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玖 『トゥルパ』 10/10




 今回の後日談。


 あるいは私に彼氏と彼女ができたワケ。


「うわーん!」

「……」

「えーん!」

「……」

「びえーん!」

「……」

「びゃー!」

「ね、ねぇ璃々佳ちゃん……落ち着きなって。そろそろ一時間くらい泣いてることになるよ? 身体にも障るだろうしさ」

「ずるいですよぉー! ヤマーさんだって私の気持ち知ってるでしょー! なのにこんなこと言うなんてー!」

「いやだからこそだよ。私もここ数日ずっと考えたけどさ。先輩と付き合うようになったことを璃々佳ちゃんに黙っておくことこそ変じゃん?」

「ひえーん! そうじゃないですー!」

「どういうこと?」

「私とも付き合ってくださいよ! 彼女にしてぇ! ね!? 後生ですからぁ!」

「後生ですからって使う人、初めてだよ……」

「だいたいですね。性別の壁を越えた恋愛なんてうまくいくわけないじゃないですか?」

「いや! 普通は性別の壁は越えていくんじゃない?」

「どこの普通ですか? 普通ってなんなんですか? 普通の恋愛がそんなに偉いんですかー!?」

「璃々佳ちゃん、落ち着いて……」

「私のことなんて放っておいてあいつと仲良くしてればいいじゃないですかー!」

「痛、痛いって、ぶたないで――」

「男と付き合うなんて退屈なだけですよ! 私は知ってるんですから!」

「え? 付き合ったことあるんだ?」

「そりゃあ……まぁ……試してもいないのに結論を出すのは早いかなーとか思うじゃないですか」

「へぇ。璃々佳ちゃん可愛いもんね」

「あ、でも安心してください。貞操は死守してますから。超ドレッドノートパーフェクトベリーベリー限界バリバリ級の処女ですから私」

「聞いてないよ! どんな等級なのそれ?」

「ヤマーさんのほうこそ、女の子と付き合うのはこれで初めてじゃないんでしょう!? だったら私とも付き合ってください。付き合って付き合って付き合ってー!」

「なんで知ってるの!?」

「え、調べました」

「!?」

「広瀬さん小林さん片桐さんたちからお話を聞いてきましたよ」

「だからなんで知ってるの!? 怖いよ!」

「強引にアポとったんで最初はなかなか喋ってくれなかったんですけど……」

「怖い怖い怖い!」

「三次会のカラオケでやっと打ち解けまして――」

「メッチャ仲良くなってるぅー!」

「驚きましたよヤマーさん」

「驚いたのはこっちだよ!」

「まさか三股もしてたなんて……」

「うっ!」

「でもそういうワイルドな、ヤルときはヤルってところもヤマーさんの魅力ですよね」

「いや、それは、その……なんというか、合意の上というか、断りきれなかったというか……」

「三股してたのにだーれもヤマーさんのことを悪く言わないのにも驚きましたよ。今でも皆さんとっても仲良しで、またヤマーさんに会いたいって言ってました」

「う、うん。そうなんだ……」

「……」

「……」

「だ、か、らぁ、いいじゃないですかぁ」

「甘い声出しながら抱きつくの禁止!」

「ちぇー。なんでそんなに嫌がるのかわかんないです。減るもんじゃないし、むしろ増えるんですよ」

「それが問題なんだよ!」

「女の子だって嫌いじゃないんでしょう? 私とっても素直ですからいくらでもヤマーさん色に染めてもらってかまいません」

「素直かなぁ?」

「ヤマーさんのご命令ならなんでも聞きます。どんなハーコーなプレイも辞さない覚悟です」

「人を変態みたいに言わないで。ノーマル! どノーマルだから!」

「セックスは同性同士が一番気持ちいいらしいですよ?」

「やめて! 璃々佳ちゃんとは清らかな付き合いでいたいんだから! そういうこと言っちゃダメだから!」

「じゃ、じゃあ、あのご三方たちとは清らかな付き合いではなかったと」

「……キヨラカダヨ」

「私の目を見て言ってください! ……ちょ、なに両耳塞いでるんですか!?」

「あーあー! 聞こえなーい!」

「う、くぅっ……! ずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいー!! 私もヤマーさんと淫らなこといっぱいしたいよー!」

「声デカいよ! 外の人に聞こえかねないよ!」

「どうしてダメなんですか! 答えてください!」

「どうしてもなにも……浮気になるじゃない」

「浮気じゃないですよ! いいですかヤマーさんよーく考えてみてください。一人の女の子に対して彼氏が二人、男一人に彼女が二人。これは浮気です。まったく許せない不埒な行いです!」

「そうだね。不埒だよ」

「今さらなに言ってんだって話ですけど、ひとまず置いときますね」

「……」

「ですが一人の女性に彼氏と彼女が一人ずつ、これはまったく浮気じゃありません。ほら図にしてあげますからよく見て!」

「えぇ……」

「こうしてこうで――ほうら! 私たちのケースは三角形にならないじゃないですか? 直線! 直線です! まっすぐなんです! 私たちの気持ちは!」

「いやそれ璃々佳ちゃんの図がおかし――」

「だからいけますって! 浮気になんてならないですって! まっすぐなだけですから!」

「ごめん。全っ然意味わかんない」

「もー! もー! もー!」

「あ、今のすっごい可愛いかった」

「誤魔化されませんよヤマーさん!」

「……」

「この際はっきり聞きますけど、私とあいつどっちが大切なんですか?」

「それはずるいよ。だってどっちも大切だし……比べることなんてできないよ」

「でもあいつとは付き合って私とは付き合わないと」

「それはさ。好きのベクトルがちがうって話でさ」

「要するにヤマーさんの独断ってわけですよねそれ」

「……独断っちゃ独断だけど。独断にしかなりようがないと思うん……あれ、璃々佳ちゃん、誰に電話してるの?」

「……あ、もしもし。河野先輩ですか? 川尻です。お疲れさまです。今ちょっと電話いいすか?」

「よくないよくない! ちょっとぉ! トイレに逃げないでよぉ!」

「単刀直入に言いますよ」

「言っちゃダメだから!」

「私とヤマーさんの交際を認めてください認めなかったらどうなるかおまえわかってん――え。あ、あ、えっと。はい。はい。ええ、わかりました。はい。なんかいきなり電話しちゃってすいません。はい。お疲れさまでした」

