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王様の放浪日記

月のある景色

作者: 東雲 一鞠

 薄汚れた街の上空に、ぽっかりと月が浮かぶ。

 喧騒と静寂の間に挟まれた場所に位置するこのマンションは、驚くほどに人の気配が感じられない。壁の色も街並みも、何もかもが中途半端なこの場所で、外廊下の塀にうまく切り取られたこの景色だけが、際立って美しい。四角の中には、わずかな明かりと、四角錐の屋根、ほんのりと赤い月が写るのみだ。遠くから、犬の鳴き声が聞こえる。風が耳をくすぐる。

 煙草に火をつけ、煙を肺に入れる。吐き出した煙が月に取り巻いて、光を霞めた。時折、マンションの前をバイクが走る。エンジンの音が、澄んだ空気を震わせる。手持無沙汰なのを騙すように、紫煙をくゆらせた。

 背後にある扉の向こうから、どたんばたんと賑やかな音が聞こえる。相変わらず、騒がしい場所だ。煙草の火を消し、鍵穴に鍵を挿す。扉を開くと、月よりも眩しい光と、耳に突き刺さりそうなほどの騒がしい空気が飛び込んできた。えも言われぬ安心感に包まれながら、何の飾りもついていない、ありふれた素朴な言葉を、その中にぽん、と放り投げた。


「ただいま」

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