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リム  作者: 愛猫
第1章
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第6話 初めてのお客さん(3)

ごめんよ、主人公。次は出してあげるから。

どこからともなく突然現れたその女性。腰あたりまで伸びた長い髪、切れ長の目はとてもクールな印象だ。長い手足は白く、薄青色の着物を着ているが膨よかな胸が着物の胸元から今にも見えてしまいそうである。惚けた顔で見上げていると薄い唇で笑みを浮かべてこちらを見てきた。


「何を見ている、阿呆」


首元の青いリボン。鈴がなった。


よく見ると頭にはフサフサの耳がついている。あれ?え、あれ?

混乱している私を放置して、謎の猫耳美人は片手で軽々と私を抱えたまま鋭い目付きで赤黒い霧を見下ろした。


「全く、お前はどれだけ俺様の手を煩わせれば気が済むのだ。葵。」

「え、何で名前」


不敵な笑みを浮かべたまま、彼女は霧に向かって右手を差し出した。彼女の手から青い光が発せられ辺りを包み込む。

光は禍々しい霧を浄化しているように見える。風が激しく吹き荒れ目が開けられない。


「還れ」


ああああああああぁぁぁア゛ア゛ア゛ア゛ア゛

悲鳴が谺響する。風が一層吹き荒れ、無意識に目の前の女性にしがみついた。

次第に風が収まり、恐ろしい悲鳴も消えた。そっと目を開けると、黒い霧も恐ろしい鬼もあの男も何もかも消えていた。

ただ一つ、私が持ち出した香炉だけが蓋をされ寂しくその場に転がっていた。静まり返った場でまだ状況が飲み込めていない私は、ふわりと地面に降り立った猫耳美人に深く会釈する。


「危ない所を助けて頂き、ありがとうございました!あの、貴女は一体誰……ドシュッ!!


予期せぬ一撃を脳天にくらい、私は蹲った。舌噛んでないかな、舌噛んでないかなこれ。

深いため息が頭上から聞こえたので恐る恐る見上げると、彼女は呆れた顔でこっちを見ている。


「この阿呆。まだ分からぬか、俺様に決まっておろう。」


アオ様だ。と、腕を組んで私を見下ろす彼女。

は、え?…えー?!


喋れる猫も凄いけど、まさか人になるなんてどういう事だ。しかもこんな猫耳美人に…ていうか。


「め、メス猫だったのか…」

「当たり前じゃろ」


ポン!と音を立てて白いモヤに包まれると、アオ様はいつもの黒猫に戻っていた。どうやら本当にアオ様のようだ。まじでか。

こんなことが出来るなんて、やはりここは私が居た世界とは何かが違う。そう身を持って感じた。


「所で、チビ。お前自分が何したか分かってるか。」

「あ…」


そうだ。色々驚きすぎて忘れていた。

私は店の物を勝手に持ち出し、挙句何やらやばいものを呼び出して危険な事をしてしまったのだ。


「あの、さっきの男の人はどうなったの…?」

「あいつは、連れていかれたのさ。黄泉に。」

「黄泉?」

「お前、あの男から身体を離しただろう。」


そういえば、男に胸ぐらを掴まれて突き飛ばされた気がする。


「言っていた筈だ、述が終わるまで必ず手を離さない事を。手を離した瞬間、術者の守りが解ける。隙あらば、連れていかれるのさ。」


黄泉、とはきっと。パパとママが居る所なのだろう。でもさっきの鬼は私が見たような優しい暖かいものじゃなかった。もっと禍々しい恐ろしいものだった。


「あの鬼は、幸せだったのかな」

「さぁな、ろくでもない男と馬鹿な女の事なんか、俺様が知るか。じゃあ、俺様はもう戻るぞ。」


いいながら、アオは私の足元に近づくと影にそっと飛び乗った。ズブズブとアオの身体が影に沈んでいく。


「え、待って、どういう原理?!」

「五月蝿い阿呆、俺様は忙しいんだ自分で考えろ。」

「いや無理だから!許容範囲オーバーだから!」


あ、そうだ。と、私の言葉はまるで無視した様子で影に溶け込んでいくアオを飛びとめる。


「だから俺様は忙しいと…」

「助けてくれてありがとう、アオ!」

「…ふん。アオ様だ、阿呆。」


満面の笑みで礼を言うと、満更でもない様子でアオは陰に消えていった。


どうやらこのお香、使い方を間違えるととんでもない事になるらしい。安易な考えで行動した私のミスだ。店の物を勝手に持ち出して、なんて事をしてしまったんだろう。

とりあえず、一旦店に帰ろう。掃除もまだ終わっていなかった。

香炉を拾い慌てて店の方へ向かい振り返ると、そこには満面の笑みを浮かべた花子さんが立っている。


それはもう、見たこともないような笑顔で。


「葵くん、仕事もせずこのような所で遊んでいるとは、何様ですか?罰として、庭の草むしりをして頂きます。」

「に、庭って…?この屋敷の広大な庭ですか…?」

「えぇ、勿論。」


花子さんの笑顔が逆に恐ろしい…私に拒否権はなかった。









「あれを、扱えるのだな。葵も。」

鈴の音を鳴らしながら、悠禅の膝の上に丸くなったアオが喉を鳴らす。

「器が違っても、変わらぬのだな。」

何処か寂しさを含んだ目をして、悠禅はアオを優しく撫でた。

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