大人のごっこ遊び
「す、すいません!!」
「謝るなら誰でも出来るわよ!!・・・全く使えないわねぇ。」
佐々木主任のイビりは今日も厳しい。
ミスをした僕が一番悪いのは認めますが、執拗にねちっこくって思い出して後で尾を引きます。
フッフフ、けど良いのです。今日はどれだけイビられても、もう僕は行くって決めたのです。
アフターファイブに僕は、とある雑居ビルの路地裏にある、大人の隠れた社交場の扉を開けた。
「いらっしゃいま~せ。ようこそ“大人のごっこ遊び倶楽部”へ~。」
小綺麗な受付の人が、妙な話し方で出迎えてくれた。
「ど、どうも。」
「当店では~。普段は絶対に出来ないような恥ずかしい遊び“ごっこ遊び”を人目を気にせずに遊んで頂く場所を提供させて貰うサービスとなっておりま~す。お客様は今日はどのような“ごっこ遊び”をご所望です~か?」
おぉ、なんかテンション上がって来た!!
「か、怪獣の人形遊びで!!」
子供の頃から好きで好きでたまらない怪獣。実は人形遊びはたまに家で一人で遊ぶけど、ここでは趣味の合う人と多人数プレイが出来るのが魅力!!
「それでした~ら、只今1名のお客様が遊んでおります~が、一緒にお遊びになられます~か?」
「はい!!」
ウフフ・・・一体どんな人だろうなぁ?
ちなみにココにはフリータイムしか無く、どれだけ遊んでもドリンクバー飲み放題で2000円ポッキリです。財布に優しい!!
「こちらの部屋でございま~す。ではごゆっく~り。」
受付の人は僕を部屋の扉に誘うと、入り口の方に帰って行きました。
き、緊張する。いっしょに遊んでくれる人はどんな人かなぁ~?
期待と不安胸に秘め、僕は扉を開けた。
“ガチャリ”
「ガオー!!バッコーン!!大変ですコンビナートが怪獣によって破壊されました!!」
・・・衝撃の映像です。いや別にいい大人が四つん這いになって怪獣のソフビを片手に鳴き声だけでなくSEやら実況しながら遊んでいるのが衝撃なのでは無くて、遊んでいる相手が問題でした。
「さ、佐々木主任?」
「ん?・・・や、山岸!!」
はい山岸です。
目の前で32歳の独身女の上司が、怪獣遊びをたしなんでいる姿を見れるなんて、今日怒られている時には全く考えていませんでした。
佐々木主任は両手で顔を隠していますが、指の隙間から赤くなった顔がチラリしています。
「・・・と、とりあえず扉を閉めたら?」
“ガチャン!!”
普段はキリッとしたクールな主任からは考えられない程可愛い声に従い、僕は扉を閉めました。
・・・。
今の状況は二人が広いカーペット部屋の真ん中で正座しています。
20分程会話がありません。非常に気まずいです。
それにしてもこの主任のソフビは状態が良いな、主任の私物かな?ウルトラガイを一度は倒した“クリムゾンウルフ”という辺りが攻撃的な性格の主任らしいな。
そんな攻撃的な主任が急に叫び出しました。
「あーもう!!遊ぶわよ!!」
「えっ!?遊ぶんですか?」
意外だった。お互い何も見なかった事にして帰るのが無難かと思っていたのに。
「だって、お金を払ったのに中途半端な気持ちで、寂しい家に帰れるかっての!!さぁ、出しなさいよ!!アンタの怪獣よぉ!!」
しゅ、主任のテンションが最高にハイだ!!くぅ、ここで逃げたら男が廃る!!
僕は手提げ鞄の中からウルトラガイの記念すべき第一号“アムラー”を出しました。
「フッ、貧弱、貧弱ぅ!!初めて出たウルトラガイの強さを際立たせる為だけの怪獣なんか、私のクリムゾンウルフに勝てるもんですか!!」
「・・・勝負はやってみなければ分かりませんよ。」
※ここからは二人のイマジネーションの世界に入ります。
荒廃した町に二体の怪獣。
「ガオー!!」
佐々木クリムゾンウルフと。
「キシャー!!」
山岸アムラー。
「山岸!!死になさい!!」
二足歩行の狼型怪獣のクリムゾンウルフは両手の鋭い爪でアムラーを攻め立てる。
“ガッ!!ガッ!!ガッ!!”
