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嫌気が指した俺は

ちょっと息抜き。

 人と交通の中心部である東京駅には全部で1~23番線まで存在してそのすべてに絶えず電車がやってきては人々を乗せて出発している。その複雑怪奇の迷宮ともいえるその東京駅の地図上には存在しない駅員も駅員よりも東京駅に詳しい鉄オタも知らない幻の0番線というものが存在する。それは東京駅の地下。丸の内線よりも総武横須賀線よりもさらに下に存在する路線。そこに行く方法は誰も知らない。この有限の世界に住む人間にその東京駅の0番線に行く方法を知っているものなど存在しない。いけるとしたらそれは運だ。それ以外にも条件があるとすればその存在を知らないということと、この有限の世界に嫌気が差してしまった人だ。

 俺はその後者に値する。俺はこの社会という歯車に嫌気が差してしまった。

 田舎から大学に通うために上京してきた。俺の実家は地元ではそれなりに名の知られた小さな会社を営んでいる。そんな会社の俺は長男だ。誰もが俺がその会社を継ぐと思っているだろう。だが、俺は継ぐ気など微塵もない。会社を経営する親を長男として一番長く見ているからこそどれだけは大変なのかを知っている。土日の休みもお盆も正月も返上して仕事をする姿を俺は間近で見てきている。それを見てその仕事を継ぎたいかといわれると俺はそうは思わない。東京の大学にいって経済だの経営だのを学んで帰ってくるものだろうと親戚の誰もが思っているが俺はそんな気は微塵もない。

 俺には夢があった。それをかなえるためには一度実家から出たかった。進学したのは工学部でそれなりに勤勉に働けば就職も難しくない。経済も少しずつ回復しているこの世の中で就職難民なんてものは出ないだろうと。だが、俺のように社会の流れに逆らうものはどの時代にも存在するのだ。

 俺はまさにみんなが社会という川の流れに沿って下流へ順調に流れている中で俺はそれに逆らって上流を目指す。工学部に進学したのに俺はそれなりに勉強しながらも別の夢を目指して上流を目指した。

 誰にも告げずただひとりで。

「俺は小説家になりたい」

 その夢を思い始めたのは小学3年生のころだ。今でも覚えている。教科書に旅行記のようなお話があって、そこにいろいろな話が混在していてそれを自分なりに好きなように組み合わせて自分なりのお話を作ろうという授業だった。俺はその授業を誰よりも楽しんだ。冊子も作って好評だったことを覚えているが、きっと誰も覚えていないだろう。

 それから俺は漫画を買っては自分で漫画を描いたりしていたが、自分の絵の絶望的センスのなさにあきらめて話を作るほうに力を入れることにした。それが小説家になりたいという俺の夢の原点だ。俺は本を読み漁った。小学校においてあるファーブル昆虫記とかの児童本をほぼすべて読破した。それから年齢を重ねて中学生になったころに俺は小さなメモ帳を買ってきてそこに小説を書いた。思い出せば鳥肌が立つような恥ずかしい内容ばかりだ。大学生になってパソコン必須になることで俺の小説の執筆活動はネット上へと舞台を変えた。わざわざ学校から支給されるオフィスではなく自分でオフィスを買ってワードを使って小説を毎日のように書き続けた。学校からオフィスを支給されるのを待つことができなかったからだ。

 そこまでやっておきながら俺は小説家になりたいという夢を誰にも告げられずにいた。

 ひとつは恥ずかしいということ。もうひとつは否定されることが怖かったこと。

 俺は齢21になるが描いている内容が魔法が出てきてドンちゃんやるような内容でとても人に堂々と見せられるものではないことだ。どうせ、バカにされる。そんな年にもなってまだこんな子供みたいなことを想像しているのかと蔑まされて俺は小説家になると言う夢が恥になってしまうのが嫌だった。

