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王の祝杯 前篇

 冬休みが終わり、また学校が始まる。

 といっても休みらしい休みではなく、一歩間違えたら町ごと無くなっていたかもしれない可能性があると恐ろしい休みであった。休んでないから休みではないか。

 重たい足取りで冬特有の肌を刺すような寒さが温かい部屋を出たばかりの俺を襲う。

 冬休みの間に積もった雪はもう溶けてしまっている。

 学園に向かって歩く。

 街では壊れた建物を直すために、人々は材料を運んでいる。

 いつもならば市場に買い物に来た主婦が大半を占めていたのだが、今では男とのほうが多い気がする。

 そんなどうでもいいことを考えながら歩く。

 きっと夜更かしをした結果なのだろう。

 どうも最近いろいろサイルガフォ博士と会ったせいで、いろいろ触発されて研究に熱を入れている。それでも休みは終わりだ。これからはちゃんと体調管理のために寝ないといけない。

 

 学園に着くと、思ったよりも朝の朝礼まで時間の余裕があった。

 学園の建物の様子は街のように建物が壊れたりしていることは無かった。あとで聞いたことだと、暴動が起こったときには避難場所として扱われていたようだ。それなのに傷がついていないのは、建物の強度を魔術的に上げたらしい。このおかげでまた建物修復の大規模魔法陣を書く必要がなくなった。

 

 私室に着くと、長い休みのせいで机には埃が被っており、掃除の必要性が感じられる。

 コーヒーを淹れるための道具も洗わなければならない。

 とりあえず、掃除をするか......

 とは考えながらも、コーヒーを淹れるために道具は洗ったものの、その時点で掃除をするための気力は尽き、窓を開け放ち、椅子の埃だけを拭いて、そこに座り本を読むことにした。

 

 

 肩を揺らされる。何か話しかけられているのは分かるけれど、ぼんやりとしか聞き取れない。

 「......きて、起きて!」

 「ごほぉ!」

 腹に鈍い痛みが走る。何事!?

 重たい瞼を開けると、そこにはプンスカと頬を膨らませたツキミが居た。

 長いブロンドはツインテールにまとめられ、冬服の制服に真紅のローブを上に着ている。

 両手を腰に当て、むーとこちらを睨みつけている。

 どうやらいつの間にか寝ていたようだ。やはり生活習慣を見直さないといけないな。

 

 「ツキミ、そんなに怒ってどうした?」

 「どうしたじゃない!もう3時間目!グレイの魔術応用の授業の時間!」

 左腕に付けた腕時計を見る。うん、いつの間に4時間も寝ていたようだ。

 「そうか、少し待っていてくれ。いまから準備する」

 

 俺は授業ではなるべく教科書を使わないようにしている。教科書通りに授業を行った場合は単語や特徴だけの授業になってしまう。

 将来研究者になろうと考えている人には教科書の細かいところも読むようにしてもらっているが、ほとんどの生徒は軍隊に入ったり、この学園に依頼されてくる仕事をこなすことになる。そうならば出来るだけ実践に使えるようなものを教えたほうが将来のためだろう、と戦闘に使ったりする魔術の応用を教えるのが俺の授業だ。

 だから、生徒に考えさせたり、生徒に質問されたことを話したり。対話形式に近い授業だから授業の下準備というものは必要が無い。

 

 今日もいつも通りだった。しかし、今日はいつもと違って生徒の様子がピリピリとしていた。

 それは生徒の数が減っていたのと関係してるのだろう。

 魔神討伐のとき、この魔術学園アテーナからの生徒も戦闘に参加していた。これはあまりに突然だったため、軍人だけではなく、その場に居合わせた生徒も戦った。そしてその大半が無残に死んでいった。

 それは無力だったから。クラスがAだからと自信過剰になって戦ったものは勇敢にも戦ったのだが死んでいった。それは無力だったからだ。

 それが今回の事件でわかったのだろう。

 

 ま、戦って無傷でそして最初から最後まで戦いきったツキミとルミは流石と言えよう。

 授業の終了を告げるチャイムが鳴る。

 

 

