」
泣きそうな縷々をアヤメがよしよしとなだめている。
「そして、3人で震えてると、突然A君が歌い出したの。
A「友達なんて上辺だけ♬
暗いお釜でダルマさん♪
おバカな鬼さんみーつっけた!」
そういうとA君はB君ののどを持っていた包丁で切りつけたの。
B君はたまらず、口の中に含んでいた塩水を吐き出して叫んだの。
B 「お前、なにを...!」
A 「まだ喋れるんだ。 それっ」
A君がB君の心臓を刺すと、B君は動かなくなった。
A「次は君の番、あれ?」
A君が横を見るとそこにはC君の姿はなかったそうよ。
A君がB君を襲ってる間にC君は逃げ出したみたい。
その日、C君が学校に登校すると、死んで置き去りにされたはずののB君はいなくて
A君もいない。二人とも行方不明になってしまったそうなの。
その時の新聞がこれ」
そういうと、部長がカバンの中から古い新聞を出してきた。
そこには、こう書かれていた。
7月17日午前3時頃、H県S市にある
山の端高校の校舎内で肝試しをやっていた3人のうち
2人がまだ家に帰っておらず、行方不明となってる模様。
一人帰ってきた生徒に話を聞くも、パニック状態なのか
人形がどうとかわけのわからないことを述べて
いるらしい。
警察は学校周辺を規模を広げつつ、全力を挙げて捜査している。
暦に目を通すと 1987年 7月21日となっていた。
今からちょうど30年前か・・・
「失礼する」
「「出たー!!」」
震えながら手を組んでいたアヤメと縷々が一斉に声を上げる。
アヤメも怖い話好きな割に怖がりなんだよなぁ。
「邪魔したかな?」
入って来た人物は佐藤 勉、
髪は黒色で真ん中を境に斜め上に飛び出してるという
特徴的な髪形をした男。
言わずと知れたこの学校の理事長だ。
「大丈夫です、お気になさらず。
今私が怖い話をしていたものですから
いきなり入って来た理事長に
二人がびっくりしただけです」
部長はいつも以上に姿勢を正して答えた。
「怖い話? もしかして、
一人かくれんぼのことかな?」
「驚きました! 理事長も知ってらっしゃるんですか?」
部長は、口を手で覆いながら喋る
「あぁ、私がこの場に来たのもそれについての
依頼をしようと思ったからだしな」
「依頼? ですか。 少々お待ちください」
部長はそういうと、リリィの隣にある椅子を
俺と部長の隣の真ん中、長机の短い辺のほうと垂直になるになる位置に
椅子を用意し、どうぞ、といい、閉めてあったカーテンを開け
電気をつけ席に戻った。
理事長もその椅子に腰を掛けた。
「それで、どのようなご用件でしょうか?」
部長がそういうと、理事長は「あぁ、」と言って続けた。
「最近この学校内で幽霊を見たという生徒が続出してな。
なんでも、その幽霊は不気味な歌を歌いながら、時折誰かの
名前を呟いてるらしいんだが。
誰がそんな古い話を掘り返したか知らんが、
それは30年前に行方不明になった
少年とひとりかくれんぼで呼び出された幽霊だ、
とか言い出してな。
目撃されてる例も少年が二人、少女が一人だから
その噂の信憑性もたかまってしまって、
困ってるんだ。
いずれの生徒も、過去に別の場所でも幽霊を見たことがあるという
霊感もちだそうだ。まぁ、言ってるだけだろうがね。
幽霊なんて馬鹿馬鹿しい。
しかし、この噂が外に漏れてしまっては
せっかく立て直したこの学校の評判が悪くなってしまい
来年度以降の入学希望者数に支障が出てしまいそうだ。
そこでだ、君たちにはこの学校に夜に忍び込んでもらい
そこで噂の真相を確かめてほしいんだ。
もちろん、報酬は出すぞ」
理事長は片手で頭をおさえながら話す。
「そもそも私たちは依頼などという探偵まがいの活動はやってないのですが...
報酬というのは、どのようなものでしょうか?」
部長が少し首を傾けて聞く。
「君たちの部の部費を上げてやろう。
それに、君たちはオカルト研究部なのだろ?