 後者の否定というのは俺が頭の中で練りに練ったストーリーを何も知らずにただあれはダメだと真っ向から否定されることが怖かった、ネット上ならば無視すればいい。だが、現実の親や友達にそれを告げれば避けることはできない。内容が子供っぽいとは否定されれば俺は好きなことを書けなくなる。

 弱い俺には自分の大切な夢を守るために心の中に硬くカギを閉めて閉じ込めた。誰にも開けられないように。そして、開けるときが来たときは真っ向から否定されても対抗できるだけの強い心と肯定できるだけの素材があればいい。しかし、俺はこの大学4年間でその肯定を得ることはできなかった。ネット上に上げた小説は評価されることはなく、応募した新人賞にはかすりもしないでここまで来た。

 俺の計画では最初の2年間は無理かもしれないが、3年目でどこかの編集者が俺の才能に目をつけて晴れ晴れしくデビューして4年目には小説家として安泰になっているという魂胆だったのが4年目になっても俺の小説家としての才能の目が出る気配なしでここまでやってきた。

 世間体を気にして俺は就職活動に行った。その中で興味のある業界がひとつだけあった。

 小説家になる心得のひとつとして人とは違うものを作ろうという観点が俺を人がやらないような業界への興味を生み出した。しかし、その業界の内定を貰ったことを両親に告げると両親は俺を完全に否定した。絶対にその会社に入ることを許さなかった。死んでも絶対にダメだと。電話までされた。そして、俺はその内定を蹴った。

 そこからいろんなことがすべてうまくいかなくなった。その後の就職活動は行き詰まり内定が貰えず、頼みの綱の小説の新人賞も空振りに終わりいよいよ俺には何も残らなくなった。

今日もこの季節はずれの暑さで汗ばむ中、スーツを着てネクタイを締めて東京駅を経由して会社説明会へ向かう。

 放心状態の俺はこのままでいいのだろうかと自分で問いかける。

 俺の中の天使(前向き思考)が答える。

 このままでいいわけないよ。君の夢は小説家になること。毎日小説書けるのってすごいことだよ。それだけ没頭できるようなことを誰かに告げないと息が詰まってその夢が死んじゃう。まだ、夢をあきらめないで。

 と天使は俺に夢を追うように言う。しかし、俺の中の悪魔(後ろ向き思考)が反抗する。

 そんな夢をいつまでも胸の中で抱えているから就職活動もうまくいかないんだ。そんな夢をさっさと捨てて現実を見ろ。お前が全うな仕事に就かないとお前だけじゃない、先生や親の面子を潰すことになるぞ。

 現実を見ろと悪魔は言う。

 どちらも俺の考えだ。夢をあきらめたくない。だが、それでどこに就職できなくて俺以外の人に迷惑をかけるのだけは嫌だ。なら、どうすればいいのか?もうどうしていいか分からない。迷走中だ。その広がる社会という世界から俺は逃げたかった。この有限の世界に俺は嫌気が差してしまった。

 そして、気付けば俺は見覚えのないホームに立っていた。

「え?」

 そのホームは地下鉄のホームで人影はない。

 スマートホンを取り出して俺が乗り換えるべき路線を調べようとするが圏外になってしまっている。基本的に今は地下鉄の中でもネットにつなぐことはできる。ホームの中ならなおさら可能だがどうして圏外なのか?そして、俺は東京駅から出た覚えはない。人が常に集い目的地を目指して散るために絶えず人が行きかう東京駅で人がひとりもいないってどういうことだ?

 不信感と静まり返る不気味な空気にすぐにこの場から離れようと上へと伸びる階段を目指して歩き出す。腕時計を見て12時50分だ。会社説明会まで残り40分。東京駅からは10分くらいだが遅刻はしたくない。俺ではなく学校に迷惑が掛かるからだ。俺のためではなく学校と先生と親の面子を守るために俺は就職活動を続ける。

 そんなのでいいの?