 俺は昼食を取るべく、学園内にあるレストラン街に向かう。いつものところに行こう、なんて考えるが今日は珍しい、いや考えもしなかった相手に捕まることに鳴る。

 「ハッハッハ。儂が君に声をかけたのがそんなにも珍しいかね?」

 アンキルド教授だ。愉快そうに嫌がる俺の顔を笑っている。

 「なんであんたが俺に関わってくる?」

 「そうそう身構えるな。儂は君と話したいと思い昼食を一緒に取りたいだけだがね。それにしても君の口調も荒くなったね」

 「ここでは口調を正しくした方がよろしかったでしょうか?」

 嫌味を兼ねて丁寧な口調で話しかけるが

 「君と儂の仲だ。さっきのままでいいよ」

 

 俺はアンキルドの入って行った店に続いては入る。そこは俺みたいなまだひよっこな研究者では入ることが出来ないような、中華の豪華なレストランだった。あまりに豪華なレストランだったため、奢ると言われついついホイホイ付いて来てしまった。

 あまり周りに話を聞かれたくないのか、奥の客室に入る。

 「で、こんな豪華な所に連れてきて、こんな密談に向きそうな所に連れてきてなにを話したいんだ?」

 「まあまあ、ゆっくり食事してから話そうじゃないか」

 「いや、食べてからもう逃げることはできないと、言われて無理やり何かをやらされるのは勘弁だからな」

 「君は注意深いね。まあ、話してもいいのだけれどもう一人待っている人がいるから、そいつが来てから話そう」

 そして料理が運ばれてくる。真っ赤に染まった料理が刺激的な匂いを放ちながら机に置かれる。麻婆豆腐というらしい。アンキルドのお気に入りの料理のようで真っ先に二人分を頼んできた。 

 「さあ、食べようか。冷めない内に」

 「食べても俺は断るぞ」 

 「好きにしたまえ」


 シルクロードを辿り、絹と一緒に伝わってきた料理を食する。

 匂いと同じような、炎を口に入れられた感覚が口全体に広がる。

 「辛っ!!!」

 汗腺が広がり、汗がじわりと滲んでくる。そして、冬の寒さによって冷え切った身体がぽかぽかと暖まっていく。

 「この程度で辛いと思うのか、君は。まだまだお子様だね」

 「いや、これ絶対辛いから。お前の口の感覚が絶対衰えてきているだけだから。あと、俺の舌は繊細なだけだから」

 「なに熱心に言い訳しているのかね」

 にやりと多くのシワが刻まれた顔が笑顔になる。きっと俺が言い訳するのは、こいつに弱みを握られたくないと思っているからだろう。なんとなくだが、こいつはメロに似ている気がするからか?

 

 二品目の海老チリと言う料理が運ばれてきた頃、アンキルドが待っていた人がやってきた。

 「やあ、二人共」

 意外な人物だった。学園の長、校長だ。そういえば今更だけれど、俺って校長をずっと校長といっているから本名知らないな。

 校長はアンキルドの横に座り、大皿に盛り付けられた海老チリを小皿に移す。なんだかよくここで食べているような仕草だ。

 「さて、人は揃ったから話を始めようか」

 とアンキルドは話し始めた。

 

 「ここの三人がこの国の国王に呼び出されている」

 「は?」

 ついつい間抜けな声を上げてしまう。なんで俺が国王に呼び出される?俺悪い事をしただろうか?

 「まあまあ落ち着きたまえ、今回の魔神討伐の件だ。儂は国王の娘に魔術を教えていてな。国王と話す機会が多いから、昨日も同じように話していた。その時に魔神を倒したのは君だと言ったら君と話したいとおっしゃられてな。それで呼び出されいる」

 「なんでそんな俺を道連れにするようなことを言うんだお前は」

 「君たち私の知らない所で仲が良かったのだね」

 国王に呼ばれたことは驚くことはなかったが、砕けた口調で話している俺らのほうに驚いていた。



 そしてアンキルドは俺にトドメを刺すため、言った。

 「今夜だ。国王がお呼びだが、断るかね、グレイ君?」

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