弐 『一人かくれんぼ』 1/5
こんばんわ!
どこの誰かはわかりませんが、前話でのブックマークありがとうございます。
章を作成する機能を試してみたいので二回目のテスト投稿、幽闇の刻(ゆうやみのとき、と読むよ。どうでもいいね!)第二話となります!
よろしくおねがいします。
君はコックリさんをやったことがあるだろうか?
やったことはなくとも、身近な人がやっているのを見たことや、聞いたことぐらいはあるだろう。
放課後の教室で仲のいい友達同士がこっそり集まって、大人たちに禁じられている遊びをする。
そこにあるのは背徳感や秘密を共有する甘美な感覚、そしていくらかの恐怖だ。
今さら説明するまでもないが、コックリさんというのは交霊術の一種で、霊を十円玉に降ろし、あれこれと質問をして答えてもらう遊びだ。
無邪気な子供たちの「Aは誰が好きですか?」というような質問に対して真摯に答えるその霊の姿は、微笑ましいものがあると思う。
だが人間にも善人と悪人がいるように、すべての霊がそういうわけじゃない。
稀にだが、とんでもない悪霊が降りてくる場合もあり、その危険性を考えればやっぱりやらないほうがいい。
とは言っても安全な遊びなんて面白くないけれど。
今回の話はおれこと河野康一が過去にやった交霊術に関する話だ。
当時のおれはことあるごとに、ろくでもない先輩たちに心霊スポットへ連れ回されたおかげで、少しは幽霊が見えるようになり、そういった類のものに慣れつつあった。
慣れというものは怖いもので、大学に入ってから三ヶ月の間でおれはすっかり幽霊の存在を疑わなくなった。
だがここで新たな問題が生まれる。
それは幽霊の存在を感じられるようになればなるほど、最初のころにはあった恐怖感が薄れていったことだ。
そのころ、むしろおれは幽霊が見えることを面白がっていた。
何か不思議な現象に出会うたび、自分の使われていなかった感覚が研ぎ澄まされていくのを感じた。
今まで目の前を覆っていた濃霧がじわりじわりと晴れていき、視界が少しずつ広がっていく。
ただ単純に、見えないものが見えてくるということが快感だった。
この濃霧が完全に晴れたとき、その先には何が見えるのか?
当時のおれはその瞬間が来れば、自分がどんな世界に立っているのか理解できると期待していた。
しかし、果たしてそれを理解することが本当に素晴らしいことだろうか?
そんなことをしなくとも、そこそこに幸せな毎日は過ごせる。
だが霧の晴れた光景が見るに堪えない恐ろしいものであったなら、その人はどうすればいいだろ?
世界をクリアにしていくのは大切なことだと思うが、それと同時に、晴れた霧は元には戻らないということを、肝に銘じておかなければならない。
◆
『一人かくれんぼ』
七月。
入学式のころ咲き誇っていた桜はすべて葉に変わり、正門前の並木道は緑であふれている。
その並木道から空を見上げれば、陽光が葉の鮮やかな緑を浮かび上がらせ、同時に飛び込んでくる空の青さや入道雲の白さが、目に焼き付いてしまいそうだ。
さわやかな風は木々の枝をさえずらせ、その音がまた風に乗ってどこまでも響いていく。
そして、その初夏の訪れを感じさせる景色とは対照的に、そこを歩いているおれの顔はこれ以上ないくらい土気色だった。
理由は色々ある。
第一に心霊スポット巡りだ。
どうやら世の中にはおれが考えているよりはるかに多くの心霊スポットが存在しているらしい。
新歓以来、タチの悪い先輩二人に気に入られてしまったおれは、二人が心霊スポットに行くたびに一緒に連れ回されていた。
それはそれで楽しいのだが、家に帰って独りでいると、頻繁に金縛りやラップ現象に見舞われるようになった。
あまりに頻繁に起こり過ぎるので怖さは薄れていったが、最近どうも疲れが取れない。ずっと両肩が重いような気がする。
そのことを二人に相談してみても、「放っておけばなんとかなるよ」というような返事しか返ってこない。
本当に何とかなるんだろうか?
そして、最大の原因がしょっちゅう開かれる飲み会だ。
自分で言うのも説得力にかけるが、おれはだいぶ飲めるほうだと思う。
少なくとも飲めないほうじゃない。
その辺の大学生たちとペースを合わせて飲んでもまず潰れない自信がある。
だが問題なのはこの先輩二人がとんでもない酒豪で、しかも大の酒好きであるということだ。
その飲みっぷりを見ていると、ウワバミというのはこういう人たちのことを言うんだなぁと実感する。
特筆すべきは狐宮由花子という女の先輩で、この人は女なのにもかかわらず酒を水のように飲む。
ちょっと心配になるくらい飲む。
見ていて気持ち悪くなるくらい飲む。
それでいて顔色はまったくと言っていいほど変わらない。
もう一人のやたらガタイのいい井上形兆という先輩も、かなりの酒豪だがそれはまだ人間の域の話で、あれはもう人の域を超えている。
それでももしかしたら、いくらかは酔っぱらっているのかもしれないが、基本的に酔っぱらっているようなテンションでいることが多いので、その判断がつかない。
そんな酒豪たちに加えて、大学の近くに井上さんの知り合いがマスターをしているバーがあるときたものだから、おれたちは暇さえあればそこに入り浸っていた。
一週間の授業が終わったその日も、おれたち三人と井上さんの友達二人を加えて大いに飲んでいた。
もしかすると、その日おれは生涯で一番酔っぱらったことになるのかもしれない。
始めのうちは普段通り楽しく飲んでいたのだが「ショットガン・パーティしようぜー!」という由花子さんの掛け声とともに、棚に置いてあったテキーラ数本と、店の使い古されたトランプがおれたちのテーブルに置かれたとき、もう飲み会は飲み会という名の殺し合いになっていた。
ショットガンというのはお酒の飲み方のことで、一気飲みを横文字にしたようなものだと考えてくれれば大体あっている。
これにブラック・ジャックで負けた者は一杯飲む、という鬼のようにゲーム展開の早いルールが加わり、恐怖のショットガン・パーティが始まった。