「……」

「……」

「……」

「ヤマーさん。そんな見つめないでください。私、照れちゃいます」

「にらんでるんだよ!」

「いいそうです」

「は?」

「私とヤマーさんの交際を認めるそうですよ、あいつ」

「はぁ!?」

「なかなか話のわかる奴ですね、見直しましたよ」

「見直すとこおかしいよ! むしろちょっと嫌になったよ!」

「やったぁ!」

「やってないから!」

「これで晴れて私たちも恋人同士ですね! サークルメンバーに先を越されないよう、前世では非恋で終わってしまった私たちが今生でやっと結ばれたんだって嘘ついてたんですけど、それも今日で終わりだと思うとほっとします」

「ちょっと待ってそれはあとで問いつめるとして。今は――ちょっと先輩! どういうことですか!」

「なにがだ。何時だと思ってるんだよ。眠いんだ俺は――」

「お昼だよ! 正午! 十二時です!」

「あぁ……わかったわかった。少し声のトーンを落とせ。受話器を耳に当てられん」

「あ、はい。わかりました」

「そうそう、それくらい」

「で、さっきの話なんですが」

「いつだ」

「私と璃々佳ちゃんの交際についての話です」

「あぁ」

「あぁって……リアクション薄すぎません?」

「まぁ、その、君の気持ちもわかるんだが……許してあげるわけにはいかないか」

「っていうか許すも何も理解が追いつかないんですけど」

「いやさ。俺は正直、君のことが好きなのかどうかよくわからんのだ」

「ひど!」

「待てって! 嫌いではないんだ! むしろ一緒にいて楽しいし、君のことを綺麗だとも可愛いとも思う」

「……」

「俺と君じゃそもそも釣り合ってないって。俺にはいい女過ぎるんだぞ君は。自覚ないのか?」

「……」

「だから正確に言うと、俺がどうこうというよりも、君が俺のなにを好きなのか全然わからん。それなのに恋愛が成立するのか? 俺はしばらく考えた」

「結果は?」

「わからん。だから付き合ってから考えることにした」

「斬新というか……適当というか……あの、先輩? 私、これでも一世一代くらいの真剣な気持ちで告白したんですよ」

「わかっている。信じてもらえないかもしれんが俺も真剣だ」

「タチ悪いっすね……」

「真面目な話をするとな。俺みたいな無職で精神病でオッサンに片足突っ込んでいるような奴に、君みたいな前途有望な女の子が引っかかって欲しくないんだよ。俺が君の親父だったらぶん殴ってでも止めるぞ」

「え? 精神病とオッサンはいいとして、無職って?」

「ああ、大学図書館、クビになったんだ」

「聞いてないです」

「言ってないもん」

「……」

「あんだけ欠勤したんだから当然といえば当然だな」

「……」

「な、やめとけって。俺はたぶん君をダメにする」

「いいですよそれくらい! 私が食べさせてあげますから!」

「ちょっヤマーさん、さっきからなんの話してるんですか!?」

「本当それ。落ちつけって。たまには良いこと言うよな川尻って」

「うるさいうるさい! どんとこいですよ! そんなこと私だって覚悟しているんですから! いいですか先輩、私があなたを好きだっていう気持ちを馬鹿にしないでくださいね! 大好きですから!」

「あ、ありがとう……。だが、それとこれとは話が別だ。恋愛は将来の話でもあると俺は思っている」

「そこは同意しますが」

「今のところ、俺に将来性は皆無だ。スキルもないし、健康ですらない。けれど君はそんな俺のことを好きだと言ってくれる。川尻はとても頭がキレる、可愛くて若さもあるし君のことが大好きだ。将来性は比べるべくもない」

「はぁ」

「だから、とりあえず彼氏と彼女の二足の草鞋でいいんじゃないか?」

「二足の草鞋の使い方おかしくありません?」

「そうかもしれん」

「先輩はそれでいいんですか?」

「正直に言えばよくはないが……相手が男じゃないだけギリギリ許せるって感じだ」

「私もよくはありませんが……ひとまずここで手を打ちましょう」

「ちょっ、勝手に手を打たないで! 盗み聞きしないでよ璃々佳ちゃん!」

「君はどうなんだ? 大切な彼女が嫌と言うなら、俺だって無理強いはできないが」

「そりゃあその――」

「でも君のことだから、どうせ俺も川尻もどっちも大切とか言ってるんだろう?」

「う!」

「図星か」

「……」

「じゃあ、それは嘘だったのか?」

「嘘じゃないですけどぉ……」

「責めてはないんだ。いいじゃないか、どっちも大切、大いにけっこう。誰も不幸にはなってないんだし、とりあえずはさ」

「……」

「ではぁ、ヤマーさん。早速ですが……」

「え、なんで脱ぐの?」

「私はバリネコなので……その、優しくしてくださいね。彼女として、これからも末永くよろしくお願いします」

「俺も改めて君の彼氏としてよろしく頼むよ。愛してるぜ、路希。あ、電話は切らないでください」

「……。………………………………うーん」


 まぁ……これで、いい……のかなぁ……?



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