こういうことには興味があるはずだ。
どうだ? 引き受けてくれんかね?」
部長は少し考えた後、俺たちの方を向いた。
「みんなの意見が聞きたいは、賛成の者はおしえてちょうだい」
「俺は別にいいですよ、正直興味があります
それに、幽霊関係の仕事は俺がいないと始まらないでしょ!」
「あたしも別にいいよ! 夜の学校に忍び込むなんて面白そー!」
リリィは手をバンザイのポーズにしながら言う。
「あたしも、みんなが行くならいいよ」
さっきの話が効いてるのか、まだ少しアヤメは震えていた。
「あたしも、行く。あたしだけ行かないと
仲間はずれみたいで、嫌だから」
縷々は震えながら絞り出すように言った。
「満場一致だね? わかりました。
理事長、その依頼
私たちオカルト研究部が全力を挙げて
解決しましょう」
部長はそういって、自分の胸の前にグーを作って見せた。
「おぉ、引き受けてくれるか!
よし、それなら君たちでそんな話誰かのいたずら
だって証明してくれ。
体育館裏のカギは渡しておくから3日後にそこから忍び込んでくれるといいよ。
2時頃なら見回りもいないから安心して」
理事長はそういうとポケットからカギを差し出した。
3日後となると金曜日か。確かにそっちの方が都合がいいな。
「あれ、理事長は一緒に来てくれないんですか?」
「あぁ、私はダメなんだ。今日から4日間家族で旅行だからね。
まぁ、私なんていてもいなくても変わらんよ」
俺はずっと疑問に思ってたことを口にした。
「そういえば、なんで理事長はこの学校を買い取ったんです?
正直、こんな田舎の学校買い取っても立て直せる保証はあまり
なかったかと思うのですが」
すると理事長は遠くを見るような目つきになった。
「この学校はね、私の母校なんだ。友達と楽しく学び、遊んだ
思い出の場所なんだ。そんな学校がつぶれるというのは、どうにも
悲しくてね。ほら、この学校は自然も多いし、校舎も大きいじゃないか。
学び舎としてはとても適してると思うんだよ。
それに、一から高校を立てるよりも買い取った方が安く済むしね」
.........
「そうですか」
理事長は「うん」とうなずいて部室を出て行った。
「それじゃぁ、頼んだよ」
ーーーーそして現在へーーーー
「何を考えてるの? 灰崎君」
部長は自分の顎に指をあててた俺に話しかけてきた
「いえ、なんだか、いろいろ釈然としないことが
多すぎるんですよね。
理事長がこの学校を買い取った理由もそうですし
部長の話した怪談にも、おかしな部分があったような
気がして。
どこがおかしいのかはまだ分からないんですけど」
部長はそれを聞くと、自分の骨盤に手をあてた。
「奇遇ね。 私もこの話を友達から聞いたときどこか違和感を感じたわ。
私もどこがどうとはうまく言えないけど。
まぁ、そのことは歩きながら考えましょ、
さぁ皆さん、行きますわよ!」
部長が先導して俺たちはそれについていった。
「ううっ、怖いよアヤメちゃん」
「大丈夫、みんなついてるよ、縷々ちゃん。
手、繋ご」
「わー楽しみだな! どんなことが起こるだろう」
それぞれがそれぞれの気持ちを胸に、裏口まで足を進める。
「・・・けて」
冷たい風と共に少女のか細い声が聞こえた気がした
「ん?」
「灰崎くん、どうしたの?」
「今、少女の声が聞こえたような・・・」
「灰崎君、指輪は?」
「まだつけてる」
「なら気のせいよ。さぁ、行くわよ!」
ガチャン!
部長がカギを開けた。
縷々とアヤメがビクッ、と肩を寄せる。
これからまさか、あんなとんでもないことが起きるなんてことを
俺たち、ロウリーの5人はまだ知る由もなかった。
分かりにくい場所や修正点などがございましたら知らせていただけると助かります。
感想などもらえると、とても嬉しいです
※ 日にちの誤り修正しましたを
恰好を付け足しました