 誰かが俺に問いかけた。

 思わず足を止めて誰もいないホームを振り返るがそこに誰かいるはずもない。

 と突如、ピンポンパンポンとチャイムがなる。そして、機械的なアナウンスが流れる。

「まもなく、0番線に当駅止まりの列車が参ります。黄色い線までお下がりください。この列車は折り返し12時53分発、無限南方行きとなります」

 無限南方?聞いたことのない駅名だった。俺は東京に住んでまだ4年目で知らない土地の名前も多く存在する。だから、その類だろうと思っていた。だが、ホームに入ってきた列車は勢いよくガスを引き出したような汽笛を鳴らしてがたがたと派手な音を立てながらまるでレールを叩いているかのような音を奏でながらやってきた。

「はぁ?」

 その車体を見て俺は足を止めてしまった。所々塗装がはげて赤錆が見える年季の入ったベージュの車体に赤色のラインが入った一両編成のディーゼル車両の列車はエンジン音を立てながらゆっくりと停車すると扉を開く。

 その列車は大都会東京を走るような列車ではなく俺の実家のある田舎で走るようなローカル列車だ。軽油で走るディーゼルエンジンの列車はこんな都会を走るわけがない。これだけ電力が豊富にある都会で電気を必要としない鉄道が走るメリットなんてない。

 そんな列車に誰が乗っているのかと思って中を覗けば、中には誰も乗っていなくて閑散としていた。そして、進行方向を照らして発色のライトが赤色になって後方となって逆ライトが赤だった後方が新工法へと変わりライトが発色に変わる。

 そして、誰もいないホームにベルが鳴る。そして、機械的なアナウンスが注げる。

「まもなく0線から無限南方行きの列車が発車いたします。閉まるドアにご注意ください」

 そのローカル列車は発車しようとしていた。俺の興味はその列車が大都会東京からどんな田舎へ向かうのかが非常に気になってしまった。その興味が俺の足を進めてその列車の中に吸い込まれる。俺が列車に乗ると扉がそのタイミングを見計らったように閉じた。

 一度、列車は汽笛を鳴らすとディーゼルエンジンのモーターを力いっぱい回して進み始める。座席に座ればそのモーターの振動がお尻に伝わりそうなそんな感じで電車は明るいホームを後にして地下をひたすら進む。近くの座席に座って窓に映る自分の姿を見る。きっちりネクタイを締めたリクルートスーツを身にまとう自分を見て。

「もう、どうだっていいや」

 とワイシャツの一番上のボタンをはずしてネクタイをはずす。

 そして、電車の中のアナウンスが次の停車駅を伝える。

「次は無限北方。無限北方」

 電車の天井には扇風機が設置されていて円を描くように首を回しながら回る。その風が吊り下げられた広告の紙を揺らすがその広告の紙は白紙だった。電車の壁に貼ってある広告も無限鉄道の求人だった。無限鉄道ってなんだよっていう疑問が浮かぶが次にとまる駅名からしてこの列車を運行する私鉄だろうと思って座席に座って次の無限北方町で降りて東京駅に戻ろうと考えた。それで今日の就職活動は終わりだ。研究室も行かない。好きな小説を書いて今日は寝ようと思っていたのにそれは叶うことはなかった。

 やがて、無限鉄道の車両は長いトンネルを抜けて外に出て俺はその日差しに目を細めた。そして、広がる世界に驚愕して思わず立ち上がる。ひざの上においてあったビジネスバックが床に落ちるのを気にしていられずに列車の外に広がる光景にただ目を奪われるだけだった。

「なんだよ・・・・・これ?」

 そこに広がるのは見渡す限りの薄ピンク色の水平線。海のような水辺の上に線路が引いてあってその上を電車は通る。空は海と同じ薄ピンク色で遠くを眺めているとどこまで空で海なのか分からなくなって気が狂いそうになる。

 そして、手動で開けることのできる窓を下げ開けて顔を外に乗り出す。かすかに潮に香りがした。そして、電車の上空にはカモメのような鳥が数羽列車に並走するように飛んでいた。その列車が目指す先にはその薄ピンク色の世界の中にあった唯一の別の色。灰色の町が見えた。

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