先生の実力 前編
「先生危ない!」私が叫んだ声は彼に届いていたのだろうか。
その一瞬見えた横顔は少し笑っているように私には見えた。そして彼が何かつぶやいたようにも見えた。すると、さっきまで先生に向かって進んでいた閃光は一瞬にして消失した。
「なんだと!?」イビル・スパークを放った本人であるグルドはひどく動揺していた。それも当然魔魔術を消失させるアンチマジックは、Aランク魔術をマスターする魔術師でもなかなか使えない魔術なのだ。それを一瞬で発動させてしまった。
「グルド今は授業中だ。喋るのは勝手だが、授業を止めるのはやめていただきたい。そんなにも俺と戦いたいのなら放課後付き合ってやろう」と、先生はグルドに告げた。
それからグルドは静かになり、授業が進み始めた。さっきのアンチマジックを見せられたせいかさっきまで会話で騒がしかった教室は静かになり、先生の授業を集中して私は聞くことができた。
放課後の中庭にはクラスのみんなが観戦するために集まっていた。しかし放課後になってから30分。先生はまだ来ない。グルドの怒りは頂点に達していた。
45分後、やっと先生は中庭に姿を現した。
「よく逃げずに来たな。てっきりやられるのが怖くて震えていたんじゃねぇか?」
「すまない、今日は職員会議があったため遅れてしまった。お詫びしよう」と涼しい顔をしていた。
仲裁役としてステラ先生を呼びに行っていた生徒が帰ってくる。ステラ先生はやれやれといった感じだった。
「仲裁役は私ステラ・クラウジウスが行おう。決闘形式は先に一撃を相手に与えたほうが勝者とする。それ以上の攻撃を与えた場合私が力ずくで止めさせてもらう。これでよいか?」
「ああ」二人が頷く。
「それでは始める。いざ尋常に!始め!」
グルドが先に動いた。先生の足元に魔術が発動される。これも無詠唱による魔法だった。
「ブリザード・ブラスト」Bランク魔法だ。血を凍らせるほどの寒さの爆風を生み出す魔術。発動時間も短く一瞬で消すことは無理だ。
「これは流石に消せはしないだろう先生よぉ!!!」
爆風は中庭の砂を巻き上げ、私達の視界を奪った。冷たい風が肌に突き刺さる。空気が冷やされ膨張し、霧が発生する。彼は勝利を確信したのか、ハッハッハッハッと高らかに笑っていた。
実際にブリザード・ブラストは消失しなかった。この爆風を避けるすべはないと私は思った。
爆風はやみ、そして霧が晴れ視界が戻った。しかしそこに先生の姿はなかった。吹き飛ばされているのかもしれないと思い上を見上げる。しかし上にも先生の姿はなかった。
「なんだと!奴はどこにいる!?」私も先生の姿を探した。しかしどこにもいない。中庭には隠れることが出来るような場所などないのに。
「先生は逃げたのじゃねえのか!」グルドが吠える。しかし次の瞬間にグルドがぐっと声を上げて倒れた。すると先生はグルドの後ろから姿を現した。何もなかったその空間から。
「やめ!勝者グレイ・エレボスっ!」そうステラ先生は告げた。
私は何が起こったか理解できなかった。なぜあのブリザード・ブラストを避けることができたのか。なぜ何もなかったところから突然先生の姿が現れたのか。そのような事を考えてたのは私だけでなく、みんあ同じことを考えていたのだろう。顔がポカーンとしていた。
「なぜ俺が消えたのかとても不思議そうな顔をしているなお前ら、仕方がないからいまから特別に居残りで教えてやろう。知りたいなら残れ。ツキミ、第三講義室の鍵をとってきてくれないか?」
「は、はい!分かりました先生!」いきなり名前を呼ばれたため、つい裏声になってしまった。
私は急いで走った。胸がドキドキする。こんなにもドキドキしてワクワクするのは小さい頃、はじめておじいちゃんに魔術を教えてもらったとき以来だ!このドキドキに負けないぐらい必死に私は走った。