「くっ!!主任!!負けてたまるかぁ!!」
トカゲの様な怪獣のアムラーは反撃で尻尾を振って応戦する。
「甘いわ!!」
しかし、尻尾攻撃は両手で受け止められ逆にジャイアントスイングされてしまう。
“ブン!!ブン!!”
「ギャアアアア!!」
「ふん!!悲鳴を上げるなんて情けないわ・・・っよ!!」
“パッ!!”
クリムゾンウルフは手を離し、勢いよくアムラーは飛んでいき、瓦礫の山の上に落ちた。
“バゴーン!!”
「アッハハハハ!!弱いわねぇ♪アムラーなんか持ってくるからそんな目に遭うのよ!!」
「くっ!!まだ負けたワケじゃない!!」
アムラーは不屈の闘志で立ち上がり、クリムゾンウルフに突っ込んで行く。
「甘いわ・・・これでトドメよ!!」
“ガブッ!!”
クリムゾンウルフがアムラーの首筋に噛み付いた。
「ギャアアアア!!」
轟くアムラーの悲鳴。
“ガブッ!!ガブッ!!・・・“
クリムゾンウルフは執拗にアムラーの首筋を何度も何度も噛みつく。
最初は抵抗していたアムラーだったが、おびただしい血を流してグッタリとするアムラー。
「・・・私の勝ちね。」
勝利を確信したクリムゾンウルフはペッとアムラーを放り投げた。
「完全勝利かしらね?」
勝利を確信したクリムゾンウルフ。
けれど、ピクリとアムラーの体が動いた。
「何!?もう動ける筈は無いのに!!」
動揺するクリムゾンウルフだが、それを嘲笑うかの様にアムラーが喋りだす。
「こいつはただのアムラーじゃないんですよ・・・再生アムラーです!!」
「なっ!!なんですって!?あの細胞レベルで破壊しないと何度でも蘇る再生アムラーですって!!・・・だ、騙されるもんですか!!再生アムラーのソフビの色は赤色、そのアムラーは初代アムラーと同じ青色じゃない!!負けたからって言い訳は見苦しいわよ!!」
だが言い訳では無かった、アムラーが立ち上がって足の裏を見せると、そこには“再生アムラー”と彫られていた。
「な、何ぃ!!」
「偽物じゃないですよ。再生アムラーのソフビが最初に発売された際はアムラーと同じ青色だったんです。しかし、当時あまりにも外見がアムラーと似すぎている為にファンからの苦情が多数あり、二回目の生産から赤色に変わったんですよ!!」
「う、嘘でしょ!?・・・じゃあそれは初回生産のレア物?リアルタイム世代じゃないアンタは一体それにいくら注ぎ込んだの?」
「20万です。この間のボーナスは全てコイツに消えました。」
「かはっ!!とんだ狂人だわ!!」
※イマジネーションの世界終了
主任のソフビを動かす手が止まりました。
「主任?」
「・・・クリムゾンウルフは素早い動きと怪力を生かした攻撃は出来ても、物理攻撃しか出来ないから細胞レベルで破壊させる攻撃は無理ね・・・私の負けよ。」
“ポタッ・・・ポタッ・・・”
な、泣いているぅううう!!
鋼鉄魔女と部下から陰で呼ばれている、お局様の佐々木主任が怪獣お人形遊びで負けて泣いているぅ!!
「くっ、悔しい!!」
あわわ、しまった僕も熱くなり過ぎた・・・でも泣かなくても良いじゃん。とりあえず謝るか。
「主任すいませんでした!!」
「・・・もう一回よ!!」
「えっ!?」
「負けたまま帰れないわ!!ソフビまだ持って来てるでしょ!?違うヤツで勝負よ!!」
「は、はい!!」
こうして“キバムシvsマルタン星人”で二回戦が始まりました。
色んな意味で今日はここに来れて良かったです。